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第七十三話
彩光界建国記念日・その三
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ノックもせず、ドアを蹴破る程の勢いで入って来たリアンに驚く。奴が髪を振り乱す姿、初めて見た。俺の無事を確認しホッとした様子だ。
次の瞬間、殆ど消えかかっているクリアグリーンの光の天使を息を呑んで見つめている。彼のこの一連の行動を見ただけで、先程の一件は惟光様を語る偽物の罠、という事は確定だな。
「クリアグリーンの光……大天使ラファエル、ですか?」
リアンがそう言葉を発した時にはもう、光の天使は消えていた。
「一応、大天使ラファエルを思い浮かべました」
「そうでしたか。それは良いアイデアだと思います。ラファエルは治癒やヒーリングを司りますし、神が人間を創造すると決めた際、唯一人間に好意的な姿勢を見せた天使だという伝承がありますから」
あぁ、ミカエルもガブリエルもウリエルも、神が人間を創造する事に否定的意見だった、てやつか。初めてその話しを読んだときは、ラファエル以外の天使たちは、『これ以上我々の仕事を増やすんじゃねーよ』って感じだったのかな、なんて思ったりしたもんだが……。
「……この件は、後ほどもう少し詰めましょう。それより、あなたが無事で良かった……」
彼は心底ホッとした、というように溜息をついた。そして右手で乱れた髪を撫でつける。髪、ガッチガチに固めてあるのかと思ったけど、そうじゃなかったんだな……。血相変えて駆けつけてくれるなんて、めちゃくちゃ有り難いなぁ。
「今回は何とか難を逃れられて良かった。どこかで異変を感じ取ってくださったのですか?」
と、先ずは聞いてみる。
「ええ。こちらの部屋を出て、調べ物の続きをしようと思ったのですが、ふと左手首が熱く感じましてね。何事かと思って見てみると、左手首に魔法文字が銀色に浮かび上がっているのですよ。害がある感じではなく、何かを知らせているような印象を受けましたね。すぐに、その魔法文字は惟光様のブレスレットと同じだと気付いたのです」
「それって。このブレスレットが知らせてくれた、て事になりますかね?」
凄いじゃないか! フォルス! 自分の意思で俺を助けようと動いてくれたのか? 左手首がじんわりと熱く感じた。
「ええ、そう捉えて間違い無いと思いますね。それで、何かあったのだろうかと、部屋に意識を向けると……禍々しい結界が張られていて中の様子が視えなくなっていたのでね」
な、何だって?!
「禍々しい結界???」
「ええ、禍々しく感じました。まるで憎悪で出来上がっているのかと思うくらいにね」
とリアンは眉をひそめる。今更ながら、ゾーッと背筋が寒くなってきた。あのまま言いなりに呪文を唱えていたら、どうなっていただろう?
「何があったのか。聞かせて頂けますか?」
彼の言葉に大きく頷いた。
「実は、殿下のお声が耳に響いて来まして」
「何ですと?」
途端に鋭い目付きになる。こえーよリアン、まぁ、それだけゆゆしき事態、て事なんだろうけど。
「はい、本物かと思うくらいによく似ていました」
「その声は何と?」
「秘密の場所においで、と。たまたま時間が空いたから、二人でゆっくり過ごそう、と。危うくその誘いに乗ってしまうところでした」
「踏みとどまった理由は?」
「何となく覚えた違和感です。殿下のスケジュールを鑑みると、どうも変だ、と感じました」
「なるほど……」
腕組みをしたリアン。俯いてしばらく考え込む。やがて重々しく口を開いた。
「この部屋に施された結界の合間を縫って入り込めるなんて、エターナル王家の縁の者である事に間違いないでしょうね。それと、もう一つ考えられるのは……『幻の王位継承の秘宝』を手に入れた者かもしれません」
「『幻の王位継承の秘宝』?」
「はい。長年、研究者たちによって検証や探索が繰り返されてきましたが、伝説に過ぎない、という結論が出ていました。実はもう一つ秘宝が存在する、と言われてきたのです」
何だ何だ? 話がややこしい方向に……?
次の瞬間、殆ど消えかかっているクリアグリーンの光の天使を息を呑んで見つめている。彼のこの一連の行動を見ただけで、先程の一件は惟光様を語る偽物の罠、という事は確定だな。
「クリアグリーンの光……大天使ラファエル、ですか?」
リアンがそう言葉を発した時にはもう、光の天使は消えていた。
「一応、大天使ラファエルを思い浮かべました」
「そうでしたか。それは良いアイデアだと思います。ラファエルは治癒やヒーリングを司りますし、神が人間を創造すると決めた際、唯一人間に好意的な姿勢を見せた天使だという伝承がありますから」
あぁ、ミカエルもガブリエルもウリエルも、神が人間を創造する事に否定的意見だった、てやつか。初めてその話しを読んだときは、ラファエル以外の天使たちは、『これ以上我々の仕事を増やすんじゃねーよ』って感じだったのかな、なんて思ったりしたもんだが……。
「……この件は、後ほどもう少し詰めましょう。それより、あなたが無事で良かった……」
彼は心底ホッとした、というように溜息をついた。そして右手で乱れた髪を撫でつける。髪、ガッチガチに固めてあるのかと思ったけど、そうじゃなかったんだな……。血相変えて駆けつけてくれるなんて、めちゃくちゃ有り難いなぁ。
「今回は何とか難を逃れられて良かった。どこかで異変を感じ取ってくださったのですか?」
と、先ずは聞いてみる。
「ええ。こちらの部屋を出て、調べ物の続きをしようと思ったのですが、ふと左手首が熱く感じましてね。何事かと思って見てみると、左手首に魔法文字が銀色に浮かび上がっているのですよ。害がある感じではなく、何かを知らせているような印象を受けましたね。すぐに、その魔法文字は惟光様のブレスレットと同じだと気付いたのです」
「それって。このブレスレットが知らせてくれた、て事になりますかね?」
凄いじゃないか! フォルス! 自分の意思で俺を助けようと動いてくれたのか? 左手首がじんわりと熱く感じた。
「ええ、そう捉えて間違い無いと思いますね。それで、何かあったのだろうかと、部屋に意識を向けると……禍々しい結界が張られていて中の様子が視えなくなっていたのでね」
な、何だって?!
「禍々しい結界???」
「ええ、禍々しく感じました。まるで憎悪で出来上がっているのかと思うくらいにね」
とリアンは眉をひそめる。今更ながら、ゾーッと背筋が寒くなってきた。あのまま言いなりに呪文を唱えていたら、どうなっていただろう?
「何があったのか。聞かせて頂けますか?」
彼の言葉に大きく頷いた。
「実は、殿下のお声が耳に響いて来まして」
「何ですと?」
途端に鋭い目付きになる。こえーよリアン、まぁ、それだけゆゆしき事態、て事なんだろうけど。
「はい、本物かと思うくらいによく似ていました」
「その声は何と?」
「秘密の場所においで、と。たまたま時間が空いたから、二人でゆっくり過ごそう、と。危うくその誘いに乗ってしまうところでした」
「踏みとどまった理由は?」
「何となく覚えた違和感です。殿下のスケジュールを鑑みると、どうも変だ、と感じました」
「なるほど……」
腕組みをしたリアン。俯いてしばらく考え込む。やがて重々しく口を開いた。
「この部屋に施された結界の合間を縫って入り込めるなんて、エターナル王家の縁の者である事に間違いないでしょうね。それと、もう一つ考えられるのは……『幻の王位継承の秘宝』を手に入れた者かもしれません」
「『幻の王位継承の秘宝』?」
「はい。長年、研究者たちによって検証や探索が繰り返されてきましたが、伝説に過ぎない、という結論が出ていました。実はもう一つ秘宝が存在する、と言われてきたのです」
何だ何だ? 話がややこしい方向に……?
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