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第三話
本源郷の日常「新メンバーは、太宰治の霊???」その二
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「……そうなんですよ。文豪の漫画やアニメは人気のようで……。それで作品もですが、作家の先生自身にも興味を持つ人が増えて来たみたいで」
『うーん……やっぱり、何やら複雑な心境ですねぇ』
真帆が戻って来ると、太宰とオーナーはすっかり打ち解けた様子で会話を楽しんでいる様子だ。少し躊躇いがあるものの、太宰がこの喫茶店に居つくなら打ち合わせはしておかねばなるまい。真帆は思い切って声をかけた。
「お話し中失礼致します。ただ今戻りました!」
一斉に真帆を見る一人と一体。
「お帰り」
『お帰り』
そして同時に声をかけられる。何だか息がぴったりだ。
……太宰先生双子座、オーナーは天秤座。相性はバッチリだもんね……
と思いつつ、話を切り出す。
「そうそう、それで……太宰先生がこの喫茶店におられるとなりますと、まずスタッフにはその旨伝えた方が良いと思うのですが、先生のお姿はスタッフ全員に視えるようにした方が良いのか、自然の流れに任せるか。予め決めておいた方が良いと思うのですが……」
「確かに、そうだね。さすが、しっかり者の神谷さんだ」
太宰はそんな二人のやり取りに戸惑っている様子だ。
『あの、僕の姿が視えるようにとかなんとかって、どういう事? たまたま波長が合うとかなら話は分かるけど、なんだかみんな、普通に視える視えないをコントロール出来るような感じで話が進められているけど……』
彼の疑問に、ハッと気づいた様子の真帆とオーナー。二人は顔を見合わせて頷いた。オーナーがその件について説明しようと太宰を見つめた時、
カランカランカラン
とドアのベルが鳴り響いた。
「あらぁ、楽しそうね!」
柔らかで朗らかな声と共に入室して来たのは、
「華乃子!」
「華乃子さん! お疲れ様です、お邪魔してます」
オーナー富永倫太郎の妻兼『本源郷』の人事と経理と本の表紙&作成、そして本セレクト担当の富永華乃子であった。 ちなみに、オーナーは本の作成&本セレクト担当である。
今日の華乃子は、定休日とあってマゼンタのチュニックワンピースに黒のパンツ、蛍光オレンジのスニーカーといういでたちだ。髪は後ろの低い位置で上げ、金色のバレッタで纏めている。ほとんどスッピンに近い薄化粧が施されているが、マシュマロみたいにふんわりと可愛らしい。不思議と、派手なマゼンタがよく似合っている。
彼女はゆっくりと一同に近づいた。
「いらっしゃい。お休の時にご苦労様。卒論お疲れ様ね。来春から正社員。宜しくね!」
笑顔で真帆を労う。
「有難うございます。こちらこそ、宜しくお願いします!」
そして華乃子はふと、太宰に気付いたようだ。
「あら? もしかして初めてのお客様かしら?」
と笑顔を向ける。
『えっと……』
太宰はどう返答すべきか迷っている様子だ。
「あ、ごめんなさい、私には紺色っぽい着物姿の細くて背の高い男の人かしら……としか視えないのだけれどね」
その説明で、己が問うべき言葉を見つけた様子の太宰。一気に表情が明るくなる。
『もしかしたら、ここの従業員の方々ってその……所謂視えちゃう方々、て感じなのですか?』
すると、真帆、オーナー、華乃子と一瞬迷った様子で顔を見合わせた。真帆は素早く説明する。
「こちらの方は、あの文豪、太宰治先生で。しばらく、この喫茶店に居たいとのことで。今オーナーにお話をしたところなんです。お客様はともかく、従業員には先生のお姿が視えた方が良いのでは? と」
その言葉に、三人は頷き合う。そして華乃子が代表して口を開いた。
「そうね。せっかく、あの太宰治先生がいらして下さったのだし。お客様の反応は本当に十人十色だと思うから逆に視えない方が良さげだけれど。従業員には視えた方が良いわね。皆、本好きだから喜ぶでしょうし」
真帆は「やったね!」と言うように太宰に笑みを向けた。オーナーも、嬉しそうに右手の拳を突き出す。照れたように笑う太宰。戸惑いながらも右手の拳を突き出し、オーナーの拳に当てた。まさにスカッと太宰の拳をすり抜けるオーナーの拳。まるでマジックショーを目の当たりにしてるようだ。いわば、3D映画の人物と生身の人間の握手のような感じだ。オーナーは「へぇ」と感心したように己の拳を見つめる。
「あ、そうそう、太宰先生の質問に答えてなかったわね、ごめんなさい」
思い出したように華乃子は急き込む。
「当店はね、オーナーや私、そして真帆ちゃん、ここにいる従業員の他にあと三人、社員の子がいるのですよ。そしてあと三人、アルバイトの子が。それで、正社員の子たちは全員、何かしら霊感みたいなものが備わってるのです」
『あー、なるほど。それで真帆ちゃんが私のことを「太宰治先生です」と言っても、オーナーも奥様も特に驚かずに受け入れてらっしゃったんですね』
太宰は納得したように何度も頷く。
「そう言うこと。ま、宜しくお願いしますよ、先生」
とオーナーはハッハッハッと豪快に笑った。
「こちらこそ」
太宰はぺこりと頭を下げた。
「改めて、宜しくです」
と真帆。
「宜しくお願いしますね。お店は益々楽しくなるわ。それはそうと、幽霊さんには何の報酬を支払えば良いのかしら? 別に何かお仕事をして頂く訳ではないのだけれど、あの太宰先生がうちに居てくださるのに、まさかただで、とか申し訳ないし」
と華乃子。言われてみれば尤もな疑問点だ。
『いえいえ、お気遣いなく。私は私でやるべきことがあって居させて頂くのですし。反対にこちらがお礼として客寄せに貢献させて頂けたらと』
太宰は妖艶に微笑んだ。
……まさか、好みのお客様をこっそり口説こうとなんかしてないよねぇ。必ずしも先生の姿がその人に視えるかどうかもわからない訳だし……
ぼんやりと真帆は思う。
「おう、これは有り難い! 何はともあれ、『フォーチュン喫茶「本源郷」』の従業員の一人に仲間入りだ!」
オーナーは本当に嬉しそうに破顔した。
「大歓迎ですよ。宜しくお願いしますね」
と華乃子。彼女も本当に嬉しそうに目を輝かせている。
「改めまして、太宰治先生、ようこそ! 『フォーチュン喫茶「本源郷」』へ!」
真帆は丁寧に頭を下げ、キラキラ瞳を輝かせた。
かくして太宰治(の幽霊)は、『フォーチュン喫茶「本源郷」』の一員となったのである。
『うーん……やっぱり、何やら複雑な心境ですねぇ』
真帆が戻って来ると、太宰とオーナーはすっかり打ち解けた様子で会話を楽しんでいる様子だ。少し躊躇いがあるものの、太宰がこの喫茶店に居つくなら打ち合わせはしておかねばなるまい。真帆は思い切って声をかけた。
「お話し中失礼致します。ただ今戻りました!」
一斉に真帆を見る一人と一体。
「お帰り」
『お帰り』
そして同時に声をかけられる。何だか息がぴったりだ。
……太宰先生双子座、オーナーは天秤座。相性はバッチリだもんね……
と思いつつ、話を切り出す。
「そうそう、それで……太宰先生がこの喫茶店におられるとなりますと、まずスタッフにはその旨伝えた方が良いと思うのですが、先生のお姿はスタッフ全員に視えるようにした方が良いのか、自然の流れに任せるか。予め決めておいた方が良いと思うのですが……」
「確かに、そうだね。さすが、しっかり者の神谷さんだ」
太宰はそんな二人のやり取りに戸惑っている様子だ。
『あの、僕の姿が視えるようにとかなんとかって、どういう事? たまたま波長が合うとかなら話は分かるけど、なんだかみんな、普通に視える視えないをコントロール出来るような感じで話が進められているけど……』
彼の疑問に、ハッと気づいた様子の真帆とオーナー。二人は顔を見合わせて頷いた。オーナーがその件について説明しようと太宰を見つめた時、
カランカランカラン
とドアのベルが鳴り響いた。
「あらぁ、楽しそうね!」
柔らかで朗らかな声と共に入室して来たのは、
「華乃子!」
「華乃子さん! お疲れ様です、お邪魔してます」
オーナー富永倫太郎の妻兼『本源郷』の人事と経理と本の表紙&作成、そして本セレクト担当の富永華乃子であった。 ちなみに、オーナーは本の作成&本セレクト担当である。
今日の華乃子は、定休日とあってマゼンタのチュニックワンピースに黒のパンツ、蛍光オレンジのスニーカーといういでたちだ。髪は後ろの低い位置で上げ、金色のバレッタで纏めている。ほとんどスッピンに近い薄化粧が施されているが、マシュマロみたいにふんわりと可愛らしい。不思議と、派手なマゼンタがよく似合っている。
彼女はゆっくりと一同に近づいた。
「いらっしゃい。お休の時にご苦労様。卒論お疲れ様ね。来春から正社員。宜しくね!」
笑顔で真帆を労う。
「有難うございます。こちらこそ、宜しくお願いします!」
そして華乃子はふと、太宰に気付いたようだ。
「あら? もしかして初めてのお客様かしら?」
と笑顔を向ける。
『えっと……』
太宰はどう返答すべきか迷っている様子だ。
「あ、ごめんなさい、私には紺色っぽい着物姿の細くて背の高い男の人かしら……としか視えないのだけれどね」
その説明で、己が問うべき言葉を見つけた様子の太宰。一気に表情が明るくなる。
『もしかしたら、ここの従業員の方々ってその……所謂視えちゃう方々、て感じなのですか?』
すると、真帆、オーナー、華乃子と一瞬迷った様子で顔を見合わせた。真帆は素早く説明する。
「こちらの方は、あの文豪、太宰治先生で。しばらく、この喫茶店に居たいとのことで。今オーナーにお話をしたところなんです。お客様はともかく、従業員には先生のお姿が視えた方が良いのでは? と」
その言葉に、三人は頷き合う。そして華乃子が代表して口を開いた。
「そうね。せっかく、あの太宰治先生がいらして下さったのだし。お客様の反応は本当に十人十色だと思うから逆に視えない方が良さげだけれど。従業員には視えた方が良いわね。皆、本好きだから喜ぶでしょうし」
真帆は「やったね!」と言うように太宰に笑みを向けた。オーナーも、嬉しそうに右手の拳を突き出す。照れたように笑う太宰。戸惑いながらも右手の拳を突き出し、オーナーの拳に当てた。まさにスカッと太宰の拳をすり抜けるオーナーの拳。まるでマジックショーを目の当たりにしてるようだ。いわば、3D映画の人物と生身の人間の握手のような感じだ。オーナーは「へぇ」と感心したように己の拳を見つめる。
「あ、そうそう、太宰先生の質問に答えてなかったわね、ごめんなさい」
思い出したように華乃子は急き込む。
「当店はね、オーナーや私、そして真帆ちゃん、ここにいる従業員の他にあと三人、社員の子がいるのですよ。そしてあと三人、アルバイトの子が。それで、正社員の子たちは全員、何かしら霊感みたいなものが備わってるのです」
『あー、なるほど。それで真帆ちゃんが私のことを「太宰治先生です」と言っても、オーナーも奥様も特に驚かずに受け入れてらっしゃったんですね』
太宰は納得したように何度も頷く。
「そう言うこと。ま、宜しくお願いしますよ、先生」
とオーナーはハッハッハッと豪快に笑った。
「こちらこそ」
太宰はぺこりと頭を下げた。
「改めて、宜しくです」
と真帆。
「宜しくお願いしますね。お店は益々楽しくなるわ。それはそうと、幽霊さんには何の報酬を支払えば良いのかしら? 別に何かお仕事をして頂く訳ではないのだけれど、あの太宰先生がうちに居てくださるのに、まさかただで、とか申し訳ないし」
と華乃子。言われてみれば尤もな疑問点だ。
『いえいえ、お気遣いなく。私は私でやるべきことがあって居させて頂くのですし。反対にこちらがお礼として客寄せに貢献させて頂けたらと』
太宰は妖艶に微笑んだ。
……まさか、好みのお客様をこっそり口説こうとなんかしてないよねぇ。必ずしも先生の姿がその人に視えるかどうかもわからない訳だし……
ぼんやりと真帆は思う。
「おう、これは有り難い! 何はともあれ、『フォーチュン喫茶「本源郷」』の従業員の一人に仲間入りだ!」
オーナーは本当に嬉しそうに破顔した。
「大歓迎ですよ。宜しくお願いしますね」
と華乃子。彼女も本当に嬉しそうに目を輝かせている。
「改めまして、太宰治先生、ようこそ! 『フォーチュン喫茶「本源郷」』へ!」
真帆は丁寧に頭を下げ、キラキラ瞳を輝かせた。
かくして太宰治(の幽霊)は、『フォーチュン喫茶「本源郷」』の一員となったのである。
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