その男、有能につき……

大和撫子

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第百十三話

花の檻・後編

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 ……全身が宝石で出来たいみたいな……幸福の王子? いや、童話じゃなくて……

 ドクン、と心臓が跳ねる。……王子だ! そう、王子……

 ドクドクと全身が脈打つ。そうだ、王子。恐らく、恐らく……? 何だろう、ここまで出かかっているのに、あ-クソッもどかしい。

 いや、焦るな……落ち着け。フル-トを思わせる声、軽く波打つ黄金の髪に、真珠を想わせる肌、宝石で出来たような美形。唇は……唇は、宝石だから珊瑚とか? いや、違うな……もっと、こう……透明感があって。

 そうだ、宝石を調べてみよう。煮詰まった頭の気分転換にもなるし。

 早速立ち上がり、机へと移動しようとしてランチが手付かずだった事を思い出す。行儀が悪いと思いつつも、オムライスとミネストローネを持って行った。体を動かしていないせいか、さほど腹は空いていない。だが、残すのは申し訳ない。更にいつ誰が部屋に入って来るか分からないから、早めに調べて履歴を消しておきたい。

 機械的にオムライスを口に運ぶ。先ずは唇を形作る宝石を。薄紅色の、透き通るような……。色々なピンクの色合いの宝石が、画像付きでズラリと並ぶ。ピンクダイアモンド? 違うな、パパラチア……違う、ピンクサファイア……

 ドキッとした。そうだ、これだ! 嬉しくなってミネストローネをかきこみながら、その人の瞳の色を思う。

 知っている。ドキリとするような深い青さを。情熱的な深紅を……。そして菫のような優しい紫を。じわり、じわりとペンダントトップとブレスレットが熱くなる。それに比例して鼓動が高鳴る。

 知っている、知っている……時折虹彩に薔薇の花が咲いていたり。気分によって、優しい藤色になったり。時にロンドンブル-みたいに、くすんだ青になったり。

 そうだ、瞳の色は変幻自在。宝石に例えたら……『ベキリ-ブル-ガ-ネット』名前は……名前は……ドクドク、ドクドク、と心臓が壊れたみたいに拍動する。頭がガンガンして目が回る。

 知っている、知っている……名前は、名前は……ロシア語で「光源」を意味する……『ラディウス』様だ。俺の、大切な……

 続いて浮かぶ、リアン、央雅、レオ、ノア……。脳内に心臓が出来たみたいにドクドクと脈打ち、激しい痛みが伴う。意識を手放す前に、この記憶を忘れてなるものか! 頼む、フォルス。そしてペンダントに意識を向けた。

 ……記憶を取り戻した事、悟られぬよう防御を……

 意識が遠のく寸前、聞こえるドアノックの音。返事を待たずに、勢いよくドアが開き……

 プツリと目の前が暗転した。

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