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一章
だってこれ、1話ですから。
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「なに、この廃墟……」
寝起き一番に出た言葉がそれだった。
殺風景なボロボロの部屋に今にも抜け落ちてきそうな穴だらけの天井。ひび割れたガラスから入る風が寂しさを誘って、そこから入る風の音が微妙な不気味さを醸し出し、幽霊が出たと言われれば、だろうね、と返してしまうレベルの廃墟だった。
「廃墟って何よ、廃墟って。ここは私自慢の一軒家なんだけど?」
俺の寝ていたベッドの下から声が聞こえてきた。
身を乗り出して見ると、そこには漆みたいに滑らかで吸い込まれそうな黒髪と幼さの残る顔に真っ青な目を不機嫌そうにした女の子が寝ていた。
「誰?」
「誰? 目が覚めたなら先ずは、おはよう、でしょ? そんなことも知らないの?」
「え、あ、すみません。おはようございます……」
「ん。おはよう。今日はいい天気よね。外にでも行ってみる?」
「え? ああ、そうですね。天気もいいし依頼がてら遠出してみるのもよさそうですね」
……ん?
「じゃなくって! 誰? あと、ここどこ!?」
「さっきも言ったでしょ。ここは私の家。二度も同じことを言わせないでちょうだい」
「……は?」
いやいやいやいや、ちょっと待て⁉ え、俺こんな子と知り合った覚えないんだけど。もしかして昨日、酒に酔った勢いで……いや、俺に限ってそんなことはないはずだ。
「それより、私の城を廃墟だなんて言った事を謝りなさいよ」
昨日のことを思い出せ。こんなに可愛い子なら否が応でも記憶はあるはずだ……。もし、こんな子と何かあったとして、何一つ思い出せませんとか悲しすぎる。初体験は記憶の彼方とか嫌すぎる。
「あれ、おーい。聞いてる?」
ダメだ、思い出せない!
はあ、俺の息子は俺の知らない間に大人の階段を上ったんだな……。ごめんな、思い出してやれなくて……。
そう思うと俺は、さっきから横で小うるさくぶつぶつ言っている名前の知らない女の子の手を掴んで、
「責任はちゃんと取るから。大丈夫。俺、真面目だから! 浮気とか一切しないから!」
「え、責任? 何のこと……? それより謝罪は?」
「先ずは自己紹介からしましょう。俺、宮島徹って言います! 22歳独身。職業は冒険者やってます!」
「分かった。分かったからいったん落ち着いて? 私の名前はメア。メアって呼んでくれていいわよ。それでなんだけど、私は昨日、死にかけていたあんたを永遠に私の下僕として働くっていう条件で復活させたんだけど……覚えてない?」
ん? 今この子なんて言った?
「永遠に下僕として働く……? 俺が? ははっ、そんな見え見えの嘘はやめてくださいよ。第一俺、昨日死にかけてなんかいないですよ? それにこの世界に人を蘇らせる魔法なんてないですよ?」
大丈夫か、この子?
「蘇生魔法がないことくらいは知っているわよ。私が言ったのは復活。蘇生じゃない。死んだ生物をゾンビ……いわゆるアンデットとして私の永遠の下僕として復活させる魔法をあなたに使ったの。昨日、あんたは私に言ったわ。助かるためなら何でもやってやる、って。本当に覚えてないの?」
そう言って、俺の方に近寄ると何かを確認するかのように小さな手でペタペタと体中を触ってくる。
「俺がゾンビ?」
「うん。前は特に異常ないわね」
「あの、あーあー言うだけの動きが鈍間な?」
「うん。後ろも問題なしと。流石私」
「体が腐り落ちて何もかも晒け出しちゃってるあれ?」
「そうよ」
「それで俺があなたの下僕?」
「部下、永遠の労働力と言ってもいいわね」
言って、ふふん! といった感じの顔になる。
この女の子はいったい何を言っているのだろうか。ドッキリにしては手が込んでいるけど設定がとんちんかんだ。まあ、寝起きすぐにこんなかわいい子とお話しできるだけで十分なドッキリなんだけど。
「それで、さっきの質問の答えなんだけど」
「さっきの質問?」
「昨日のことを覚えているかいないか。数分前のことも覚えていないって大丈夫?」
朝だから頭が回らなかったんだよ。でも昨日の事か……。
「全然全くこれっぽちも記憶にないです」
「そう……術の後遺症かしら……いやでもお母さんと使った時はそんな事起きなかったし……うーん? いやでも……あ、もしかして! ……いや……うーん?」
この女の子……確か、メアって言ってたっけ。まあ、事情は知らないけど今日は朝からラッキーだったな。
ぶつぶつとあれでもない、これでもないと呟くメアを尻目にそんなことを思っていた。
さてと、そろそろ準備して今日の分の依頼でもこなしに行きますかね。
こっちの世界に来てからと言うもの、貰った神器のおかげで食うことには一切困らない。酒と冒険者仲間のおかげで暇を持て余すこともないし、ちょっと本気出して高報酬の依頼でもやれば残った金でギヤンブルもできる。本当、楽勝すぎる。人生ヌルゲーの奴らは毎日がこんな気分なんだろうなー。
ベッドの近くにおいてあった愛用の革製ブーツを履いて、近くに落ちている適当な服を身にまとう。
うーん……服は後で買いに行くか。流石に誰が着たかも分からない服を着続けるのは気持ちが悪い。
後は、剣だけど……どこだ?
いつもと勝手が違う部屋だけど、盗まれた……って可能性はないな。神器だけどそこらへんで売られている安物の剣と同じような見た目だし、なにより、間違えで持っていかれた時は俺の元に自分で戻ってきたわけだし……どこいったんだろ。
「神器さーんどこですかー。いたら返事をしてくださーい……なんて」
ベッドの下、服の下、タンスの中にタンスの裏。部屋の中を探したけど見つかることはなかった。
あれ、おかしいなー。どこだろう……部屋の中は大体探しつくしたし、あとは天井の裏くらいか? いや、昨日何をしていたか思い出せないし、もしかしたらどこかに置き忘れたってこともあるな。で、戻ってこようとして天井とか屋根に引っかかったとか。うん、十分にあり得る。
そう思って、部屋を出た俺は外へと出て……。
あの廃墟、思ったより屋根が低いんだな。それにここ、廃材置き場か。なら、屋根に上るのは簡単だな。
そこら辺に捨ててある廃材から屋根に届くくらいの板状の廃材何枚かを見つけだしたら重ねて壁に立てかけて屋根へとよじ登った。
屋根の上にはないし、剣が入ったような穴もないか。家の周りにも廃材だけ……と。
あー、考えたくない。こんな事は考えたくもない。けど……。
思ったが早いか、引き付け合う磁石のようにメアの元へとすっ飛んで、
「メア!」
「ひっ! 何だ、トオルか……ビックリした……。なに? 昨日の事でも思い出した?」
「いやそれはまだだけど……そんな事より、確かお前言ってたよな。昨日俺を拾ったって」
「言ったわね」
「そ、その時の俺の格好はどんなだった? どこで拾ったって?」
「格好は……そうね、今履いている靴にその黒いズボンだったかしら? 服は血まみれだったから何とも言えないけど。拾った場所は分からないわね。私この街には最近来たばかりだし」
血まみれ? まあいいや。
「剣は? すぐそばに何か落ちていなかったか⁉」
「さあ? あ、そんな事より、あんた私の城を廃墟呼ばわりしたことを謝りなさいよ。主の城を廃墟だなんて、よくもまあそんなことを抜かせたものね。あやまって!」
いや、実際廃墟みたいなんだから仕方ないだろ。それに城って……。
「今、実際廃墟みたいだしとか思ったでしょ? あんたは私の下僕なんだから考えている事なんて筒抜けなのよ? 分かったら裏表のない謝罪をして!」
「わ、分かったよ。その、廃墟とか言ってすみませんでした。これでいいか?」
本当のことを言って謝らないといけないとか、どんな理不尽だよ。
「まだ何か思っているみたいだけど……まあ、いいわ。それより、何で昨日のことを聞きに来たの? もしかして、私の話を信じる気になった?」
「まさか。あんな話、信じる以前の話じゃないか。ただ、仕事道具がここにないから昨日俺を拾ったっていうメアの話を聞きたくなっただけだよ。本当に何も落ちてなかったのか?」
「何も落ちてなかったわよ。まあ、夜だったから見えなかったかもしれないけど」
「そうか……」
しょうがない。探しに行くか……。メアの話だと昨日の俺は服が血まみれになるくらい出血していたらしい。もしも、仮に、億が一、いや微粒子レベルでメアの言った事が本当だったとしよう。それだけ出血していたとしたら地面には大量の血痕が残るし、どっかで騒ぎになっているはずだ。
「と、とりあえず探してくる! 泊めてくれてありがとうな」
言って、外へと飛び出そうとする俺に、
「あ、外に行くなら何か買ってきてよ。私昨日から何も食べてなくてお腹ペコペコなのよ」
「なんで俺が。それくらい自分で買いに行けばいいじゃないか。と言うか急いでいるんだ。じゃあな! ちょっ、放せ! 急いでるって言っただろ⁉」
「一晩泊めてあげたんだから何か買ってきてくれてもいいじゃない! お願いごはん買って、このままじゃ飢えて死んじゃう!」
駄々をこねる子供のように、掴んだ服を離すことなく俺を揺らしてくる。お願い、お願い、お願い、と。め、面倒くせえ……。
「分かった、分かったから! 朝飯くらい買ってやるからその手を離せ。服が延びる」
「ほんと⁉ よっし!」
……適当なもの食わせてやったら撒くか。粘着されたら困る。かわいいのになー……っておいおいおいおい! 何でここで着替え始めるんだよ! 急いで部屋を出ないと。
思いながら、俺は部屋を、廃墟を飛び出した。
あー、びっくりした。まさか男がいる空間で平気で着替え始めるとか……。何あいつ、羞恥心とかないの? あ、でも、もう少し見ておけばよかったなー。
「ねえちょっと、待ちなさいよ!」
廃墟から出て数歩もしないうちにそんな声がかかった。
「主を置いて先に出るなんて何を考えているのよ。普通は部屋の外で待っているものでしょ」
黒髪が映える白い服にさわやかさを感じさせる薄青のスカート。あの部屋で着ていただぼったい服だと分かりにくかったけど、この子意外とあるんだな。
「聞いてるの?」
おっと、いかんいかん。つい目線が。
「だから、俺がいつあんたの下僕になったんだよ。飯を食わせてやるだけでありがたいと思えよ」
ここから一番遠い飯屋はどこだっただろうか。頭はちょっとあれだけど、こんなにかわいい子と一緒にいられるなら少しでも時間を引き延ばしたいところだ。
「それで?」
「それでって?」
「この私にどんなご馳走を振る舞ってくれるの?」
「この街一番の店に連れて行ってやるよ」
まあ、一番遠い、店なんだけど。
「一番いい店ね……。数々の美食を食べて肥えた私の舌を満足させるものだといいわね」
奢ってもらう身で何を偉そうに……。
そんな調子で俺たちは廃材置き場を後にした。
寝起き一番に出た言葉がそれだった。
殺風景なボロボロの部屋に今にも抜け落ちてきそうな穴だらけの天井。ひび割れたガラスから入る風が寂しさを誘って、そこから入る風の音が微妙な不気味さを醸し出し、幽霊が出たと言われれば、だろうね、と返してしまうレベルの廃墟だった。
「廃墟って何よ、廃墟って。ここは私自慢の一軒家なんだけど?」
俺の寝ていたベッドの下から声が聞こえてきた。
身を乗り出して見ると、そこには漆みたいに滑らかで吸い込まれそうな黒髪と幼さの残る顔に真っ青な目を不機嫌そうにした女の子が寝ていた。
「誰?」
「誰? 目が覚めたなら先ずは、おはよう、でしょ? そんなことも知らないの?」
「え、あ、すみません。おはようございます……」
「ん。おはよう。今日はいい天気よね。外にでも行ってみる?」
「え? ああ、そうですね。天気もいいし依頼がてら遠出してみるのもよさそうですね」
……ん?
「じゃなくって! 誰? あと、ここどこ!?」
「さっきも言ったでしょ。ここは私の家。二度も同じことを言わせないでちょうだい」
「……は?」
いやいやいやいや、ちょっと待て⁉ え、俺こんな子と知り合った覚えないんだけど。もしかして昨日、酒に酔った勢いで……いや、俺に限ってそんなことはないはずだ。
「それより、私の城を廃墟だなんて言った事を謝りなさいよ」
昨日のことを思い出せ。こんなに可愛い子なら否が応でも記憶はあるはずだ……。もし、こんな子と何かあったとして、何一つ思い出せませんとか悲しすぎる。初体験は記憶の彼方とか嫌すぎる。
「あれ、おーい。聞いてる?」
ダメだ、思い出せない!
はあ、俺の息子は俺の知らない間に大人の階段を上ったんだな……。ごめんな、思い出してやれなくて……。
そう思うと俺は、さっきから横で小うるさくぶつぶつ言っている名前の知らない女の子の手を掴んで、
「責任はちゃんと取るから。大丈夫。俺、真面目だから! 浮気とか一切しないから!」
「え、責任? 何のこと……? それより謝罪は?」
「先ずは自己紹介からしましょう。俺、宮島徹って言います! 22歳独身。職業は冒険者やってます!」
「分かった。分かったからいったん落ち着いて? 私の名前はメア。メアって呼んでくれていいわよ。それでなんだけど、私は昨日、死にかけていたあんたを永遠に私の下僕として働くっていう条件で復活させたんだけど……覚えてない?」
ん? 今この子なんて言った?
「永遠に下僕として働く……? 俺が? ははっ、そんな見え見えの嘘はやめてくださいよ。第一俺、昨日死にかけてなんかいないですよ? それにこの世界に人を蘇らせる魔法なんてないですよ?」
大丈夫か、この子?
「蘇生魔法がないことくらいは知っているわよ。私が言ったのは復活。蘇生じゃない。死んだ生物をゾンビ……いわゆるアンデットとして私の永遠の下僕として復活させる魔法をあなたに使ったの。昨日、あんたは私に言ったわ。助かるためなら何でもやってやる、って。本当に覚えてないの?」
そう言って、俺の方に近寄ると何かを確認するかのように小さな手でペタペタと体中を触ってくる。
「俺がゾンビ?」
「うん。前は特に異常ないわね」
「あの、あーあー言うだけの動きが鈍間な?」
「うん。後ろも問題なしと。流石私」
「体が腐り落ちて何もかも晒け出しちゃってるあれ?」
「そうよ」
「それで俺があなたの下僕?」
「部下、永遠の労働力と言ってもいいわね」
言って、ふふん! といった感じの顔になる。
この女の子はいったい何を言っているのだろうか。ドッキリにしては手が込んでいるけど設定がとんちんかんだ。まあ、寝起きすぐにこんなかわいい子とお話しできるだけで十分なドッキリなんだけど。
「それで、さっきの質問の答えなんだけど」
「さっきの質問?」
「昨日のことを覚えているかいないか。数分前のことも覚えていないって大丈夫?」
朝だから頭が回らなかったんだよ。でも昨日の事か……。
「全然全くこれっぽちも記憶にないです」
「そう……術の後遺症かしら……いやでもお母さんと使った時はそんな事起きなかったし……うーん? いやでも……あ、もしかして! ……いや……うーん?」
この女の子……確か、メアって言ってたっけ。まあ、事情は知らないけど今日は朝からラッキーだったな。
ぶつぶつとあれでもない、これでもないと呟くメアを尻目にそんなことを思っていた。
さてと、そろそろ準備して今日の分の依頼でもこなしに行きますかね。
こっちの世界に来てからと言うもの、貰った神器のおかげで食うことには一切困らない。酒と冒険者仲間のおかげで暇を持て余すこともないし、ちょっと本気出して高報酬の依頼でもやれば残った金でギヤンブルもできる。本当、楽勝すぎる。人生ヌルゲーの奴らは毎日がこんな気分なんだろうなー。
ベッドの近くにおいてあった愛用の革製ブーツを履いて、近くに落ちている適当な服を身にまとう。
うーん……服は後で買いに行くか。流石に誰が着たかも分からない服を着続けるのは気持ちが悪い。
後は、剣だけど……どこだ?
いつもと勝手が違う部屋だけど、盗まれた……って可能性はないな。神器だけどそこらへんで売られている安物の剣と同じような見た目だし、なにより、間違えで持っていかれた時は俺の元に自分で戻ってきたわけだし……どこいったんだろ。
「神器さーんどこですかー。いたら返事をしてくださーい……なんて」
ベッドの下、服の下、タンスの中にタンスの裏。部屋の中を探したけど見つかることはなかった。
あれ、おかしいなー。どこだろう……部屋の中は大体探しつくしたし、あとは天井の裏くらいか? いや、昨日何をしていたか思い出せないし、もしかしたらどこかに置き忘れたってこともあるな。で、戻ってこようとして天井とか屋根に引っかかったとか。うん、十分にあり得る。
そう思って、部屋を出た俺は外へと出て……。
あの廃墟、思ったより屋根が低いんだな。それにここ、廃材置き場か。なら、屋根に上るのは簡単だな。
そこら辺に捨ててある廃材から屋根に届くくらいの板状の廃材何枚かを見つけだしたら重ねて壁に立てかけて屋根へとよじ登った。
屋根の上にはないし、剣が入ったような穴もないか。家の周りにも廃材だけ……と。
あー、考えたくない。こんな事は考えたくもない。けど……。
思ったが早いか、引き付け合う磁石のようにメアの元へとすっ飛んで、
「メア!」
「ひっ! 何だ、トオルか……ビックリした……。なに? 昨日の事でも思い出した?」
「いやそれはまだだけど……そんな事より、確かお前言ってたよな。昨日俺を拾ったって」
「言ったわね」
「そ、その時の俺の格好はどんなだった? どこで拾ったって?」
「格好は……そうね、今履いている靴にその黒いズボンだったかしら? 服は血まみれだったから何とも言えないけど。拾った場所は分からないわね。私この街には最近来たばかりだし」
血まみれ? まあいいや。
「剣は? すぐそばに何か落ちていなかったか⁉」
「さあ? あ、そんな事より、あんた私の城を廃墟呼ばわりしたことを謝りなさいよ。主の城を廃墟だなんて、よくもまあそんなことを抜かせたものね。あやまって!」
いや、実際廃墟みたいなんだから仕方ないだろ。それに城って……。
「今、実際廃墟みたいだしとか思ったでしょ? あんたは私の下僕なんだから考えている事なんて筒抜けなのよ? 分かったら裏表のない謝罪をして!」
「わ、分かったよ。その、廃墟とか言ってすみませんでした。これでいいか?」
本当のことを言って謝らないといけないとか、どんな理不尽だよ。
「まだ何か思っているみたいだけど……まあ、いいわ。それより、何で昨日のことを聞きに来たの? もしかして、私の話を信じる気になった?」
「まさか。あんな話、信じる以前の話じゃないか。ただ、仕事道具がここにないから昨日俺を拾ったっていうメアの話を聞きたくなっただけだよ。本当に何も落ちてなかったのか?」
「何も落ちてなかったわよ。まあ、夜だったから見えなかったかもしれないけど」
「そうか……」
しょうがない。探しに行くか……。メアの話だと昨日の俺は服が血まみれになるくらい出血していたらしい。もしも、仮に、億が一、いや微粒子レベルでメアの言った事が本当だったとしよう。それだけ出血していたとしたら地面には大量の血痕が残るし、どっかで騒ぎになっているはずだ。
「と、とりあえず探してくる! 泊めてくれてありがとうな」
言って、外へと飛び出そうとする俺に、
「あ、外に行くなら何か買ってきてよ。私昨日から何も食べてなくてお腹ペコペコなのよ」
「なんで俺が。それくらい自分で買いに行けばいいじゃないか。と言うか急いでいるんだ。じゃあな! ちょっ、放せ! 急いでるって言っただろ⁉」
「一晩泊めてあげたんだから何か買ってきてくれてもいいじゃない! お願いごはん買って、このままじゃ飢えて死んじゃう!」
駄々をこねる子供のように、掴んだ服を離すことなく俺を揺らしてくる。お願い、お願い、お願い、と。め、面倒くせえ……。
「分かった、分かったから! 朝飯くらい買ってやるからその手を離せ。服が延びる」
「ほんと⁉ よっし!」
……適当なもの食わせてやったら撒くか。粘着されたら困る。かわいいのになー……っておいおいおいおい! 何でここで着替え始めるんだよ! 急いで部屋を出ないと。
思いながら、俺は部屋を、廃墟を飛び出した。
あー、びっくりした。まさか男がいる空間で平気で着替え始めるとか……。何あいつ、羞恥心とかないの? あ、でも、もう少し見ておけばよかったなー。
「ねえちょっと、待ちなさいよ!」
廃墟から出て数歩もしないうちにそんな声がかかった。
「主を置いて先に出るなんて何を考えているのよ。普通は部屋の外で待っているものでしょ」
黒髪が映える白い服にさわやかさを感じさせる薄青のスカート。あの部屋で着ていただぼったい服だと分かりにくかったけど、この子意外とあるんだな。
「聞いてるの?」
おっと、いかんいかん。つい目線が。
「だから、俺がいつあんたの下僕になったんだよ。飯を食わせてやるだけでありがたいと思えよ」
ここから一番遠い飯屋はどこだっただろうか。頭はちょっとあれだけど、こんなにかわいい子と一緒にいられるなら少しでも時間を引き延ばしたいところだ。
「それで?」
「それでって?」
「この私にどんなご馳走を振る舞ってくれるの?」
「この街一番の店に連れて行ってやるよ」
まあ、一番遠い、店なんだけど。
「一番いい店ね……。数々の美食を食べて肥えた私の舌を満足させるものだといいわね」
奢ってもらう身で何を偉そうに……。
そんな調子で俺たちは廃材置き場を後にした。
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