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第十一話
そう言えば、悪魔って何が楽しくて生きてるの?
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それにしても、初仕事がまさか行きつけのスーパーとは。恵茉は初仕事を終え、与えられた自室で寛いでいる。
あれからベリアルに抱えられて、マンション下の公園のベンチに瞬間移動で戻ってきた。履き替えた靴がベンチの下に。入れ替えたバッグが、ベンチに。ポツンと置かれたままだった。
「あれからここには誰も立ち入れない感じ?」
恵茉はすぐに質問してみる。
「まぁ、そうだな。今からお前の部屋へと案内する。その靴とバッグも持っていけ。仕事で必要な場合がある」
とベリアルは答えた。
「えー! そうなの? 制服で仕事する時あるのかー。しっかり経費削減してるねー。でも儲かるのって限られた上層部だけでしょ?トップは魔王ルシファー? ルシフェル? やっぱイケメン? 中間管理職とかは拘束時間の割には報酬少ない、とかさ。やっぱり魔界もそうなの?」
恵茉は素直に靴を持ち、バッグを右肩にかける。そして好奇心に満ちた眼差しでベリアルを見つめた。
……まぁ、俺もその上層部とやらの最高幹部なんだがな……
と思いつつ、恵茉の矢継ぎ早の質問に苦笑する。
「魔界の仕組みも、順を追って詳しく説明していくが……」
としっかりと前置きをし、
「そうだな、人間どもとその辺りは大差ないかもな。ちなみに、トップは魔王ルシファー様だ。ルシフェル様でも、どちらでも発音の違いだけだ。天使の時はルシフェルで、墜とされてからルシファーになった説が人間界では有名らしいが、それは創作話だ。イケメンかどうかは、まぁ、その内お会いする機会もあるだろう。その時に、自らの目で確かめてみれば良いさ」
と自信たっぷりな笑みで答えた。恵茉はそんなベリアルに笑みを浮かべ
「魔王様、良いトップみたいね」
と素直に感じた事を口にする。
「どうしてそう思うのだ?」
ベリアルは不思議そうに問いかける。
「だって、魔王様の話する時、なんだか嬉しそうだし誇らし気に自信満々で答えるから。きっと、魅力溢れるトップなのね。日本にも、そんなトップがいたら、また違ってたのかしらね」
恵茉はほんの少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。だが、すぐに目を輝かせて、
「そうそう、私の部屋って言ったわよね!もしかして、一人部屋を貰えたりするの?」
とベリアルを見上げた。
……やはり、今一つ掴み切れない小娘だな。鋭いところもあるかと思いきや、何も考えてなかったり、この年代特有のものなのだろうか……
と感じながら
「自室な。今から案内する」
と言うと、恵茉を抱え上げ、消えた。時刻は午後6時16分。外はまだまだ明るかった。
「ここだ」
ベリアルは、そっと恵茉を降ろす。到着した場所は……
約50m四方の雲?だろうか。その上に敷き詰められた芝生。何の木かは不明だが、白樺によく似た木が3本ほど植えられており、赤い屋根、白い壁、大きめの窓、焦げ茶色のドアのこじんまりした平屋が建てられている。
「すごーい!!!」
恵茉は嬉しそうに瞳をキラキラさせる。ベリアルが右手の平を天に翳すと、黒い鍵が出現した。それを恵茉に渡す。受け取ると
「入るね」
と彼に一声かけ、鍵を開ける。
「わぁー、綺麗!」
どうやら3LDKのようだ。壁はクリーム色で統一されており、箪笥や冷蔵庫等一通りのものが揃えられている。靴を脱ぎ、中に入るなり嬉しそうにスキップする。そんな恵茉を、穏やかな眼差しで見つめるべリアル。
「日本の平屋をイメージして建てられてるのね?」
ひとしきりし喜んで落ち着いてきたようだ。
「まぁな。見習い悪魔用の住まいだ。見習いがどの国の者かにより変わるがな。一応、テレビもあるし、DVDとやらも見られる。ガス台、電子レンジ、オーブン、風呂場、ベッド、トイレ、必要ないが洗濯機、パソコン…人間が欲しがるものは最低限揃えてある」
と答えるベリアルに
「あー! 靴を脱がないもんね、欧米は。凄いわ! 破格の待遇じゃない!」
と嬉しそうだ。
「人間は、ホームシックにかかりやすく、そうなると仕事に支障をきたすらしいからな。普段慣れ親しんだものに囲まれると、大丈夫らしくてな。補助金が出るようになったら、好きなものを買うと良いさ」
と彼はゆっくりと説明する。不意に思い付いたように彼を見つめると
「ところでここ、どこ? 少なくとも、人間界じゃ無いわね?」
と問いかけた。
「あー、説明が未だだったな。勿論違うさ。簡単に言えば、人間界と魔界の中間に位置する場所に『切り離された安全な時空』という感じか。この場所に居る限り、魑魅魍魎やら、厄介なものにそうそうは狙われない。絶対! とは言わないがな」
と言うと意味有り気にニヤリ、と笑った。
「な、何よその意味深な笑いは! そう言えば、バッグも咄嗟の盾になるとか、ローブは身を守るとか、そんなに危険にさられる訳? そう言えば、身を守る術を身につけるとか言ってたわね?」
急に大真面目になる恵茉であった。
「まぁ、しばらくは大丈夫だ。俺がつきっきりで仕事してる内はな。ここの空間にいる間はほとんど安全だし。仕事に行く時は迎えに来るし、帰りは送る。最低限の護身術、瞬間移動が出来て、仕事も一人でこなせるようになるまでは安全さ。それまでに、俺が説明していく天界魔界の仕組み、役割とか色々教えていくがしっかりと頭に叩きこめよ! そしたら、何が危険なのか自ずと分かってくるさ」
ベリアルは落ち着いて答えた。
「ふーん。まぁいいわ。見習い悪魔自体、どんなものかまだよく分かってないし。ベリアルは別なところに住んでいるのね! 魔界に豪邸があるの?」
恵茉は再び好奇心に目を輝かせる。
「まぁ、そんなとこだ。今日のとこはゆっくり休め。明日迎えに来る。午前10時に出発できるよう、準備しておけ。リビングの壁にかけてある時計は、人間用に時を刻むから安心しろ」
と言うとベリアルは消えようとした。その瞬間、
「あ!」
思い出したように恵茉は声を上げる。
「どうした?」
べリアルは何事かと声をかける。
「そうそう、質問あるある!ゲームとか漫画でさ、で悪魔が出てたりした時に常々思ってたんだけどさー」
恵茉は深刻そうに切り出す。
「悪魔って、何が楽しくて生きてるの? 人間の汚い部分を引き出したりさ。ウンザリしない? 汚いもの、醜いものに遭遇する機会多いだろうし」
ベリアルは、なんだそんな事か、というような表情を浮かべ、
「その醜い、汚い、という感覚も人間視点から見て、の話だろう?俺達の役割は「闇」だから、人間視点でいう醜いものに対して特に何も感じない。ただ、そういうものだ、という認識があるのみさ。それに、楽しくないと、生きていたら駄目なのか?」
ベリアルは逆に恵茉に問いかける。
「……それは、個人の自由、だけど……」
恵茉は口ごもってしまう。
「だろ?」
ベリアルは明るく声を上げる。恵茉が注目したところで、
「生きる事に、一々意味付けしようとするから変に自己否定してみたり、他人より優位に立とうとおかしな行動に走ったりするんだ、人間は。植物、動物。生きる意味なんか考えてるか? そんな事考えるのは人間だけだぞ。別に意味なんか無くっても、生を受けたから生きる! それだけで十分だろうがよ!!」
とベリアルはハッキリと言い切った。恵茉はビックリしたように目を大きく見開いている。
「そっか!ただ生きる。生きている事に意味を見出だす必要は無い! そっか、そうだね!そうだよね!!」
恵茉は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
……だが心なしか、その瞳に悲しい涙が滲んでいるように見えた。
ベリアルは、恵茉の心に秘めた哀しみの闇を感じ取るも、敢えてそれ以上は見ないようにした。彼女が本当に心を開くまで待とう。彼は心に誓った。
「ゆっくり休めよ。また明日な」
と声をかけ、恵茉の正面に瞬間移動すると、そっと右手で彼女の頭を撫でた。そして消えた。
「……有難う、ベリアル」
彼が消えた空間を見つめ、恵茉は呟いた。その声は、少し湿っているように聞こえた。
あれからベリアルに抱えられて、マンション下の公園のベンチに瞬間移動で戻ってきた。履き替えた靴がベンチの下に。入れ替えたバッグが、ベンチに。ポツンと置かれたままだった。
「あれからここには誰も立ち入れない感じ?」
恵茉はすぐに質問してみる。
「まぁ、そうだな。今からお前の部屋へと案内する。その靴とバッグも持っていけ。仕事で必要な場合がある」
とベリアルは答えた。
「えー! そうなの? 制服で仕事する時あるのかー。しっかり経費削減してるねー。でも儲かるのって限られた上層部だけでしょ?トップは魔王ルシファー? ルシフェル? やっぱイケメン? 中間管理職とかは拘束時間の割には報酬少ない、とかさ。やっぱり魔界もそうなの?」
恵茉は素直に靴を持ち、バッグを右肩にかける。そして好奇心に満ちた眼差しでベリアルを見つめた。
……まぁ、俺もその上層部とやらの最高幹部なんだがな……
と思いつつ、恵茉の矢継ぎ早の質問に苦笑する。
「魔界の仕組みも、順を追って詳しく説明していくが……」
としっかりと前置きをし、
「そうだな、人間どもとその辺りは大差ないかもな。ちなみに、トップは魔王ルシファー様だ。ルシフェル様でも、どちらでも発音の違いだけだ。天使の時はルシフェルで、墜とされてからルシファーになった説が人間界では有名らしいが、それは創作話だ。イケメンかどうかは、まぁ、その内お会いする機会もあるだろう。その時に、自らの目で確かめてみれば良いさ」
と自信たっぷりな笑みで答えた。恵茉はそんなベリアルに笑みを浮かべ
「魔王様、良いトップみたいね」
と素直に感じた事を口にする。
「どうしてそう思うのだ?」
ベリアルは不思議そうに問いかける。
「だって、魔王様の話する時、なんだか嬉しそうだし誇らし気に自信満々で答えるから。きっと、魅力溢れるトップなのね。日本にも、そんなトップがいたら、また違ってたのかしらね」
恵茉はほんの少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。だが、すぐに目を輝かせて、
「そうそう、私の部屋って言ったわよね!もしかして、一人部屋を貰えたりするの?」
とベリアルを見上げた。
……やはり、今一つ掴み切れない小娘だな。鋭いところもあるかと思いきや、何も考えてなかったり、この年代特有のものなのだろうか……
と感じながら
「自室な。今から案内する」
と言うと、恵茉を抱え上げ、消えた。時刻は午後6時16分。外はまだまだ明るかった。
「ここだ」
ベリアルは、そっと恵茉を降ろす。到着した場所は……
約50m四方の雲?だろうか。その上に敷き詰められた芝生。何の木かは不明だが、白樺によく似た木が3本ほど植えられており、赤い屋根、白い壁、大きめの窓、焦げ茶色のドアのこじんまりした平屋が建てられている。
「すごーい!!!」
恵茉は嬉しそうに瞳をキラキラさせる。ベリアルが右手の平を天に翳すと、黒い鍵が出現した。それを恵茉に渡す。受け取ると
「入るね」
と彼に一声かけ、鍵を開ける。
「わぁー、綺麗!」
どうやら3LDKのようだ。壁はクリーム色で統一されており、箪笥や冷蔵庫等一通りのものが揃えられている。靴を脱ぎ、中に入るなり嬉しそうにスキップする。そんな恵茉を、穏やかな眼差しで見つめるべリアル。
「日本の平屋をイメージして建てられてるのね?」
ひとしきりし喜んで落ち着いてきたようだ。
「まぁな。見習い悪魔用の住まいだ。見習いがどの国の者かにより変わるがな。一応、テレビもあるし、DVDとやらも見られる。ガス台、電子レンジ、オーブン、風呂場、ベッド、トイレ、必要ないが洗濯機、パソコン…人間が欲しがるものは最低限揃えてある」
と答えるベリアルに
「あー! 靴を脱がないもんね、欧米は。凄いわ! 破格の待遇じゃない!」
と嬉しそうだ。
「人間は、ホームシックにかかりやすく、そうなると仕事に支障をきたすらしいからな。普段慣れ親しんだものに囲まれると、大丈夫らしくてな。補助金が出るようになったら、好きなものを買うと良いさ」
と彼はゆっくりと説明する。不意に思い付いたように彼を見つめると
「ところでここ、どこ? 少なくとも、人間界じゃ無いわね?」
と問いかけた。
「あー、説明が未だだったな。勿論違うさ。簡単に言えば、人間界と魔界の中間に位置する場所に『切り離された安全な時空』という感じか。この場所に居る限り、魑魅魍魎やら、厄介なものにそうそうは狙われない。絶対! とは言わないがな」
と言うと意味有り気にニヤリ、と笑った。
「な、何よその意味深な笑いは! そう言えば、バッグも咄嗟の盾になるとか、ローブは身を守るとか、そんなに危険にさられる訳? そう言えば、身を守る術を身につけるとか言ってたわね?」
急に大真面目になる恵茉であった。
「まぁ、しばらくは大丈夫だ。俺がつきっきりで仕事してる内はな。ここの空間にいる間はほとんど安全だし。仕事に行く時は迎えに来るし、帰りは送る。最低限の護身術、瞬間移動が出来て、仕事も一人でこなせるようになるまでは安全さ。それまでに、俺が説明していく天界魔界の仕組み、役割とか色々教えていくがしっかりと頭に叩きこめよ! そしたら、何が危険なのか自ずと分かってくるさ」
ベリアルは落ち着いて答えた。
「ふーん。まぁいいわ。見習い悪魔自体、どんなものかまだよく分かってないし。ベリアルは別なところに住んでいるのね! 魔界に豪邸があるの?」
恵茉は再び好奇心に目を輝かせる。
「まぁ、そんなとこだ。今日のとこはゆっくり休め。明日迎えに来る。午前10時に出発できるよう、準備しておけ。リビングの壁にかけてある時計は、人間用に時を刻むから安心しろ」
と言うとベリアルは消えようとした。その瞬間、
「あ!」
思い出したように恵茉は声を上げる。
「どうした?」
べリアルは何事かと声をかける。
「そうそう、質問あるある!ゲームとか漫画でさ、で悪魔が出てたりした時に常々思ってたんだけどさー」
恵茉は深刻そうに切り出す。
「悪魔って、何が楽しくて生きてるの? 人間の汚い部分を引き出したりさ。ウンザリしない? 汚いもの、醜いものに遭遇する機会多いだろうし」
ベリアルは、なんだそんな事か、というような表情を浮かべ、
「その醜い、汚い、という感覚も人間視点から見て、の話だろう?俺達の役割は「闇」だから、人間視点でいう醜いものに対して特に何も感じない。ただ、そういうものだ、という認識があるのみさ。それに、楽しくないと、生きていたら駄目なのか?」
ベリアルは逆に恵茉に問いかける。
「……それは、個人の自由、だけど……」
恵茉は口ごもってしまう。
「だろ?」
ベリアルは明るく声を上げる。恵茉が注目したところで、
「生きる事に、一々意味付けしようとするから変に自己否定してみたり、他人より優位に立とうとおかしな行動に走ったりするんだ、人間は。植物、動物。生きる意味なんか考えてるか? そんな事考えるのは人間だけだぞ。別に意味なんか無くっても、生を受けたから生きる! それだけで十分だろうがよ!!」
とベリアルはハッキリと言い切った。恵茉はビックリしたように目を大きく見開いている。
「そっか!ただ生きる。生きている事に意味を見出だす必要は無い! そっか、そうだね!そうだよね!!」
恵茉は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
……だが心なしか、その瞳に悲しい涙が滲んでいるように見えた。
ベリアルは、恵茉の心に秘めた哀しみの闇を感じ取るも、敢えてそれ以上は見ないようにした。彼女が本当に心を開くまで待とう。彼は心に誓った。
「ゆっくり休めよ。また明日な」
と声をかけ、恵茉の正面に瞬間移動すると、そっと右手で彼女の頭を撫でた。そして消えた。
「……有難う、ベリアル」
彼が消えた空間を見つめ、恵茉は呟いた。その声は、少し湿っているように聞こえた。
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