17 / 51
第五話
(仮初)夫婦のコミュニケーションだとかエトセトラ……【一】
しおりを挟む
「えーと、あの……今、何と?」
あたしはまたもや混乱していた。彼ら……粋蓮と日比谷の二人と出会ってからと言うもの、毎日が『驚愕』と『思考停止』そして『混乱』の連続だ。出会ってからもう何カ月も経っているような気がするのだけれど、実際には粋蓮と初めて対面してからまだ五日目。日比谷に至ってはまだ四日しか経ってないのだが、何だか酷く消耗している。
考えてみたら……学生の時から、友達付き合いは表面上は仲良く振る舞ってはいたが己の本心を曝け出せるほど信頼出来る友達は出来なかった。恋人が出来た事はないし欲しいとも思わない。つまり、よくよく考えてみると友達と呼べるものは殆どいないのだ。別段、それを特別に寂しいとは感じた事はないし、一人で自由気ままに過ごす事の方が好みだ。こんなあたしからしたら、この二人……いや二体、ん? 二柱か。この二柱との距離感はたしにしたら特例中の特例、という存在なのだ。
そもそもこの二柱は、属性は『神様』というか。それ以前にカミサマなんて本当に存在するのか? と思うけれど、この二柱は少なくとも人ではない事は分かった。
実は、何らかの理由で臨死体験をしているだけなのかもしれないけれども。
「ええ、あなたの研修も残すところ後二日。仮初と言えども夫婦の契約を結んだのですから、これからデートとやらに繰り出しましょう」
現実逃避している場合ではなかった、このカミサマ今デートとかのたまったわよね? 無理無理無理無理! 無理ですって! だって……
「それはちょっと難しい問題だと思います」
「おや、何故です?」
いや分かるでしょ、その気になればあたしの心なんて読むのお手の物なんだし。
「だって私、そもそも恋人がいた事ありませんし。だからデートなんて無理だと思うのです」
そうだよ、これ契約上だけとはいえ、こんな浮世離れした超絶美形の隣を二人だけで歩くなんてとんでもない! さすがに、周りを気にしないあたしでも駄目な意味で目立つのは勘弁よ。
当の彼は、気にする必要はない、というように柔らかく微笑む。まるで彼の周りだけに春が来たみたいに、満開の八重桜を背追っているように見えた。
「そのような事、気になさる必要ありませんよ。これは私の人間見習いの一環して考えて頂いて、軽い気持ちでお付き合い頂けましたら」
「ですが、未経験の私がデートコースを考えるなんて……」
「ご心配無く。一緒に考えましょう。勿論、デート費用は全てこちらが持ちますからご安心を」
いやいやいやいや、そんなピュアな眼差しで微笑まれても困るよ!
「あ……いや、そういう問題では……」
「よっしゃ! 俺に任せな!」
それまで、まるで漫才を見るようにニヤニヤしながら成り行きを見守っていた日比谷が、腕組みをして立ち上がった。あたしも粋蓮も驚いて彼に注目する。日比谷は右手であたし達にピースサインを送ると、
「一肌脱いでやる!」
そう言っていきなりポロシャツを脱ぎだすのと、
「きゃーーーーー!!!」
「これ! 昴!!!」
悲鳴を上げて両手で顔を覆うあたしと、たしなめながら右手を伸ばしあたしを胸に引き寄せる粋蓮、それらがほぼ同時に行われた。
あたしはまたもや混乱していた。彼ら……粋蓮と日比谷の二人と出会ってからと言うもの、毎日が『驚愕』と『思考停止』そして『混乱』の連続だ。出会ってからもう何カ月も経っているような気がするのだけれど、実際には粋蓮と初めて対面してからまだ五日目。日比谷に至ってはまだ四日しか経ってないのだが、何だか酷く消耗している。
考えてみたら……学生の時から、友達付き合いは表面上は仲良く振る舞ってはいたが己の本心を曝け出せるほど信頼出来る友達は出来なかった。恋人が出来た事はないし欲しいとも思わない。つまり、よくよく考えてみると友達と呼べるものは殆どいないのだ。別段、それを特別に寂しいとは感じた事はないし、一人で自由気ままに過ごす事の方が好みだ。こんなあたしからしたら、この二人……いや二体、ん? 二柱か。この二柱との距離感はたしにしたら特例中の特例、という存在なのだ。
そもそもこの二柱は、属性は『神様』というか。それ以前にカミサマなんて本当に存在するのか? と思うけれど、この二柱は少なくとも人ではない事は分かった。
実は、何らかの理由で臨死体験をしているだけなのかもしれないけれども。
「ええ、あなたの研修も残すところ後二日。仮初と言えども夫婦の契約を結んだのですから、これからデートとやらに繰り出しましょう」
現実逃避している場合ではなかった、このカミサマ今デートとかのたまったわよね? 無理無理無理無理! 無理ですって! だって……
「それはちょっと難しい問題だと思います」
「おや、何故です?」
いや分かるでしょ、その気になればあたしの心なんて読むのお手の物なんだし。
「だって私、そもそも恋人がいた事ありませんし。だからデートなんて無理だと思うのです」
そうだよ、これ契約上だけとはいえ、こんな浮世離れした超絶美形の隣を二人だけで歩くなんてとんでもない! さすがに、周りを気にしないあたしでも駄目な意味で目立つのは勘弁よ。
当の彼は、気にする必要はない、というように柔らかく微笑む。まるで彼の周りだけに春が来たみたいに、満開の八重桜を背追っているように見えた。
「そのような事、気になさる必要ありませんよ。これは私の人間見習いの一環して考えて頂いて、軽い気持ちでお付き合い頂けましたら」
「ですが、未経験の私がデートコースを考えるなんて……」
「ご心配無く。一緒に考えましょう。勿論、デート費用は全てこちらが持ちますからご安心を」
いやいやいやいや、そんなピュアな眼差しで微笑まれても困るよ!
「あ……いや、そういう問題では……」
「よっしゃ! 俺に任せな!」
それまで、まるで漫才を見るようにニヤニヤしながら成り行きを見守っていた日比谷が、腕組みをして立ち上がった。あたしも粋蓮も驚いて彼に注目する。日比谷は右手であたし達にピースサインを送ると、
「一肌脱いでやる!」
そう言っていきなりポロシャツを脱ぎだすのと、
「きゃーーーーー!!!」
「これ! 昴!!!」
悲鳴を上げて両手で顔を覆うあたしと、たしなめながら右手を伸ばしあたしを胸に引き寄せる粋蓮、それらがほぼ同時に行われた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる