「大正浪漫夢奇譚」~トキメキ朱鷺色戀物語~

大和撫子

文字の大きさ
9 / 14
第肆話

朱鷺子様の朱鷺色

しおりを挟む
********


 『このお色はなんていうか知ってる?』

優しくて温かなお声。瑠璃子様が大人になられたらそのようなお姿になるだろうと予測されるお美しいご婦人。朱鷺子様の母上様、翠子すいこ様でございますね。白くて長い指が、お庭に咲く薔薇の一つを指されています。紫色がかった、優しく淡い桃色の薔薇です。

 『うん、しってる。ピンクいろだよ。うすーいの』

 嬉しそうにお答えになるのは、まだ幼い朱鷺子様です。びっくりするくらい大きなお目めが、得意そうにキラキラ輝いていますね。まだ四歳くらいでしょうか。

 『じゃぁ、こっちのお色は?』

奥様はまた少し離れた場所で咲いている薔薇を指差されます。

『……うーん、こっちもピンクだぁ。ちょっとちがうピンク』

 それは黄色味がかった淡く暖かな桃色の薔薇でした。小首を傾げる朱鷺子様。考え込んでおられるご様子。

『一言でピンク色と言ってもね、色々な種類があるのよ』

 奥様はそう言って微笑まれました。

『いろんなピンクがあるの?』
『そうよ。こっちのピンクは珊瑚色ね。最初に指差したこっちのピンクはね、朱鷺色っていうのよ』
『とき……ときことおなじなまえ?』
『そう、朱鷺子の名前はね、この朱鷺色から頂いたのよ』
『いろから?』
『そう。お祖母様のお名前はゆかり、私の名前はみどりと書いて翠子。お父様のお名前は藤史郎。藤色が入っているでしょ?』
『うん、みーんな、いろにかんけいあるおなまえ!』
『そうなの。それでね、お色に関するお名前がいいな、て。朱鷺色はお母様の大好きなお色の一つだから。優しくて柔らかな、女の子らしいお色。それでいて、どこか心に残るような素敵なお色。朱鷺子ちゃんも、こんな朱鷺色が似合う素敵な女の子になりましょうね』
『うん!』

 お庭にお二人の楽しそうな笑い声が響き渡りました。


 続いて場面が切り変わります。ハーブの爽やかな香り漂うお庭。白やくれない、薄紅の牡丹が見事に咲き乱れています。

「このぼたんね、ときいろっていうんだよ。ほら、こっちのピンクといろがちがうでしょ?」

 こちらもまた幼い朱鷺子様です。寄り添うようにして立っているのは幼い男の子。朱鷺子様と同じくらいか、或いは一つか二つ年上でしょうか? 実際には、もっと年上かもしれませんし、実年齢よりも大人びているのかもしれません。お顔立ちは拝見したくても、陽の光は眩しく当たっていて見えないのですよ。けれども、紺色のおズボンとか白のブラウスとか、とても上質な布で丁寧に仕上がっている衣装をお召しなのは分かります。手足も長いですね。

「ホントだ! ときいろ? おじょうとおなじなまえだね!」
「うん! このいろみたいにすてきなおんなのこになりましょうね、て。ときこ、ておなまえつけたんだって」
「へぇ? じゃぁ、このときいろのぼたんがにあうころになったら、むかえにくるよ。そしたらけっこんしよう!」
「わぁ! およめさんにしてくれるの?」
「もちろん!」
「やくそくだよ!」
「うん、ゆびきりしよう」
「「ゆーびきーりげーんまーん……」」


********

 おや、朱鷺子様はお目覚めになりましたよ。そうです、今まで朱鷺子様の夢の中にお邪魔していたのでした。時折、朱鷺子様は夢にうなされる朱鷺がございますので、密かに護衛を兼ねているのでございますよ。勿論、護衛担当は他におりますが、これは私がしたくてしている……そんなところでしょうか。私なら、朱鷺子様を悪夢からお守りする事もできますしね。

「お早うございます、朱鷺子様」

 朱鷺子様の右頬に、私の左頬を摺り寄せます。

「……お早う、琥珀アンバー。また、あの夢を見たわ。お母様との会話や名前の由来の夢は実話だけど、もう一つの夢の男の子、誰なのかしらね? 実在するのかしら……」

 そうおっしゃいながら、ベッドからゆっくりと起き上がります。さぁ、私には解りかねます、と首を傾げておきましょう。

 翠子様はとてもお美しくて心優しい御方でした。元々お体がさほど丈夫では無かった為、朱鷺子様が四歳のお誕生日を迎える前に、風邪を拗らせてそのまま儚くなられてしまいました……。

 「案外、妄想の産物かもね、あの男の子。イマジナリーフレンドってやつね」

 そう言って、私の頭を撫でます。

(……薫お兄様だったら、どんなに良いか……。でも、それならそれで虚しいだけか。現実的にお兄様は、瑠璃子を選ぶでしょうから)

 寂しそうに心の中で呟く朱鷺子様。何とかして差し上げたいのですが、肝心の薫様の本心が、私の力を持ってしても読めないのですよ。うーん、どうしたものか……。
 
 でも、私は何があっても朱鷺子様の一番の味方ですから!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫ゆかり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

処理中です...