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第三話
耐え忍ぶ時、そして出会い
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「ホーッホッホホ……」
どこかで女の高笑いが聞こえる。どれほどの被害を被ったのか偵察に全国を回っていた茅はその声に引き寄せられるように声の主を探した。気配を悟られぬよう、完全に風と一体化する。
(何だ? この凄まじいまでの花の気は?)
茅は今まで感じた事のない気の力に圧倒された。そこは一面に広がる黄色の野原だ。青々とした茎、肉厚の葉、平均したら2mはあろうかと思われるほど背が高く、先端には天に向かってまるで房のように派手な黄色の花をつける。遠くから見るとその房はまるで黄色い花穂のようだ。
(ここも、既に秋の草花たちは全滅か……。もうすっかり『秋の麒麟草』といして我が国の代表と化しつつあるな……)
茅は寂しく感じた。
(もう、時代は変わってしまうのだろうか? 万葉の時代、有名な歌人が詠んだ『萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝顔の花』この歌の示すような、風流で情感豊かな秋は、もう幻となってしまうのだろうか……)
ふと弱気になる。
(このまま白旗をあげ、全面降参した方が生き残れるのでは無いだろうか? ……ん? あれは……)
その時ふと、目の端に懐かしく可憐な気配を感じた。
(……そなたは、女郎花?)
一面のセイタカアワダチソウの中に埋もれて、ひっそりと、誰の目にも触れぬようにつつましやかに咲く柔らかな黄色の花。
(茅様、はい。私だけではございませぬ。みな、こうしてひっそりと人の目も、この黄色い妖魔の集団にも気づかれぬようひそやかに咲いております)
弱弱しい声で、女郎花は応じる。精霊は、花の中に隠れているようだ。目立たぬように、気付かれぬように配慮しての事だろう。精霊たちはみな、その一本だけの花に己の全てをかけて咲かせているのだ。少し離れた場所に目をやる。
(藤袴! それに萩も!……)
(はい、少し先には葛も、撫子も咲いております。皆、その身一つだけですが、その日が来るのを待ちながら、ひたすら耐え忍んでおりまする)
藤袴は声を潜めて囁くようにして応じた。萩は頷きながら、寂し気な笑みを浮かべている。
(皆、その日を信じて細々と力を蓄えているのですわ)
葛の花が風にその身を任せながら答えた。
(こう見えても私、結構逆境に強いのです。大和撫子、昔の女性の控えめで慎ましやかだけれども芯の強さを称える言の葉、ありますでしょう?)
撫子は悪戯な笑みを浮かべた。
(……そうだな、歴史を見てもそうだ。栄華は永遠には続かない。まして驕り高ぶれば尚更……)
迷いの霧が晴れ渡ったようだ。
(皆、このままその時が来るまで耐え忍ぼうぞ! 黄色の妖魔に毒されたこの大地。通常なら生存は叶わぬところだが、ソナタたちは何とか自分の咲く場所を死守している。これは奇跡の力だ。人間どもに言わせたら「あり得ない!」と揃ってこたえる事例となるだろう。私も勇気を得た、有難う)
彼は照れたように微笑んだ。その銀色の瞳に、意志の力の光が甦る。再び風に乗り、侵略者の声の主を探した。
勝ち誇ったような笑い声の主は、このセイタカアワダチソウの精霊たちの長であったようだ。複数の家臣たちを従えている。そのまま茅は、気配を消したまま風と一体化して彼女たちの周りを飛び交う。
「楽勝じゃなぁ。この国に私達の意思とは無関係に連れて来られて、自生を初めてから何年くらい経つ?」
傍らに控えている側近に話しかける。高く澄んだ声の持ち主だ。まるでお日様の光をそのまま髪に宿したような眩い光の色。肩の下まで伸ばされたそれは優雅に巻き毛を作り、豊かに波打っている。頭頂部には己の花で編まれた花冠をかぶっていた。大理石を思わせる純白の肌、優雅な眉も長い睫毛も髪と同じ色だ。ツンと高い鼻は、クレオパトラを彷彿とさせそうだ。零れそうな程大きな瞳は、勝気に目尻がキュッとあがっており、深い翠《みどり》であった。意外なほどに深い翠色は、賢さと冷静さを現し、ミステリアスな輝きを秘めて煌めいている。背は高く、堂々としておりスリムなモデル体型のようだ。まるでギリシャ神話の女神がまとうようなドレスは派手な濃い黄色だ。己の花色と同じであろう。
(美しい。日輪の光がそのまま髪になったようだ……)
不覚にも、褒め称える感情を持ってしまった自らを恥じる。
「かれこれ二十年ほどになりましょうか?」
側近の一人が答えた。皆、黄色の甲冑を身につけた屈強な男たちだ。茅は腹を括った。そして風に話しかけた。
「そうか。もうすっかり、大地は我が一族の手に渡ったのぅ」
嬉しそうな彼女をしり目に、茅は風に声をかける。
(秋風の精霊たちよ!)
『これはこれは茅将軍、秋の代表の長老、芒様、いかがなされました?』
風の精霊は物珍しそうに話しかけて来た。彼らの容姿は幻獣の一体、麒麟である。
(我が声を届けて欲しい。日本の草花たち全てに誓おう! 私はもう、二度と弱気になるまい。何年、何十年かかろうとも必ずまた返り咲こうぞ! 共に耐え忍ぼう、時が満ちるまで。反撃の機会は必ず巡って来る、と)
『承知しました! このところどこの野原や土手、草原に行ってもこの花ばかりで、少々飽き飽きしてきていたところです』
風は喜び勇んで請け負うと、早速立ち去って行った。それを見送ると、茅は気配を露わにする。つまり、その姿を敵の前に晒したのである。
「無礼者! 我が一族の女王に、許可なく近づく事は許さん!」
瞬時に、気色ばみながら女の前に立ち塞がる家臣たち。その手には西洋の剣を手にしている。
「下がれ」
女王は静かに命じた。
「しかし!」
「いいから下がれ!」
尚も食い下がろうとする家臣を制し、茅の前へ歩み出る。
「これは、事前にお約束もせずに申し訳ございません」
茅は落ち着いて応じながら丁寧に頭を下げる。
「私は茅と申す者。芒の、引いては全ての草花を束ねている者でございます。此度、あなた方の勢力がどのくらい広がっているのか、その様子を見に飛び回っておりました。美しく華やかな花の気を感じて、舞い降りた次第でございます。以後、お見知りおきを」
(……これは、何と美しい男じゃ。雅、風流、奥床しい、高貴、和の美とはこのような事を言うのか?……)
女王は息を呑んで目の前の男を見つめた。だが、内心の想いは微塵も感じさせぬ高圧的な態度を装う。
どこかで女の高笑いが聞こえる。どれほどの被害を被ったのか偵察に全国を回っていた茅はその声に引き寄せられるように声の主を探した。気配を悟られぬよう、完全に風と一体化する。
(何だ? この凄まじいまでの花の気は?)
茅は今まで感じた事のない気の力に圧倒された。そこは一面に広がる黄色の野原だ。青々とした茎、肉厚の葉、平均したら2mはあろうかと思われるほど背が高く、先端には天に向かってまるで房のように派手な黄色の花をつける。遠くから見るとその房はまるで黄色い花穂のようだ。
(ここも、既に秋の草花たちは全滅か……。もうすっかり『秋の麒麟草』といして我が国の代表と化しつつあるな……)
茅は寂しく感じた。
(もう、時代は変わってしまうのだろうか? 万葉の時代、有名な歌人が詠んだ『萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花また藤袴 朝顔の花』この歌の示すような、風流で情感豊かな秋は、もう幻となってしまうのだろうか……)
ふと弱気になる。
(このまま白旗をあげ、全面降参した方が生き残れるのでは無いだろうか? ……ん? あれは……)
その時ふと、目の端に懐かしく可憐な気配を感じた。
(……そなたは、女郎花?)
一面のセイタカアワダチソウの中に埋もれて、ひっそりと、誰の目にも触れぬようにつつましやかに咲く柔らかな黄色の花。
(茅様、はい。私だけではございませぬ。みな、こうしてひっそりと人の目も、この黄色い妖魔の集団にも気づかれぬようひそやかに咲いております)
弱弱しい声で、女郎花は応じる。精霊は、花の中に隠れているようだ。目立たぬように、気付かれぬように配慮しての事だろう。精霊たちはみな、その一本だけの花に己の全てをかけて咲かせているのだ。少し離れた場所に目をやる。
(藤袴! それに萩も!……)
(はい、少し先には葛も、撫子も咲いております。皆、その身一つだけですが、その日が来るのを待ちながら、ひたすら耐え忍んでおりまする)
藤袴は声を潜めて囁くようにして応じた。萩は頷きながら、寂し気な笑みを浮かべている。
(皆、その日を信じて細々と力を蓄えているのですわ)
葛の花が風にその身を任せながら答えた。
(こう見えても私、結構逆境に強いのです。大和撫子、昔の女性の控えめで慎ましやかだけれども芯の強さを称える言の葉、ありますでしょう?)
撫子は悪戯な笑みを浮かべた。
(……そうだな、歴史を見てもそうだ。栄華は永遠には続かない。まして驕り高ぶれば尚更……)
迷いの霧が晴れ渡ったようだ。
(皆、このままその時が来るまで耐え忍ぼうぞ! 黄色の妖魔に毒されたこの大地。通常なら生存は叶わぬところだが、ソナタたちは何とか自分の咲く場所を死守している。これは奇跡の力だ。人間どもに言わせたら「あり得ない!」と揃ってこたえる事例となるだろう。私も勇気を得た、有難う)
彼は照れたように微笑んだ。その銀色の瞳に、意志の力の光が甦る。再び風に乗り、侵略者の声の主を探した。
勝ち誇ったような笑い声の主は、このセイタカアワダチソウの精霊たちの長であったようだ。複数の家臣たちを従えている。そのまま茅は、気配を消したまま風と一体化して彼女たちの周りを飛び交う。
「楽勝じゃなぁ。この国に私達の意思とは無関係に連れて来られて、自生を初めてから何年くらい経つ?」
傍らに控えている側近に話しかける。高く澄んだ声の持ち主だ。まるでお日様の光をそのまま髪に宿したような眩い光の色。肩の下まで伸ばされたそれは優雅に巻き毛を作り、豊かに波打っている。頭頂部には己の花で編まれた花冠をかぶっていた。大理石を思わせる純白の肌、優雅な眉も長い睫毛も髪と同じ色だ。ツンと高い鼻は、クレオパトラを彷彿とさせそうだ。零れそうな程大きな瞳は、勝気に目尻がキュッとあがっており、深い翠《みどり》であった。意外なほどに深い翠色は、賢さと冷静さを現し、ミステリアスな輝きを秘めて煌めいている。背は高く、堂々としておりスリムなモデル体型のようだ。まるでギリシャ神話の女神がまとうようなドレスは派手な濃い黄色だ。己の花色と同じであろう。
(美しい。日輪の光がそのまま髪になったようだ……)
不覚にも、褒め称える感情を持ってしまった自らを恥じる。
「かれこれ二十年ほどになりましょうか?」
側近の一人が答えた。皆、黄色の甲冑を身につけた屈強な男たちだ。茅は腹を括った。そして風に話しかけた。
「そうか。もうすっかり、大地は我が一族の手に渡ったのぅ」
嬉しそうな彼女をしり目に、茅は風に声をかける。
(秋風の精霊たちよ!)
『これはこれは茅将軍、秋の代表の長老、芒様、いかがなされました?』
風の精霊は物珍しそうに話しかけて来た。彼らの容姿は幻獣の一体、麒麟である。
(我が声を届けて欲しい。日本の草花たち全てに誓おう! 私はもう、二度と弱気になるまい。何年、何十年かかろうとも必ずまた返り咲こうぞ! 共に耐え忍ぼう、時が満ちるまで。反撃の機会は必ず巡って来る、と)
『承知しました! このところどこの野原や土手、草原に行ってもこの花ばかりで、少々飽き飽きしてきていたところです』
風は喜び勇んで請け負うと、早速立ち去って行った。それを見送ると、茅は気配を露わにする。つまり、その姿を敵の前に晒したのである。
「無礼者! 我が一族の女王に、許可なく近づく事は許さん!」
瞬時に、気色ばみながら女の前に立ち塞がる家臣たち。その手には西洋の剣を手にしている。
「下がれ」
女王は静かに命じた。
「しかし!」
「いいから下がれ!」
尚も食い下がろうとする家臣を制し、茅の前へ歩み出る。
「これは、事前にお約束もせずに申し訳ございません」
茅は落ち着いて応じながら丁寧に頭を下げる。
「私は茅と申す者。芒の、引いては全ての草花を束ねている者でございます。此度、あなた方の勢力がどのくらい広がっているのか、その様子を見に飛び回っておりました。美しく華やかな花の気を感じて、舞い降りた次第でございます。以後、お見知りおきを」
(……これは、何と美しい男じゃ。雅、風流、奥床しい、高貴、和の美とはこのような事を言うのか?……)
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