ジプソフィルの光

蒼村嬉享

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光る絵画

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 フランスから自宅のアパートに戻り恋人の佳奈美に連絡。佳奈美は仕事終わりに早速会いに来た。

「む~……私も行きたかったのに~」
「仕方無いだろ? 今回は佳奈美が悪いんだからさ……」
「それはまぁ……そうだけどさ~」

 私の恋人の三池佳奈美はキャリア・ウーマン。何でも叔母が事業主でその後継者にされそうなのだとか。本当は今回一緒に旅行へ行く筈だったのだが、急な仕事が入ってキャンセルせざるを得なかったのだ。

「次は連れてってよね?」
「分かってる。……。佳奈美もあんまり無理するなよ?」
「わかってるんだけどね~。叔母さん、子供いないから私を可愛がってくれてるし……」

 私のことをお人好しと言う佳奈美も存外なお人好しだと思ったが敢えて口にはしない。それは悪いことではないと思う。

「ところで……その包みは?」
「ああ。フランスで知り合った男から絵を預かったんだ」

 包装を外しながらフランスでの経緯を説明していると、佳奈美は呆れたように笑う。

「やっぱりお人好しね、裕介は」
「そうかな?」
「そうよ。で、どうするのその絵……」
「何処かの施設に寄贈しようかと思ったんだけど……佳奈美、アテとかある?」
「介護施設とかなら大丈夫かな。それで良い?」
「ああ。頼む」
「でも、その前に『絵が光る』っていうの見てみたいね」

 確かに、シモンの話が本当かは気になっていた。或いは絵を渡す為の嘘かもしれないが、この小さな絵がどれ程幻想的に見えるのか確認したい気持ちも確かにある。

「今日は晴れてるし月も出るだろ? 折角だから寄贈する前に二人で見よう」
「そうね。じゃあ、晩御飯何が食べたい?」
「牛丼?」
「え~? フランスの絵なんだから、せめてピザにしてよ」
「それはイタリア料理」

 協議の末、食事はキッシュとポトフに決まった。

 料理を手伝い土産のワインを開ける。ちょっと微酔いで食事を終えた頃には月が高く昇っていた。
 部屋の灯りを消して月明かりの差し込む窓際に件の絵を飾る。

 それから二人でソファーで寄り添いながら絵を眺めつつ他愛のない会話をしていた。絵が光ろうと光らなかろうとこうしている時間があれば良いと思っていた……のだが……。

「ねぇ、裕介……あれ……」

 小さなカンパスに描かれたカスミソウ……その白い花弁は確かに白く光って見える。だが、驚いたのはそこじゃない。

「光が……浮かんでる?」

 始め私と佳奈美は絵が月明かりに反射して光る程度だと思っていた。しかし、その絵は説明の付かない現象を引き起こしている。

 最初はワインの影響かとさえ思った。何せ絵からは青白い光が湧き出すように浮かんでは消えているのだ。
 まるで蛍を遠くから見ているような光……色だけが青白くゆっくりと上昇する淡い光は、浮かんでは瞬くように消える。

 そしてそれは、確かに幻想的で別世界の光景の様だった。

「………まいったな」
「何が? 凄いじゃない」
「確かに凄いけどさ……これ、寄贈したら騒ぎにならないか?」
「………。確かにそうね」

 この絵を世に公開したら凄い額のものになるだろう。下手をすれば奪い合い……でもそれは、シモンを裏切ることになる気がした。

「なぁ、佳奈美……」
「分かってるわよ、お人好し。寄贈は無しね」

 佳奈美は人の想いというものを理解している。だから惚れた。惚気かもしれないけど、こんな時は本当に良い女だと思う。

「それで……この絵はどうするの?」
「……こんなの見ちゃったらなぁ。何か想いが籠められていると思うんだよ」
「………。もしかして、カスミさんを捜すつもり?」
「出来れば、ね。でも、捜すにしても手掛かりがないのも事実だ」
「そうよね……。渡航歴と名前だけじゃあね……」

 そこでふと気付いたことがあった。

「あの絵に何かヒントは無いかな?」
「どういうこと?」
「送ろうとしていたなら裏に送るべき相手のことを書いてたりしないかな?」

 私の言葉に少し思案した佳奈美は一つ提案してきた。

「……調べてみる?」
「出来るのか?」
「知り合いに信用できる美術商がいるから聞いてみる。何も無くても恨まないでね?」
「いや……助かるよ」
「本当にお人好しなんだから。でも、こんな素敵なものを見せて貰ったし許してあげるわ」
「ありがとう。じゃあ……せめて今夜だけはこの光景を二人だけで楽しませて貰おうか」
「そうだね」

 絵から浮かぶ光は一晩中消えることはなかった。それは籠められた想いの強さか……幻想的な光景は私と佳奈美の心に深く刻まれた。

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