貼りだされた文章

ゆうり

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訪問

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数日後

ついに鴨野宅訪問の日が来てしまう。
営業車に乗って支店を出発する。
今日の11時に会う約束になっている。

栄一はここ数日のことを思い出す。
訪問日を決めるだけでも一苦労があった。
鴨野さんの携帯に何度電話しても出ないのである。
折り返しもない。

何にも縛られない独居のお年寄りは携帯を放置していることもある為、連絡が取れないことはしばしばある。

こういう場合はホームヘルパー等の頻繁に家に出入りしている人に連絡を取ってもらうことが通例だ。

そういった人はいないか調べるために役場に電話する。
すると近いうちに生活安全課の職員が鴨野宅に訪問することが分かった。

例の暴力事件の後定期的に面談に行っているらしい。
その職員から一緒に訪問しないかと提案を頂いた。
願ったり叶ったりだと栄一は喜んだ。
1人で行くより定期的に会っている人がいてくれた方がはるかにやりやすい。



いつもの急カーブ地帯を抜け、田園風景が見えてきた。
鴨野宅の庭は車を止める程のスペースはない。
その為以前も停めた家の向かい側にある空き地に駐車する。

栄一はこれから行く家を観察した。
庭先の風景は変わらず伸びた雑草に気味の悪い祠、そして意味不明な文章があった。

この文章を見ても初日のように恐怖を感じていないことに気づく。
『流石に何度も見たから慣れてきたかな・・・』

ここ数日ずっと貼りだされたままだった。
いつもより長い期間貼られているのは何故なのか?
それだけ自信策ということなのだろうか?

車内で庭先を見ながら思考に耽っていると市街地の方向から軽自動車が走ってきた。
後続車はなかったがきちんとウインカーを出して栄一の前に車を駐めた。
車から降りてこちらに歩いてくる。
栄一もすぐさま降りようとするが、スマホを足元に落としてしまい少し手間取る。

「こんにちは。生活安全課の田辺です」
「初めまして、こんにちは。安田です」
車から出たところで挨拶をする。

田辺さんは40歳位の男性だった。
細身だが背が高い。180センチ程あ
りそうだ。
背筋もピシっとしていて、髪や服装にも乱れがなくスキを感じない。
しかし笑顔とやわらかなしゃべり方で威圧的な雰囲気はない。
礼儀正しそうで良い印象だった。

「同行させていただきありがとうございます。鴨野さんに電話しても全然繋がらなかったので困っていたんですよ」
「はは、そうでしょうね。鴨野さん機械が大の苦手でしてね。一応携帯は持っているんですけど触ろうとしないんですよね」

軽く雑談をしたところで早速鴨野宅へと向かう。
庭先の文章がどうしても目に入ってしまう。
「これはいったいどういう意味があるのですか」
栄一は文章を指して質問する。
「ああ、まぁこれは作品の展覧会を行なっているといったところですかね。この文章の意味は分かりませんが」
やっぱり自慢なのかと心の中で納得した。
「気味が悪いとクレームはあったのですが、悪意のある内容ではないのでやめるようには言えてないんですよね」

そう言って田辺さんはインターホンを押す。
音は鳴ったが声がしたり人が動いている様子はなかった。
「ごめんください。田辺です」
大きめな声で呼びかけたが、中から人の動く気配は感じられない。
「出かけちゃったんですかね?」
「いやそれはないですね。鴨野さんは足が悪くて家から出られないので」
それもそうか、と思う。

家にいるはずなのに返事がないならもしかして、と最悪のパターンが頭によぎる。
しかしこういう場合は中で寝ていたとかがよくあるパターンだ。流石にそれはないなと思考を改める。

田辺さんは躊躇するそぶりもなくドアを開けた。
「鴨野さんいつも玄関に鍵かけないんですよ」
そういうと中に入っていく。
「鴨野さん!田辺です!いらっしゃいませんか!」
先ほどより声量を上げている。

意外にも家の中は庭と違い整頓されていた。
玄関に余計なものはなく汚い家という印象は抱かない。

「寝ちゃってるんですかね」
「かもしれませんね。鴨野さん上がりますよ!」
田辺さんが中へ入っていったので栄一もついていく。

中はよくある構造だった。
正面と右側に部屋があり、その間に奥まで続く廊下が伸びている。
正面の部屋はふすまが閉まっていて中の様子はわからない。
右側の部屋にはこたつが置いてある。その奥にはキッチンがあるようだ。
ふすまが開いているため玄関からでも見えている。
鴨野さんの姿はない。

田辺さんはこたつのある部屋に入り、そのままキッチンの方向へと歩いて行く。
栄一もこたつがある部屋まで進んだ。
田辺さんはさらに奥の部屋に行ったようだ。そっちに寝室があるのだろうか。

待っていようと思い周囲を見渡していると、隣の部屋の廊下側のふすまがわずかに空いていることに気づく。
『えっ』
弛緩していた栄一の心に一瞬で強い緊張が走る。
ふすまの隙間から人の足が見えた。
『寝てるのか?それとももしかして・・・』

「鴨野さん、いらっしゃいますか?開けますよ」
一応声を発した。
ふすまを開ける。
部屋の中を見た栄一の動きが完全に止まる。
寝ているわけではない。
目が空いたままだ。

どうやらここは書道部屋のようだ。
今まで庭に貼られていた文字はここで書かれたのだろう。
壁にはこれまでに書いた作品や賞状がきれいに掲示されている。

整理された壁とは対象に床には惨状が広がっていた。
筆が無造作に転がり墨入れは横たわり中身がこぼれ書道で使う大きめな紙を汚している。

その紙の上に、鴨野さんらしき人が横たわっていた。

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