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第二十三話
海を見ていた「潮騒のメロディ」
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……ニュースって言ってたけど、そう言えば最近は勉強ばかりでニュースとか見て無かったな……
そんな事を思いながら、当麻の言葉を待つ。
「あの茶髪のチャラそうな奴さ。日沖海斗、て名前か?」
当麻は静かに聞いて来た。
「うん。どうして知ってるの?」
彼の腕の中で、甘えるように見上げて。当麻は溜息混じりにこたえた。
「……やっぱりな。いいか? 落ち着いて聞けよ」
と、その腕に少し力を込める。ドキッと嫌な予感を覚えながら、こくんと頷く。当麻はゆっくりと続けた。
「ニュースでさ。今から一週間くらい前、すぐそこの横断歩道で。親が目が離した隙に道路に飛び出した三歳の女の子がいて。そこに、猛スピードでトラックが突っ込んで来たらしい」
……え? それって……
心臓が縮みあがる。落ち着かせるように、頭を撫でる彼。
「もう間に合わない! 突然の事で、親は名前を叫ぶしか出来なくて。駄目だ、て誰もが思った瞬間、飛び出してその子を助けた奴がいて」
……まさか!……
「その子を抱き上げて庇うように転がりながら、女の子を歩道側の草村に投げたんだと。それで、女の子は無傷だったけど、助けた男の子はトラックに跳ね飛ばされて……」
……そんな……
最後まで聞かなくても、何となく、分かる。……海斗……
「一週間、生死を彷徨って、明け方息を引きとった……て」
もう、涙が溢れて、何と言って良いか分からない。堪え切れず、嗚咽が込み上げる。にわかには信じられない、いや、信じたくない。だけど、急に姿を消してしまった理由。やけに透明感があった事、全てつじつまが合う。
「……さっき、あそこに居たの、確かに海斗だった……」
悲しくて悲しくて、泣くことしか出来ない。当麻はあたしの後頭部に、顔を寄せて宥めるよう頬ずりする。
「俺は別に、目に見えない世界を肯定も否定もしないけどさ。……会いたかったんだろうな、どうしても、お前に」
当麻は語るようにゆっくりと話す。
「……そう言えば、最後の最後に会えて良かったって…。幸せになれって……」
泣きながら言うそばから、彼が光に透けそうだった事に妙に納得がいった。光の翼、本当だったんだ。けれども、好きだ、と言われた事だけは言えなかった。この事は、あたしと海斗の永遠の秘密にしよう。
……それで、いいよね、海斗……
空に向かって話しかけるあたしにこたえるように、風が優しくあたしの頬を撫でた。「いいよ」と、本当に言われた、そんな気がした。
「そうか。俺、お前の事、これまで以上に大事にしないとな。海斗って奴に面目が立たない」
当麻はギュッとあたしを抱きしめる。そして囁くように言った。
「……それで、その子の名前な、菜々子、て名前だったらしい」
「……海斗!」
彼の想い、新たに受け取る。怒涛のように押し寄せる、感情の波。彼と初めて会った時の事。海辺での語らい、彼に助けられた事、今までに至る経緯の全てが。とめどなく溢れる涙と嗚咽。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
やがて、引き潮のように静かに穏やかになっていく感情の波。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
しばらく、地球の鼓動を聞いていた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
当麻の鼓動とあたしの鼓動が一つになる。地球の鼓動とそれは一体化して、あたし達のハーモニーを。それは、海斗という光の、共通の人を忍んでさらに優しい音楽を奏でる。
潮騒のメロディ。あたしと当麻の。そして海斗の。確かに、この時あたしたちは一つに溶け合った。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
当麻はそっとあたしを放し、背後からあたしを覗き込むようにして見つめる。あたしはそっと立ち上がると、改めて彼に向き合い、その目を見つめる。気づいたら、当麻の目にも透明の膜が張っていた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
彼は大きく一度、深呼吸をする。そして思い切ったように言葉を紡いだ。
「大好きです! 相沢菜々子さん。僕、倉田当麻と。結婚を前提に、改めてお付き合いして頂けますか?」
真剣な眼差しであたしを見つめ、一言一句ハッキリと言い切る。まるで、光の天使となった海斗に宣言するように。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
あたしもしっかりと彼を見つめた。今まで不安で信じきれずにいた想い。今初めて、当麻から確かな愛情を感じ取れる。あの時、海と一つに溶け込もうとした時は、半信半疑だった。けれども今は、信じられる。
……幸せになるんだよ!………
海斗の声が、潮騒のメロディに乗って聞こえてきた気がした。そこで、見守ってくれてるんだね、海斗。あたしは、もう逃げないよ。幸せって、誰かに与えてもらうのを待つのではく、自らで掴み取るものなんだね! あたしも海斗に今、ここで宣言しよう。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
「はい!私、相沢菜々子、お付き合いさせて頂きます! 私も、倉田当麻さんが大好きです!」
ハッキリと告げた。ずっと緊張して強張った彼の顔。みるみる笑顔になって。そして真っ白い歯を見せて破顔した。お日様が、彼を照らして歯がキラリと光った。
「菜々子!!」
彼は嬉しそうに両手を広げ、あたしに抱きつくようにして飛びつく。重さで思わず後ろによろける。
「当麻、重い!」
耐え切れず、後ろに倒れこむ。背中を砂浜に打ち付ける、と思った瞬間、クルリとあたしの体を回転させ、背中から倒れたのは当麻となった。彼の上に乗って、抱きしめられる形になる。そのまま彼の胸に頬を埋めた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
そして地球の鼓動と、あたしたちの鼓動が一体化する。
「……なぁ、これからどっか行かないか?」
突然当麻が提案する。いつも思い付きだ。
「そういえば、この日、会うのに夢中で、なんの計画も立ててないね」
「どっか行ってみたいとこあるか?」
……行ってみたいとこ? 一つある! 以前のあたしなら、遠慮して、嫌われるのが怖くて言えなかったであろう場所。今、言ってみよう! 言ってみなければ分からないのだ……
「あ! あるある!」
「マジ? どこどこ?」
「それはね……二人で占いしてみたいんだ!」
「へ? 占い???」
予想外だったのだろう、彼の反応が面白い。鳩が豆鉄砲食らった、てやつだ。
「そ、お互いの性格の傾向とか知るの。面白いよ。……例えば、当麻は水瓶座だから『宇宙人並みに個性的』とか。あたしは山羊座だから『真面目、努力家』とか!」
「何だそれ? 面白れぇ。行くか!」
とあたしを支えるようにして起き上がる。
「うん! 行こう!」
あたしたちは微笑みあった。そして自然に、手を繋いで歩き出した。そして自然に顔を合わせ、頷き合うと、海斗の亡くなった場所を目指した。あたしたちはきっと、定期的にそこに訪れ続けるだろう。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
潮騒のメロディが、一際大きく耳に響いた。
~Fin~
そんな事を思いながら、当麻の言葉を待つ。
「あの茶髪のチャラそうな奴さ。日沖海斗、て名前か?」
当麻は静かに聞いて来た。
「うん。どうして知ってるの?」
彼の腕の中で、甘えるように見上げて。当麻は溜息混じりにこたえた。
「……やっぱりな。いいか? 落ち着いて聞けよ」
と、その腕に少し力を込める。ドキッと嫌な予感を覚えながら、こくんと頷く。当麻はゆっくりと続けた。
「ニュースでさ。今から一週間くらい前、すぐそこの横断歩道で。親が目が離した隙に道路に飛び出した三歳の女の子がいて。そこに、猛スピードでトラックが突っ込んで来たらしい」
……え? それって……
心臓が縮みあがる。落ち着かせるように、頭を撫でる彼。
「もう間に合わない! 突然の事で、親は名前を叫ぶしか出来なくて。駄目だ、て誰もが思った瞬間、飛び出してその子を助けた奴がいて」
……まさか!……
「その子を抱き上げて庇うように転がりながら、女の子を歩道側の草村に投げたんだと。それで、女の子は無傷だったけど、助けた男の子はトラックに跳ね飛ばされて……」
……そんな……
最後まで聞かなくても、何となく、分かる。……海斗……
「一週間、生死を彷徨って、明け方息を引きとった……て」
もう、涙が溢れて、何と言って良いか分からない。堪え切れず、嗚咽が込み上げる。にわかには信じられない、いや、信じたくない。だけど、急に姿を消してしまった理由。やけに透明感があった事、全てつじつまが合う。
「……さっき、あそこに居たの、確かに海斗だった……」
悲しくて悲しくて、泣くことしか出来ない。当麻はあたしの後頭部に、顔を寄せて宥めるよう頬ずりする。
「俺は別に、目に見えない世界を肯定も否定もしないけどさ。……会いたかったんだろうな、どうしても、お前に」
当麻は語るようにゆっくりと話す。
「……そう言えば、最後の最後に会えて良かったって…。幸せになれって……」
泣きながら言うそばから、彼が光に透けそうだった事に妙に納得がいった。光の翼、本当だったんだ。けれども、好きだ、と言われた事だけは言えなかった。この事は、あたしと海斗の永遠の秘密にしよう。
……それで、いいよね、海斗……
空に向かって話しかけるあたしにこたえるように、風が優しくあたしの頬を撫でた。「いいよ」と、本当に言われた、そんな気がした。
「そうか。俺、お前の事、これまで以上に大事にしないとな。海斗って奴に面目が立たない」
当麻はギュッとあたしを抱きしめる。そして囁くように言った。
「……それで、その子の名前な、菜々子、て名前だったらしい」
「……海斗!」
彼の想い、新たに受け取る。怒涛のように押し寄せる、感情の波。彼と初めて会った時の事。海辺での語らい、彼に助けられた事、今までに至る経緯の全てが。とめどなく溢れる涙と嗚咽。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
やがて、引き潮のように静かに穏やかになっていく感情の波。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
しばらく、地球の鼓動を聞いていた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
当麻の鼓動とあたしの鼓動が一つになる。地球の鼓動とそれは一体化して、あたし達のハーモニーを。それは、海斗という光の、共通の人を忍んでさらに優しい音楽を奏でる。
潮騒のメロディ。あたしと当麻の。そして海斗の。確かに、この時あたしたちは一つに溶け合った。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
当麻はそっとあたしを放し、背後からあたしを覗き込むようにして見つめる。あたしはそっと立ち上がると、改めて彼に向き合い、その目を見つめる。気づいたら、当麻の目にも透明の膜が張っていた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
彼は大きく一度、深呼吸をする。そして思い切ったように言葉を紡いだ。
「大好きです! 相沢菜々子さん。僕、倉田当麻と。結婚を前提に、改めてお付き合いして頂けますか?」
真剣な眼差しであたしを見つめ、一言一句ハッキリと言い切る。まるで、光の天使となった海斗に宣言するように。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
あたしもしっかりと彼を見つめた。今まで不安で信じきれずにいた想い。今初めて、当麻から確かな愛情を感じ取れる。あの時、海と一つに溶け込もうとした時は、半信半疑だった。けれども今は、信じられる。
……幸せになるんだよ!………
海斗の声が、潮騒のメロディに乗って聞こえてきた気がした。そこで、見守ってくれてるんだね、海斗。あたしは、もう逃げないよ。幸せって、誰かに与えてもらうのを待つのではく、自らで掴み取るものなんだね! あたしも海斗に今、ここで宣言しよう。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
「はい!私、相沢菜々子、お付き合いさせて頂きます! 私も、倉田当麻さんが大好きです!」
ハッキリと告げた。ずっと緊張して強張った彼の顔。みるみる笑顔になって。そして真っ白い歯を見せて破顔した。お日様が、彼を照らして歯がキラリと光った。
「菜々子!!」
彼は嬉しそうに両手を広げ、あたしに抱きつくようにして飛びつく。重さで思わず後ろによろける。
「当麻、重い!」
耐え切れず、後ろに倒れこむ。背中を砂浜に打ち付ける、と思った瞬間、クルリとあたしの体を回転させ、背中から倒れたのは当麻となった。彼の上に乗って、抱きしめられる形になる。そのまま彼の胸に頬を埋めた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
そして地球の鼓動と、あたしたちの鼓動が一体化する。
「……なぁ、これからどっか行かないか?」
突然当麻が提案する。いつも思い付きだ。
「そういえば、この日、会うのに夢中で、なんの計画も立ててないね」
「どっか行ってみたいとこあるか?」
……行ってみたいとこ? 一つある! 以前のあたしなら、遠慮して、嫌われるのが怖くて言えなかったであろう場所。今、言ってみよう! 言ってみなければ分からないのだ……
「あ! あるある!」
「マジ? どこどこ?」
「それはね……二人で占いしてみたいんだ!」
「へ? 占い???」
予想外だったのだろう、彼の反応が面白い。鳩が豆鉄砲食らった、てやつだ。
「そ、お互いの性格の傾向とか知るの。面白いよ。……例えば、当麻は水瓶座だから『宇宙人並みに個性的』とか。あたしは山羊座だから『真面目、努力家』とか!」
「何だそれ? 面白れぇ。行くか!」
とあたしを支えるようにして起き上がる。
「うん! 行こう!」
あたしたちは微笑みあった。そして自然に、手を繋いで歩き出した。そして自然に顔を合わせ、頷き合うと、海斗の亡くなった場所を目指した。あたしたちはきっと、定期的にそこに訪れ続けるだろう。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
潮騒のメロディが、一際大きく耳に響いた。
~Fin~
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