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旅先の出会い
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私、石川裕介は旅行が趣味である。学生時代からバイトを掛け持ちし、金が貯まれば海外への旅を繰り返していた。有名な観光地は大体回ったと思う。
やがて社会人になり貯蓄が増えたことで旅行の回数も増えた。幾つかの国の言葉は普通に話せる様になったので言語対応のある国が増え旅行の範囲も更に少しだけ広がった。
今から語るのはそんな私の旅先から始まる物語……不思議で奇妙な体験談だ。
事の起こりは先月──フランスに行った際、蚤の市で一枚の絵を見付けたこと。それは0号サイズのカンバスに白い花を描いたものだった。
普通なら見逃されそうな作品だと思うけど、その時は妙な魅力に惹かれて足を止めた。すると、売り主の青年が声を掛けてきたんだ。
「やぁ。随分夢中じゃないか」
辛うじて覚えたフランス語で言葉は分かる。それでも青年は私に配慮し分かりやすくゆっくりと話し掛けてくれた。
「何となく惹かれてね……有名な画家の絵?」
「ハハ。そうだったら私が競売にかけているさ」
「そりゃあそうだ」
青年は茶化すように肩を竦めた。今回の蚤の市について語る内に打ち解け、一緒に昼食を……という流れになった。
「私の名前はシモンだ。君は?」
「ユースケ。日本人だよ」
シモンはジーンズにシャツというカジュアルな服装をした若い男。長身、金髪と、整った容姿だった。
「お~……アニメの国だな。ユースケ、仕事はアニメ?」
「まさか……日本人は殆ど会社員だよ。シモンは何をやってるんだ?」
「市の観光協会で働いてる。そのツテで美術品を手にするんで時折売りに出るんだ」
大衆食堂で会話しつつ舌鼓を打っていると、シモンは先程の絵について話し始めた。
「実はさっきの絵にはね、不思議な話があるんだよ」
「不思議な話?」
「あの絵に描かれたのは何の花か判るかい?」
「え~っと…… (カスミソウってフランス語だと何だっけ?)」
首を傾げている私の言葉を待たずにシモンは話を続ける。
「あれはジプソフィルだ。あまり主題として描かれない花ではあるね」
ポケット翻訳機で確認すると、やはりカスミソウのことだった。カスミソウは花束の脇役、というか引き立て役の印象が強い。確かにそれだけを描かれた絵というのは少ないのかもしれない。
「で……何が不思議なんだ?」
「あの絵は夜になると光るんだ」
「へぇ~……夜光塗料?」
「違う違う。でも、月明かりの下だと凄く幻想的だよ」
「………。もしかして売り付けようとしてるのか?」
「ハハハ。バレたか」
シモンは紅茶を一口啜った後小さく溜め息を吐いた。
「……。実はユースケに頼みたいことがある」
「絵を買えってか?」
「まあ、最後まで聞いてくれ。実はユースケが東洋人だから声を掛けたんだ。で、話したら日本人だと分かったからね……」
シモンは私を食事に誘った理由を白状した。
「あの絵は他界した父が描いたんだ。若い頃画家を目指していた父はある女性に恋をした。その時に贈ろうとしたのがあの絵なんだよ」
「……。アンタ、そんな絵を蚤の市に出していたのか?」
「元々売るつもりはなかったさ。市が立つとああして見せていたのは、もしかするとその女性が来ていて見付けてくれるかもしれないからだよ。私はその女性の外見を知らないからね」
困ったように笑うシモンを私は責められなかった。
「私にはちゃんと母が居る。だけど父の想いを知った以上、この絵を母の目の付くところには置きたくなかったんだ。悲しまれるのはゴメンだからね」
「それで……私にどうしろと?」
「ユースケがこの絵に惹かれたのは縁だと思うんだ。だから、この絵を日本に持っていってはくれないだろうか? 君がそのまま持っていてくれても良いし、誰かに譲るでも売るでも良いんだ。日本にあれば……」
「? ……どうして日本に拘るんだ?」
「父の想い人は日本人だったんだよ。名をカスミさんというらしい」
「………」
カスミだからカスミソウ=ジプソフィルだったのかと少し感心したが、私は迷っていた。
そんな絵を受け取っても私にはどうしたら良いか分からない。荷が重いというか気が重いというか……ともかく、気乗りはしない。しかし、一方でシモンの気持ちを考えると無視というのも気が引ける。
「日本にありさえすれば良いのか?」
「うん。それで天国の父も幾分満たされると思うから……」
「………。わかった。但し、話を聞いてしまった以上売買するのは私も気が引ける。絵は何処かの施設に寄贈すると思うぞ? 後で返せと言っても無理だからな?」
「ありがとう、ユースケ! 肩の荷が下りた気分だ!」
結局、私は引き受けてしまった。
恋人の佳奈美には私はお人好しだから騙されないよう気を付けろと言われている。しかし、シモンが嘘を言っている様には感じない。私には一応、人を見る目はある……と思う。
シモンと連絡先を交換し残りの数日で観光を終え日本に帰国。幸い絵に関して何か問題もなく無事に我が家に辿り着いた。
やがて社会人になり貯蓄が増えたことで旅行の回数も増えた。幾つかの国の言葉は普通に話せる様になったので言語対応のある国が増え旅行の範囲も更に少しだけ広がった。
今から語るのはそんな私の旅先から始まる物語……不思議で奇妙な体験談だ。
事の起こりは先月──フランスに行った際、蚤の市で一枚の絵を見付けたこと。それは0号サイズのカンバスに白い花を描いたものだった。
普通なら見逃されそうな作品だと思うけど、その時は妙な魅力に惹かれて足を止めた。すると、売り主の青年が声を掛けてきたんだ。
「やぁ。随分夢中じゃないか」
辛うじて覚えたフランス語で言葉は分かる。それでも青年は私に配慮し分かりやすくゆっくりと話し掛けてくれた。
「何となく惹かれてね……有名な画家の絵?」
「ハハ。そうだったら私が競売にかけているさ」
「そりゃあそうだ」
青年は茶化すように肩を竦めた。今回の蚤の市について語る内に打ち解け、一緒に昼食を……という流れになった。
「私の名前はシモンだ。君は?」
「ユースケ。日本人だよ」
シモンはジーンズにシャツというカジュアルな服装をした若い男。長身、金髪と、整った容姿だった。
「お~……アニメの国だな。ユースケ、仕事はアニメ?」
「まさか……日本人は殆ど会社員だよ。シモンは何をやってるんだ?」
「市の観光協会で働いてる。そのツテで美術品を手にするんで時折売りに出るんだ」
大衆食堂で会話しつつ舌鼓を打っていると、シモンは先程の絵について話し始めた。
「実はさっきの絵にはね、不思議な話があるんだよ」
「不思議な話?」
「あの絵に描かれたのは何の花か判るかい?」
「え~っと…… (カスミソウってフランス語だと何だっけ?)」
首を傾げている私の言葉を待たずにシモンは話を続ける。
「あれはジプソフィルだ。あまり主題として描かれない花ではあるね」
ポケット翻訳機で確認すると、やはりカスミソウのことだった。カスミソウは花束の脇役、というか引き立て役の印象が強い。確かにそれだけを描かれた絵というのは少ないのかもしれない。
「で……何が不思議なんだ?」
「あの絵は夜になると光るんだ」
「へぇ~……夜光塗料?」
「違う違う。でも、月明かりの下だと凄く幻想的だよ」
「………。もしかして売り付けようとしてるのか?」
「ハハハ。バレたか」
シモンは紅茶を一口啜った後小さく溜め息を吐いた。
「……。実はユースケに頼みたいことがある」
「絵を買えってか?」
「まあ、最後まで聞いてくれ。実はユースケが東洋人だから声を掛けたんだ。で、話したら日本人だと分かったからね……」
シモンは私を食事に誘った理由を白状した。
「あの絵は他界した父が描いたんだ。若い頃画家を目指していた父はある女性に恋をした。その時に贈ろうとしたのがあの絵なんだよ」
「……。アンタ、そんな絵を蚤の市に出していたのか?」
「元々売るつもりはなかったさ。市が立つとああして見せていたのは、もしかするとその女性が来ていて見付けてくれるかもしれないからだよ。私はその女性の外見を知らないからね」
困ったように笑うシモンを私は責められなかった。
「私にはちゃんと母が居る。だけど父の想いを知った以上、この絵を母の目の付くところには置きたくなかったんだ。悲しまれるのはゴメンだからね」
「それで……私にどうしろと?」
「ユースケがこの絵に惹かれたのは縁だと思うんだ。だから、この絵を日本に持っていってはくれないだろうか? 君がそのまま持っていてくれても良いし、誰かに譲るでも売るでも良いんだ。日本にあれば……」
「? ……どうして日本に拘るんだ?」
「父の想い人は日本人だったんだよ。名をカスミさんというらしい」
「………」
カスミだからカスミソウ=ジプソフィルだったのかと少し感心したが、私は迷っていた。
そんな絵を受け取っても私にはどうしたら良いか分からない。荷が重いというか気が重いというか……ともかく、気乗りはしない。しかし、一方でシモンの気持ちを考えると無視というのも気が引ける。
「日本にありさえすれば良いのか?」
「うん。それで天国の父も幾分満たされると思うから……」
「………。わかった。但し、話を聞いてしまった以上売買するのは私も気が引ける。絵は何処かの施設に寄贈すると思うぞ? 後で返せと言っても無理だからな?」
「ありがとう、ユースケ! 肩の荷が下りた気分だ!」
結局、私は引き受けてしまった。
恋人の佳奈美には私はお人好しだから騙されないよう気を付けろと言われている。しかし、シモンが嘘を言っている様には感じない。私には一応、人を見る目はある……と思う。
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