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第百二十一話
破壊と夢と現実と……・前編
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大きく溜息をつき、虚空を見上げた。見上げても、目に映るのは鏡張りだと錯覚するような金剛石の壁しかない。
ぼんやりとソファに身を投げ、再び溜息をついた。時を知らせる時刻も、また身近な、或いは世界情勢も。全てこの空間には、知ろうと思えばすぐに知る事が出来る。時計から、或いはパソコンから……。
けれども、相変わらずラディウス王子に関する事は一切情報は伏せられたままだ。それは、俺が全てを思い出しているのを知っていてそうしているのか、それとも俺が思い出している事など承知の上で敢えてそうしているのかは今のところ分からない。……分からないけれども、いずれは何らかの形でハッキリとさせないといけない。そして本来は理知的で聡い国王の事だ。心の奥底ではきっと、このままでは良いとは思っていないのではないか……。そさすがにれは、いささか都合良く考え過ぎかもしれないけれど。
それにしても、以前見た国王の母君……恐らくそうだと思うけど……の夢は何か意味があるのだろうか。それともあの頃の、慣れない環境での緊張と不安が見せただけの夢に過ぎないのだろうか。一見もの凄く意味有り気に見えてその実、ただの夢だった……うーん、有り得るよなぁ。
ん? おや……?
取り留めもなく色々な事に思いを馳せていたが、にわかに何やら食慾をそそる香りに座り直す。テーブルの上には食事がズラリと並んでいた。時計を見る。正午を少し過ぎたところだ。メインはカツカレー。ほうれん草とトマトの生サラダに、飲み物はマンゴーラッシー……といったところか。
カツカレーは、正直言ってあまり好みではない。カレーはカレー、カツはカツで食べたい派だ。高月家では、もっぱら弟第一主義だったから、カレーと言えばカツカレーが好きだった弟に合わせていたが。食欲があまり湧かずにいたけれど、残せば家族全員から嫌味を言われるは分かっていたので、胃の中に黙々と流し込んだのを思い出す。それに、体を動かしていないせいか、今はさほど腹も空いていない。働いていないのにも関わらず、用意して貰ったのだ。残すなど出来る筈もない。有り難く頂くとしよう。取り敢えず、今は咀嚼と嚥下だけに集中だ。
……レオとノアは、元気だろうか。リアンや央雅は、どうしているだろう。王子は、今日も公務かな……
考えてみたら、この世界に転移して来てそれほど時が経っていない事に軽く驚く。そんな事を考えていたら、カツカレーはしっかりと食べ終えていた。あとはサラダと飲み物が半分程残っているだけだ。このサラダとマンゴーラッシーは好きなので、あっと言う間に食べてしまう。
「ご馳走様でした」
と手を合わせ、食事を終えた。ほどなくして、テーブルから食器が空気に同化していくようにして消えて行った。自動魔法とは誠に便利なものである。誰が担当してどのように魔術をかけるのかは知らないが……。
「私ですよ」
う、うわっ! な、何だ? いきなり、目の前から聞こえる冷ややかな声に文字通り口から心臓が飛び出そうになった。慌てて立ち上がり、ソファの後ろに回り込む。そして声のした方を見据えた。
ぼんやりとソファに身を投げ、再び溜息をついた。時を知らせる時刻も、また身近な、或いは世界情勢も。全てこの空間には、知ろうと思えばすぐに知る事が出来る。時計から、或いはパソコンから……。
けれども、相変わらずラディウス王子に関する事は一切情報は伏せられたままだ。それは、俺が全てを思い出しているのを知っていてそうしているのか、それとも俺が思い出している事など承知の上で敢えてそうしているのかは今のところ分からない。……分からないけれども、いずれは何らかの形でハッキリとさせないといけない。そして本来は理知的で聡い国王の事だ。心の奥底ではきっと、このままでは良いとは思っていないのではないか……。そさすがにれは、いささか都合良く考え過ぎかもしれないけれど。
それにしても、以前見た国王の母君……恐らくそうだと思うけど……の夢は何か意味があるのだろうか。それともあの頃の、慣れない環境での緊張と不安が見せただけの夢に過ぎないのだろうか。一見もの凄く意味有り気に見えてその実、ただの夢だった……うーん、有り得るよなぁ。
ん? おや……?
取り留めもなく色々な事に思いを馳せていたが、にわかに何やら食慾をそそる香りに座り直す。テーブルの上には食事がズラリと並んでいた。時計を見る。正午を少し過ぎたところだ。メインはカツカレー。ほうれん草とトマトの生サラダに、飲み物はマンゴーラッシー……といったところか。
カツカレーは、正直言ってあまり好みではない。カレーはカレー、カツはカツで食べたい派だ。高月家では、もっぱら弟第一主義だったから、カレーと言えばカツカレーが好きだった弟に合わせていたが。食欲があまり湧かずにいたけれど、残せば家族全員から嫌味を言われるは分かっていたので、胃の中に黙々と流し込んだのを思い出す。それに、体を動かしていないせいか、今はさほど腹も空いていない。働いていないのにも関わらず、用意して貰ったのだ。残すなど出来る筈もない。有り難く頂くとしよう。取り敢えず、今は咀嚼と嚥下だけに集中だ。
……レオとノアは、元気だろうか。リアンや央雅は、どうしているだろう。王子は、今日も公務かな……
考えてみたら、この世界に転移して来てそれほど時が経っていない事に軽く驚く。そんな事を考えていたら、カツカレーはしっかりと食べ終えていた。あとはサラダと飲み物が半分程残っているだけだ。このサラダとマンゴーラッシーは好きなので、あっと言う間に食べてしまう。
「ご馳走様でした」
と手を合わせ、食事を終えた。ほどなくして、テーブルから食器が空気に同化していくようにして消えて行った。自動魔法とは誠に便利なものである。誰が担当してどのように魔術をかけるのかは知らないが……。
「私ですよ」
う、うわっ! な、何だ? いきなり、目の前から聞こえる冷ややかな声に文字通り口から心臓が飛び出そうになった。慌てて立ち上がり、ソファの後ろに回り込む。そして声のした方を見据えた。
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