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第百一話
あーもう、どうすりゃいいんだ!?・前半
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果たしてドアを開けたのは……ひょっこりと申し訳無さそうに覗き込み、黒いワゴンを押しながらおずおずと室内に足を踏み入れるエリックと、その後ろからやたら姿勢を正して歩くコバルトブルーの軍服姿の男だった。藍色の長い髪を後ろで一つに束ね、高身長、面長で色白、涼やかな目元はオリ-ブ。そう、何となく瑠璃色の花菖蒲を思わせる美形男子、王太子殿下近衛兵四天王の北を司るハロルドだ。
申し訳無さそうに近づいて来るエリックと、ツンとりすました表情のハロルド。何だか酷く対照的だ。
「食器を下げに来ました」
エリックはそう言って俺に一礼し、ワゴンに食器を乗せていく。その間、ハロルドは軽く頭を下げてエリックが食器を片付け終わり、テーブルを布巾で拭くのを静かに待っていた。
「では、これで失礼します。本日これより後はハロルドが引き継ぎます」
小豆色の瞳に、ほんの少し気拙そうな揺らめきを宿してエリックは言った。ハロルドは礼儀正しく一礼しただけで何も言わなかった。だから俺も軽く頭を下げただけに留めた。期間限定の特例で仕えてくれているだけの関係なんだしな。しかしこのハロルドって奴……この世界び来て、これまで無表情というかポーカーフェイスの美形を思い浮かべてみる。
まずはリアンだ。どうしてるかな、元気かな。そして王太子殿下。二人で歩いた庭園で、酷くはにかんで手を繋
ごうと言って来た様子は、意外にも身近に感じたし可愛らしくも思った。続いてダニエルにこのハロルドだ。みんな話して見ると以外にも表情豊かだったりすたものだけど、このハロルドはどうかな。何せ、文字通り挨拶とか事務的な会話しかした事がないからなぁ。無表情というよりも、『ツンとしたすまし顔』という表現がピッタリだと思う。
エリックが部屋を後にするのを見送りながら、ぼんやりとそんな事を思う。レオやノア、央雅はどうしているだろう? いつも胸の奥にひっそりと佇む、ベキリーブルーガーネットの瞳の持ち主の事は、その名前さえも考えないようにしていた。そこに意識を合わせれたら、恥も外聞も捨て去ってすぐに飛んで帰りたくなるから。本当は、皆に会いたい。だけど、自分で決断した事に責任を持つべきだ。
それで、さっきから俺を見つめるオリーブグリーンの双眸はそのまま動かないのは何故だ? 微動だにせず、ただ俺を凝視している。気拙い事この上ない、どうしたらいいか分からん。沈黙に押しつぶされそうだ。まさか、どちらは先に根を上げて声をかけるか、勝負している訳じゃねーよなぁ。そんな意味不明の勝ち負けなんて知った事じゃないし。何か言いた事があるんだったらサッサと引き出してしまおう。
「……何か?」
出来るだけ穏やかに切り出した。
「失礼致しました。惟光様にお伝えするか否かを迷っておりまして。また、お伝えするにしてもどのようにしてお伝えしたら良いのか分からず、考え込んでおりました」
ハロルドは堰を切ったように話始めるが、相変わらずツンとしたすまし顔のままだ。まるで人形がしゃべっていいるようだ。それはさておき、話の内容は予想通りだ。恐らく、風評に関する事とみた。
「その話したい内容とは、つい先程知った事なのですか?」
「……何故、そう思われるのでしょう?」
俺の問いかけに、初めて表情が変わる。解せない、というように眉をひそめる。表情が変わった事に、ちょっとホッとした。
「だって、以前から話そうと思っていたら、伝えようかどうしようか迷う事もないでしょうし。そしたらとっくに切り出している筈だ。ですが自分を前にして迷うという事は、その話の内容はつい先ほど知って、それについて思うところがあった、と言う事でしょう。だからエリックと交代した、違いますか?」
王太子殿下を特に崇拝している、と言ったエリックの言葉を思い出す。今日は夜までエリックが担当してくれる予定だったし、終始気拙そうにしていた様子からしてこの予想は外れていないと思う。
「……その通りです。随分と失礼な態度でした。お詫び申し上げます」
と深々と頭を下げる。こういう所、やはりプロだ。
「いいえ。それで、その伝えたい事とは?」
彼は顔を上げた途端、挑むような目付きに変貌を遂げた。オリーブ色の瞳が、燃えるように強い光を宿す。
「なるほど、噂に違わず……。驚きの洞察力ですね」
何故か面白くなさそうに言う。だからちっとも褒められた気がしない。それどころか敵意さえ感じる。何だ? 一体?
申し訳無さそうに近づいて来るエリックと、ツンとりすました表情のハロルド。何だか酷く対照的だ。
「食器を下げに来ました」
エリックはそう言って俺に一礼し、ワゴンに食器を乗せていく。その間、ハロルドは軽く頭を下げてエリックが食器を片付け終わり、テーブルを布巾で拭くのを静かに待っていた。
「では、これで失礼します。本日これより後はハロルドが引き継ぎます」
小豆色の瞳に、ほんの少し気拙そうな揺らめきを宿してエリックは言った。ハロルドは礼儀正しく一礼しただけで何も言わなかった。だから俺も軽く頭を下げただけに留めた。期間限定の特例で仕えてくれているだけの関係なんだしな。しかしこのハロルドって奴……この世界び来て、これまで無表情というかポーカーフェイスの美形を思い浮かべてみる。
まずはリアンだ。どうしてるかな、元気かな。そして王太子殿下。二人で歩いた庭園で、酷くはにかんで手を繋
ごうと言って来た様子は、意外にも身近に感じたし可愛らしくも思った。続いてダニエルにこのハロルドだ。みんな話して見ると以外にも表情豊かだったりすたものだけど、このハロルドはどうかな。何せ、文字通り挨拶とか事務的な会話しかした事がないからなぁ。無表情というよりも、『ツンとしたすまし顔』という表現がピッタリだと思う。
エリックが部屋を後にするのを見送りながら、ぼんやりとそんな事を思う。レオやノア、央雅はどうしているだろう? いつも胸の奥にひっそりと佇む、ベキリーブルーガーネットの瞳の持ち主の事は、その名前さえも考えないようにしていた。そこに意識を合わせれたら、恥も外聞も捨て去ってすぐに飛んで帰りたくなるから。本当は、皆に会いたい。だけど、自分で決断した事に責任を持つべきだ。
それで、さっきから俺を見つめるオリーブグリーンの双眸はそのまま動かないのは何故だ? 微動だにせず、ただ俺を凝視している。気拙い事この上ない、どうしたらいいか分からん。沈黙に押しつぶされそうだ。まさか、どちらは先に根を上げて声をかけるか、勝負している訳じゃねーよなぁ。そんな意味不明の勝ち負けなんて知った事じゃないし。何か言いた事があるんだったらサッサと引き出してしまおう。
「……何か?」
出来るだけ穏やかに切り出した。
「失礼致しました。惟光様にお伝えするか否かを迷っておりまして。また、お伝えするにしてもどのようにしてお伝えしたら良いのか分からず、考え込んでおりました」
ハロルドは堰を切ったように話始めるが、相変わらずツンとしたすまし顔のままだ。まるで人形がしゃべっていいるようだ。それはさておき、話の内容は予想通りだ。恐らく、風評に関する事とみた。
「その話したい内容とは、つい先程知った事なのですか?」
「……何故、そう思われるのでしょう?」
俺の問いかけに、初めて表情が変わる。解せない、というように眉をひそめる。表情が変わった事に、ちょっとホッとした。
「だって、以前から話そうと思っていたら、伝えようかどうしようか迷う事もないでしょうし。そしたらとっくに切り出している筈だ。ですが自分を前にして迷うという事は、その話の内容はつい先ほど知って、それについて思うところがあった、と言う事でしょう。だからエリックと交代した、違いますか?」
王太子殿下を特に崇拝している、と言ったエリックの言葉を思い出す。今日は夜までエリックが担当してくれる予定だったし、終始気拙そうにしていた様子からしてこの予想は外れていないと思う。
「……その通りです。随分と失礼な態度でした。お詫び申し上げます」
と深々と頭を下げる。こういう所、やはりプロだ。
「いいえ。それで、その伝えたい事とは?」
彼は顔を上げた途端、挑むような目付きに変貌を遂げた。オリーブ色の瞳が、燃えるように強い光を宿す。
「なるほど、噂に違わず……。驚きの洞察力ですね」
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