だって俺、ゾンビですから。

大森大翔

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だってこれ、プロローグですから

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 (こういうことは決まって唐突に訪れるんだ)
 
 薄暗い、月明かりだけが頼りの路地で赤く染まっていく石造りの道に宮島徹(みやじま とおる)は頬をつけて思っていた。
 
 胸全体に広がる焼けるような感覚と息苦しさ。
 
 気管を逆流してくる鉄の味。
 
 行き場を失ってただ漏れ出ていくだけの血。
 
 下がるだけの体温。
 
 日本で一度死んだ彼は、もうじき死ぬことを悟っていた。
 
 (死にたくない、まだ死にたくない)
 
 そう思う彼は、必死になって頭を回転させる。

 どうすれば死を回避できるのか、どうすれば助かるのか、死へと一歩ずつ近づきながらも彼は考えた。

 そして……。

 その考えは一つの結論へと結びつく。

 (人を……人を呼べば……)

 考え付いた後の彼は行動が早かった。文字通り、死へと抗うために希望を探して手を懐に伸ばす。

 (何か……何か人を呼べる物……)

 けれど、いくら探しても人を呼べるものを彼は持っていなかった。大声をあげて助けを呼ぶ体力、気力も既に失せ
ていた。つまるところ、彼は詰んだのだ。アリ地獄に嵌ったアリのように、後は死を待つだけである。

 そんな彼は、残った時間で今までの人生について振り返っていた。

 今までの人生はなんだったのか。
 
 自分が生きた意味とは?
 
 この世界に転生した意味は?
 
 いくつもの後悔と疑念が泡のように沸いては消えていった。

 「あなた、もう死にそうなのに何をやっているの?」
 
 まだ死にたくない。そんな彼の気持ちが無意識のうちに体を動かしていたのだろう。
 
 硬直し始めた体でもなお、生にしがみつき、ズルズルと人が大勢いる大通りへと向けて体を引きずっていた。
 
 「ねえ、もう助からないって分かっているのに何でそこまで生に執着するの? 受け入れたほうが楽になると思うよ?」
 
 唐突に表れた少女のその言葉は、彼を引き留めるには十分だった。
 
 「…………そこまでして生きたいんだ。……私が助けてあげようか? ただし! 私の下僕として永遠に働いてくれるなら、だけど」
 
 (助けてくれる……? それならなんだってやってやる……!)
 
 少女から告げられた言葉に体を震わせ、残りの力を使って力の限り睨み上げる。
 
 「わかった。契約成立ね」
 
 そう呟くと少女は小気味のいい靴音を鳴らして、
 
 「大丈夫。あなたは一度死んでまた新しく生まれ変わる。だから、安心して」
 
 頭に添えられた小さな手と優しい声音は残っていた彼の意識をゆっくりと摘んでいく。
 
 そして。
 
 『リバーナインス』
 
 小さく呟かれるその言葉を最後に、彼は完全に消えた。
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