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第肆話
朱鷺子様の朱鷺色
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『このお色はなんていうか知ってる?』
優しくて温かなお声。瑠璃子様が大人になられたらそのようなお姿になるだろうと予測されるお美しいご婦人。朱鷺子様の母上様、翠子様でございますね。白くて長い指が、お庭に咲く薔薇の一つを指されています。紫色がかった、優しく淡い桃色の薔薇です。
『うん、しってる。ピンクいろだよ。うすーいの』
嬉しそうにお答えになるのは、まだ幼い朱鷺子様です。びっくりするくらい大きなお目めが、得意そうにキラキラ輝いていますね。まだ四歳くらいでしょうか。
『じゃぁ、こっちのお色は?』
奥様はまた少し離れた場所で咲いている薔薇を指差されます。
『……うーん、こっちもピンクだぁ。ちょっとちがうピンク』
それは黄色味がかった淡く暖かな桃色の薔薇でした。小首を傾げる朱鷺子様。考え込んでおられるご様子。
『一言でピンク色と言ってもね、色々な種類があるのよ』
奥様はそう言って微笑まれました。
『いろんなピンクがあるの?』
『そうよ。こっちのピンクは珊瑚色ね。最初に指差したこっちのピンクはね、朱鷺色っていうのよ』
『とき……ときことおなじなまえ?』
『そう、朱鷺子の名前はね、この朱鷺色から頂いたのよ』
『いろから?』
『そう。お祖母様のお名前は紫、私の名前は翠と書いて翠子。お父様のお名前は藤史郎。藤色が入っているでしょ?』
『うん、みーんな、いろにかんけいあるおなまえ!』
『そうなの。それでね、お色に関するお名前がいいな、て。朱鷺色はお母様の大好きなお色の一つだから。優しくて柔らかな、女の子らしいお色。それでいて、どこか心に残るような素敵なお色。朱鷺子ちゃんも、こんな朱鷺色が似合う素敵な女の子になりましょうね』
『うん!』
お庭にお二人の楽しそうな笑い声が響き渡りました。
続いて場面が切り変わります。ハーブの爽やかな香り漂うお庭。白や紅、薄紅の牡丹が見事に咲き乱れています。
「このぼたんね、ときいろっていうんだよ。ほら、こっちのピンクといろがちがうでしょ?」
こちらもまた幼い朱鷺子様です。寄り添うようにして立っているのは幼い男の子。朱鷺子様と同じくらいか、或いは一つか二つ年上でしょうか? 実際には、もっと年上かもしれませんし、実年齢よりも大人びているのかもしれません。お顔立ちは拝見したくても、陽の光は眩しく当たっていて見えないのですよ。けれども、紺色のおズボンとか白のブラウスとか、とても上質な布で丁寧に仕上がっている衣装をお召しなのは分かります。手足も長いですね。
「ホントだ! ときいろ? おじょうとおなじなまえだね!」
「うん! このいろみたいにすてきなおんなのこになりましょうね、て。ときこ、ておなまえつけたんだって」
「へぇ? じゃぁ、このときいろのぼたんがにあうころになったら、むかえにくるよ。そしたらけっこんしよう!」
「わぁ! およめさんにしてくれるの?」
「もちろん!」
「やくそくだよ!」
「うん、ゆびきりしよう」
「「ゆーびきーりげーんまーん……」」
********
おや、朱鷺子様はお目覚めになりましたよ。そうです、今まで朱鷺子様の夢の中にお邪魔していたのでした。時折、朱鷺子様は夢にうなされる朱鷺がございますので、密かに護衛を兼ねているのでございますよ。勿論、護衛担当は他におりますが、これは私がしたくてしている……そんなところでしょうか。私なら、朱鷺子様を悪夢からお守りする事もできますしね。
「お早うございます、朱鷺子様」
朱鷺子様の右頬に、私の左頬を摺り寄せます。
「……お早う、琥珀。また、あの夢を見たわ。お母様との会話や名前の由来の夢は実話だけど、もう一つの夢の男の子、誰なのかしらね? 実在するのかしら……」
そうおっしゃいながら、ベッドからゆっくりと起き上がります。さぁ、私には解りかねます、と首を傾げておきましょう。
翠子様はとてもお美しくて心優しい御方でした。元々お体がさほど丈夫では無かった為、朱鷺子様が四歳のお誕生日を迎える前に、風邪を拗らせてそのまま儚くなられてしまいました……。
「案外、妄想の産物かもね、あの男の子。イマジナリーフレンドってやつね」
そう言って、私の頭を撫でます。
(……薫お兄様だったら、どんなに良いか……。でも、それならそれで虚しいだけか。現実的にお兄様は、瑠璃子を選ぶでしょうから)
寂しそうに心の中で呟く朱鷺子様。何とかして差し上げたいのですが、肝心の薫様の本心が、私の力を持ってしても読めないのですよ。うーん、どうしたものか……。
でも、私は何があっても朱鷺子様の一番の味方ですから!
『このお色はなんていうか知ってる?』
優しくて温かなお声。瑠璃子様が大人になられたらそのようなお姿になるだろうと予測されるお美しいご婦人。朱鷺子様の母上様、翠子様でございますね。白くて長い指が、お庭に咲く薔薇の一つを指されています。紫色がかった、優しく淡い桃色の薔薇です。
『うん、しってる。ピンクいろだよ。うすーいの』
嬉しそうにお答えになるのは、まだ幼い朱鷺子様です。びっくりするくらい大きなお目めが、得意そうにキラキラ輝いていますね。まだ四歳くらいでしょうか。
『じゃぁ、こっちのお色は?』
奥様はまた少し離れた場所で咲いている薔薇を指差されます。
『……うーん、こっちもピンクだぁ。ちょっとちがうピンク』
それは黄色味がかった淡く暖かな桃色の薔薇でした。小首を傾げる朱鷺子様。考え込んでおられるご様子。
『一言でピンク色と言ってもね、色々な種類があるのよ』
奥様はそう言って微笑まれました。
『いろんなピンクがあるの?』
『そうよ。こっちのピンクは珊瑚色ね。最初に指差したこっちのピンクはね、朱鷺色っていうのよ』
『とき……ときことおなじなまえ?』
『そう、朱鷺子の名前はね、この朱鷺色から頂いたのよ』
『いろから?』
『そう。お祖母様のお名前は紫、私の名前は翠と書いて翠子。お父様のお名前は藤史郎。藤色が入っているでしょ?』
『うん、みーんな、いろにかんけいあるおなまえ!』
『そうなの。それでね、お色に関するお名前がいいな、て。朱鷺色はお母様の大好きなお色の一つだから。優しくて柔らかな、女の子らしいお色。それでいて、どこか心に残るような素敵なお色。朱鷺子ちゃんも、こんな朱鷺色が似合う素敵な女の子になりましょうね』
『うん!』
お庭にお二人の楽しそうな笑い声が響き渡りました。
続いて場面が切り変わります。ハーブの爽やかな香り漂うお庭。白や紅、薄紅の牡丹が見事に咲き乱れています。
「このぼたんね、ときいろっていうんだよ。ほら、こっちのピンクといろがちがうでしょ?」
こちらもまた幼い朱鷺子様です。寄り添うようにして立っているのは幼い男の子。朱鷺子様と同じくらいか、或いは一つか二つ年上でしょうか? 実際には、もっと年上かもしれませんし、実年齢よりも大人びているのかもしれません。お顔立ちは拝見したくても、陽の光は眩しく当たっていて見えないのですよ。けれども、紺色のおズボンとか白のブラウスとか、とても上質な布で丁寧に仕上がっている衣装をお召しなのは分かります。手足も長いですね。
「ホントだ! ときいろ? おじょうとおなじなまえだね!」
「うん! このいろみたいにすてきなおんなのこになりましょうね、て。ときこ、ておなまえつけたんだって」
「へぇ? じゃぁ、このときいろのぼたんがにあうころになったら、むかえにくるよ。そしたらけっこんしよう!」
「わぁ! およめさんにしてくれるの?」
「もちろん!」
「やくそくだよ!」
「うん、ゆびきりしよう」
「「ゆーびきーりげーんまーん……」」
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おや、朱鷺子様はお目覚めになりましたよ。そうです、今まで朱鷺子様の夢の中にお邪魔していたのでした。時折、朱鷺子様は夢にうなされる朱鷺がございますので、密かに護衛を兼ねているのでございますよ。勿論、護衛担当は他におりますが、これは私がしたくてしている……そんなところでしょうか。私なら、朱鷺子様を悪夢からお守りする事もできますしね。
「お早うございます、朱鷺子様」
朱鷺子様の右頬に、私の左頬を摺り寄せます。
「……お早う、琥珀。また、あの夢を見たわ。お母様との会話や名前の由来の夢は実話だけど、もう一つの夢の男の子、誰なのかしらね? 実在するのかしら……」
そうおっしゃいながら、ベッドからゆっくりと起き上がります。さぁ、私には解りかねます、と首を傾げておきましょう。
翠子様はとてもお美しくて心優しい御方でした。元々お体がさほど丈夫では無かった為、朱鷺子様が四歳のお誕生日を迎える前に、風邪を拗らせてそのまま儚くなられてしまいました……。
「案外、妄想の産物かもね、あの男の子。イマジナリーフレンドってやつね」
そう言って、私の頭を撫でます。
(……薫お兄様だったら、どんなに良いか……。でも、それならそれで虚しいだけか。現実的にお兄様は、瑠璃子を選ぶでしょうから)
寂しそうに心の中で呟く朱鷺子様。何とかして差し上げたいのですが、肝心の薫様の本心が、私の力を持ってしても読めないのですよ。うーん、どうしたものか……。
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