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第九十四話
花回廊・後編
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「では、参ろうか」
心なしか、王太子殿下の声が少し弾んでいる様子だ。
「はい!」
何となく嬉しく感じで、勢いよくベッドをおりる。体が軽やかで、体力が充実している感じが嬉しかったのだ。今後の事……取り分け、いつ王子の元へ帰れるのかが物凄く気になる。でも、今はまだ聞くべき時ではない。今は二人だけの時に全力を傾けよう。
王太子殿下の後に続いてタチアオイの回廊を掻き分けて、ベッドを離れる。きっと、瞬間移動で行くのだろうな。
……と思ったのだが、王太子殿下はそのまま真っすぐに進んで行く。幽霊みたいに、壁を突き抜けて外に出るんだろうか。そう言えばこの部屋に来てすぐ眠っちまって、外の景色まで見ていなかったな。
王太子殿下は壁に突き当たる直前に軽く右手をあげて手の平を翳した。そういうさり気ない仕草もいちいちサマになっている。樹木で出来た壁は、翳された手の部分を中心に、つなぎ目の隙間からグニャリと溶けるようにして穴を開けた。開いた隙間は、ちょうどドアくらいの大きさだ。外だ、蒼天と樹木が見える! 王太子殿下はそこから外へ出ていく。へぇ? こういう魔術かぁ。俺も後に続いた。樹木は、溶けるというよりもそういう風に自然と曲った、という感じで。俺が完全に外に出ると、待ち構えていたように樹木は元の位置に戻って隙間は塞がった。
石畳の上を歩く。地面には白い砂が敷き詰められて、波打ったり年輪みたいに円が描かれていしている。そう、広大な日本庭園みたいな感じだ。外周は槐の木で囲まれており、石畳を中心に見て左右に楓や銀杏、椿、梅や山桜の木などがセンス良く配置されている。
楓は紅く、銀杏は黄金に。白梅の甘い香り、山桜の白さが蒼天に映える。春夏秋冬、その季節の最も美しい時が一つの空間で表現された魔法の日本庭園、という感じだ。
先を歩く王太子殿下の歩く速度が、心持ちゆっくりになった。歩きながら振り返る。
「……良かったら、なのだが……」
遠慮がちに声をかけた。月光を湛えた瞳が、はにかんだように俺を見ている。
「はい」
勿論、肯定の意味で返事をした。もう少し王太子殿下に近付こうと歩みを早めながら。
「その……この庭園はそなたと私しか入れないように結界を施してもあるのだが……」
何だろう? とても言いにくそうだ。いつもク-ルに流暢に言葉を操る王太子殿下が、珍しい……
「なんだ、その……良かったら、で良いのだが……」
あれ? 頬が少し赤く色付いてる? 抜けるような純白の肌が、桃の花びらみたいに染まっているような……。
「その……」
「はい、何でしょう?」
「……て……」
「はい?」
「……その、て、て……手を繋いで歩かぬか?」
「て? あぁ……手、ですか?」
あぁ、手を繋いで……て、えっ?
「すまぬ、無理にとは言わぬ」
少しだけ寂しそうに正面を向いた。何となく自分の右手を見る。なるほど、手を繋いで歩きたいのか。そうか、照れてたのか。
王太子殿下の意外な姿、なんだか可愛らいじゃないか。……なんて思ったのは、内緒だけど。
「王太子殿下」
声をかける。ゆっくりと振り返る王太子殿下に、おずおずと右手を差し出した。
心なしか、王太子殿下の声が少し弾んでいる様子だ。
「はい!」
何となく嬉しく感じで、勢いよくベッドをおりる。体が軽やかで、体力が充実している感じが嬉しかったのだ。今後の事……取り分け、いつ王子の元へ帰れるのかが物凄く気になる。でも、今はまだ聞くべき時ではない。今は二人だけの時に全力を傾けよう。
王太子殿下の後に続いてタチアオイの回廊を掻き分けて、ベッドを離れる。きっと、瞬間移動で行くのだろうな。
……と思ったのだが、王太子殿下はそのまま真っすぐに進んで行く。幽霊みたいに、壁を突き抜けて外に出るんだろうか。そう言えばこの部屋に来てすぐ眠っちまって、外の景色まで見ていなかったな。
王太子殿下は壁に突き当たる直前に軽く右手をあげて手の平を翳した。そういうさり気ない仕草もいちいちサマになっている。樹木で出来た壁は、翳された手の部分を中心に、つなぎ目の隙間からグニャリと溶けるようにして穴を開けた。開いた隙間は、ちょうどドアくらいの大きさだ。外だ、蒼天と樹木が見える! 王太子殿下はそこから外へ出ていく。へぇ? こういう魔術かぁ。俺も後に続いた。樹木は、溶けるというよりもそういう風に自然と曲った、という感じで。俺が完全に外に出ると、待ち構えていたように樹木は元の位置に戻って隙間は塞がった。
石畳の上を歩く。地面には白い砂が敷き詰められて、波打ったり年輪みたいに円が描かれていしている。そう、広大な日本庭園みたいな感じだ。外周は槐の木で囲まれており、石畳を中心に見て左右に楓や銀杏、椿、梅や山桜の木などがセンス良く配置されている。
楓は紅く、銀杏は黄金に。白梅の甘い香り、山桜の白さが蒼天に映える。春夏秋冬、その季節の最も美しい時が一つの空間で表現された魔法の日本庭園、という感じだ。
先を歩く王太子殿下の歩く速度が、心持ちゆっくりになった。歩きながら振り返る。
「……良かったら、なのだが……」
遠慮がちに声をかけた。月光を湛えた瞳が、はにかんだように俺を見ている。
「はい」
勿論、肯定の意味で返事をした。もう少し王太子殿下に近付こうと歩みを早めながら。
「その……この庭園はそなたと私しか入れないように結界を施してもあるのだが……」
何だろう? とても言いにくそうだ。いつもク-ルに流暢に言葉を操る王太子殿下が、珍しい……
「なんだ、その……良かったら、で良いのだが……」
あれ? 頬が少し赤く色付いてる? 抜けるような純白の肌が、桃の花びらみたいに染まっているような……。
「その……」
「はい、何でしょう?」
「……て……」
「はい?」
「……その、て、て……手を繋いで歩かぬか?」
「て? あぁ……手、ですか?」
あぁ、手を繋いで……て、えっ?
「すまぬ、無理にとは言わぬ」
少しだけ寂しそうに正面を向いた。何となく自分の右手を見る。なるほど、手を繋いで歩きたいのか。そうか、照れてたのか。
王太子殿下の意外な姿、なんだか可愛らいじゃないか。……なんて思ったのは、内緒だけど。
「王太子殿下」
声をかける。ゆっくりと振り返る王太子殿下に、おずおずと右手を差し出した。
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