いらっしゃいませ!フォーチュン喫茶「本源郷」

大和撫子

文字の大きさ
32 / 44
第九話

恋乱舞・その一

しおりを挟む
『さて、どうする? 乗り込むかい?』

 太宰はけしかけるように言った。

(……いいえ)

 蒼介の唇は穏やかな弧を描いた。

(乗り込んで、情熱的に告白。実際、話しだけを聞くと男らしくてカッコ良さそうですし。だけどそれはまぁ、十代、せいぜい二十代前半までなら若さ故に……で済まされるでしょう。そしてそれは、ファンタジー世界なら更に有り、でしょうね。けれども現実は、単に状況や後先を考えない無責任男、ですよ。何よりみのりさん本人、みのりさんのご家族に迷惑です)

『そんなものかねぇ。まぁ、今の女性たちは驚くほど現実的だって聞くし、そう言う判断が適格とみなされるんだろうけど……時代、かねぇ?』

 太宰は呆れているとも、寂しそうとも、何とも表現し難い複雑な表情を浮べた。

(いやいや、今の時代だって、ルックスや才能に恵まれた男性に惚れこんでついていく女の人も居ますよ。ただ、僕は僕自身が凡人過ぎて何の取りえもない上に草食系で、女の人が喜びそうな話題の提供や美辞麗句も苦手なもんで、堅実に至って常識的に振る舞った方が無難なんです……と言っても、冒険も出来ませんけどね)

 彼もまた、悲しみとも自嘲とも取れる複雑な笑みを浮かべた。

『そういう誠実で正直、思慮深さが良い、て女性もいるさ。沢山ね』
<現にみのりちゃんは君の事好きなんだし……て教えてやりたいが、こればっかりはなぁ……>

『……で、これからどうする?』

 太宰は彼に全てを委ねた。蒼介はしばらく考え込むように宙を見つめた。

(お見合いが終わって、彼女が一人になるのを待ちます)

 やがて蒼介は意を決したように言った。

『そっか。知ってると思うけどさ。お見合い後、仲人と互いの親は先に居なくなって、本人同士が二人だけでデート、てパターンだと思うよ』

(はい、そんな流れが多いとは聞いた事が……)

『まぁ、状況見てさ。もし彼女が困ってるようなら、突入しても良いんじゃないかな。様子は見てきて伝えてあげるからさ』

(あ、はい。有難うございます。あの、でも……どうしてこんなに親切にしてくださるんですか?)

 ほんの少し体を強張らせた様子の太宰。だが、照れたように笑う。

『まぁ、魂の状態になって色々と内省する時を経て……て言うかね。じゃ、そういう事なんでまた知らせに来るよ!』

 そし慌てたように姿を消した。


(何か訳があるんだろうなぁ)


 蒼介は感じた。そして少し冷めてきた緑茶をゆっくりと口に含んだ。



『ふぅー。いつかは言わないといけないだろうけど……』

 太宰は再び見合いの場所へと姿を現す。天井に近い場所に浮かび上がる感じだ。ふと、背後に気配を感じた。

『おう! 太宰、全然戻って来ないと思ったら、面白い事してんじゃねーか!』

 不意に、羽交い締めするような勢いで彼の右肩に自らの右腕を巻き付けた男がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...