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◆第二章 遠い日の約束◆
第二話 幽霊と心残り
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伊村崎武清が来訪した日の夕刻──懐覧堂にアルバイトにやって来たアカリは、将棋盤の前で唸るスミジと対面する。
「……どうしたんですか、スミジさん?」
「うぉう! ア、アカリちゃん、いつの間に……」
「今来たところですよ。……ところで、スミジさんて将棋好きだったんですか?」
「いや……実はね?」
スミジから昼間の経緯を聞いたアカリが幽霊と怖がるかと思いきや……そんな様子は見当たらない。
「幽霊は怖くないの、アカリちゃん?」
「え? はい……何でだろ? う~ん……ホラ、名取さんの所で色々見たじゃないですか? アレで慣れちゃったのかも。多分、ホラー映画みたいに物凄く怖く出てこないなら大丈夫です」
「う~ん……」
普通はそうはならないのだが、幽霊を怖がらないならば安心だともスミジは思った。
懐覧堂の品の中には霊に由縁がある物もある。そのままズバリの幽霊画もある。それらを見る度に怖がられていては何かと対応が大変だ。杞憂で済んだのは寧ろ喜ばしいことだった。
「それで……スミジさんは幽霊さんと将棋を指してたんですね……。どんな具合ですか?」
「昼から始めて十連敗。まいったな、これは……」
スミジも嗜む程度には指したことがあったが幽霊との対局は全く相手になっていない。これでは心残りの解消に繋がるのか分からなくなってきた。
その証拠に幽霊も幾分苦笑いしている。この仕事は意外と難易度が高かった様だとスミジも苦笑いだ。
と……そこにアカリから提案が……。
「スミジさん。私もやってみて良いですか?」
「アカリちゃんが? 将棋指せるの?」
「フッフッフ……。実は私、将棋の漫画にハマって全巻読破した過去があるんです」
「へ、へぇ~……」
「その時に将棋を覚えてネット対戦しまくったんです。だから少しは指せますよ?」
過程はともかく将棋を指せるのはありがたい話だった。スミジは流石に少し疲れていたし、同じ相手とだけでは幽霊も満足しないかもしれない。実力は分からないもののアカリが指してくれるなら少しは流れが変わるだろう。
それまで駒は全てスミジが動かしていたが、今度はアカリと向かい合うように座り幽霊の分のみ動かす。
そうして始まったアカリと幽霊の対局。これが思いの外、面白い勝負だった。
(………。アカリちゃん、強ぇ……)
アカリはスミジよりもずっと強かった。一局目は負けてしまったが、二局目は粘りを見せる。三局目ではかなりの時間が掛かった末、惜敗……。残念ながらバイト終了の時間となった。
「む~……負けちゃいました。すみません」
「いや……凄いよアカリちゃん。将棋、強かったんだね」
「もう一局指したいんですけどダメですか?」
「あんまり遅いと親御さんが心配するから駄目。君はただでさえこの店で怪異に絡んでるから、闇が深くなる時間は避けないと」
「はぁ~い」
残念そうな表情のアカリは、エプロンを外し素直に帰り支度を始めた。
「………ねぇ、スミジさん」
「何だい?」
「多分、幽霊さんはプロ級ですよ?」
「え? マジで?」
「はい。私も対局して気付きましたけど、指導するような指し方でした」
「…………」
寧ろそれに気付かなかったスミジは素人に毛が生えた程度と言って良い。
「将棋以外では送ってあげられないんですか?」
「いや……できなくは無いんだけどね……」
例えば金翅鳥は神性を持っているので、魂を炎で幽世に送ることはできる。しかし、そういったやり方は謂わば相手の意思を無視した強制退場──スミジはそれが嫌だったのだ。
「単なる俺の我が儘だよ。当人に心残りがあるなら果たさせてやりたいんだ。少なくとも俺が対応した時はね?」
「優しいんですね、スミジさんは?」
「いや……多分そうでもないかな」
「……?」
視線を逸らしたスミジに何か含みを感じたが、アカリはそれ以上の追及はしなかった。
「そういえば、幽霊さんは話せないんですか?」
「うん。話せる存在と話せない存在がいるみたいなんだよ。理由は良く分からないんだけどね」
幽霊と言っても様々。言葉は発さずとも今回の様に周囲を認識し意思疎通も可能な者、周囲が見えずただ同じ行為を繰り返す者、ただ漂う者、波長の合う者を驚かせて喜ぶ者、他者に害意を向ける者……。
「因みに今対応している霊は話せないみたいだね」
「じゃあ、心残りは分からないんですね?」
「いや……そうでもないよ? 何となくは伝わるんだ」
祓い師は他者より幽界に近い故か少しだけ霊の意識を読めるのだとスミジは言った。
「一つは将棋をもっと指したいというものだったからね。アカリちゃんにも手伝って貰える?」
「わかりました。でも、一つっていうことは他にも?」
「うん。もう一つは最後に分かる。それまでは将棋を指すのみ……かな」
「……どうしたんですか、スミジさん?」
「うぉう! ア、アカリちゃん、いつの間に……」
「今来たところですよ。……ところで、スミジさんて将棋好きだったんですか?」
「いや……実はね?」
スミジから昼間の経緯を聞いたアカリが幽霊と怖がるかと思いきや……そんな様子は見当たらない。
「幽霊は怖くないの、アカリちゃん?」
「え? はい……何でだろ? う~ん……ホラ、名取さんの所で色々見たじゃないですか? アレで慣れちゃったのかも。多分、ホラー映画みたいに物凄く怖く出てこないなら大丈夫です」
「う~ん……」
普通はそうはならないのだが、幽霊を怖がらないならば安心だともスミジは思った。
懐覧堂の品の中には霊に由縁がある物もある。そのままズバリの幽霊画もある。それらを見る度に怖がられていては何かと対応が大変だ。杞憂で済んだのは寧ろ喜ばしいことだった。
「それで……スミジさんは幽霊さんと将棋を指してたんですね……。どんな具合ですか?」
「昼から始めて十連敗。まいったな、これは……」
スミジも嗜む程度には指したことがあったが幽霊との対局は全く相手になっていない。これでは心残りの解消に繋がるのか分からなくなってきた。
その証拠に幽霊も幾分苦笑いしている。この仕事は意外と難易度が高かった様だとスミジも苦笑いだ。
と……そこにアカリから提案が……。
「スミジさん。私もやってみて良いですか?」
「アカリちゃんが? 将棋指せるの?」
「フッフッフ……。実は私、将棋の漫画にハマって全巻読破した過去があるんです」
「へ、へぇ~……」
「その時に将棋を覚えてネット対戦しまくったんです。だから少しは指せますよ?」
過程はともかく将棋を指せるのはありがたい話だった。スミジは流石に少し疲れていたし、同じ相手とだけでは幽霊も満足しないかもしれない。実力は分からないもののアカリが指してくれるなら少しは流れが変わるだろう。
それまで駒は全てスミジが動かしていたが、今度はアカリと向かい合うように座り幽霊の分のみ動かす。
そうして始まったアカリと幽霊の対局。これが思いの外、面白い勝負だった。
(………。アカリちゃん、強ぇ……)
アカリはスミジよりもずっと強かった。一局目は負けてしまったが、二局目は粘りを見せる。三局目ではかなりの時間が掛かった末、惜敗……。残念ながらバイト終了の時間となった。
「む~……負けちゃいました。すみません」
「いや……凄いよアカリちゃん。将棋、強かったんだね」
「もう一局指したいんですけどダメですか?」
「あんまり遅いと親御さんが心配するから駄目。君はただでさえこの店で怪異に絡んでるから、闇が深くなる時間は避けないと」
「はぁ~い」
残念そうな表情のアカリは、エプロンを外し素直に帰り支度を始めた。
「………ねぇ、スミジさん」
「何だい?」
「多分、幽霊さんはプロ級ですよ?」
「え? マジで?」
「はい。私も対局して気付きましたけど、指導するような指し方でした」
「…………」
寧ろそれに気付かなかったスミジは素人に毛が生えた程度と言って良い。
「将棋以外では送ってあげられないんですか?」
「いや……できなくは無いんだけどね……」
例えば金翅鳥は神性を持っているので、魂を炎で幽世に送ることはできる。しかし、そういったやり方は謂わば相手の意思を無視した強制退場──スミジはそれが嫌だったのだ。
「単なる俺の我が儘だよ。当人に心残りがあるなら果たさせてやりたいんだ。少なくとも俺が対応した時はね?」
「優しいんですね、スミジさんは?」
「いや……多分そうでもないかな」
「……?」
視線を逸らしたスミジに何か含みを感じたが、アカリはそれ以上の追及はしなかった。
「そういえば、幽霊さんは話せないんですか?」
「うん。話せる存在と話せない存在がいるみたいなんだよ。理由は良く分からないんだけどね」
幽霊と言っても様々。言葉は発さずとも今回の様に周囲を認識し意思疎通も可能な者、周囲が見えずただ同じ行為を繰り返す者、ただ漂う者、波長の合う者を驚かせて喜ぶ者、他者に害意を向ける者……。
「因みに今対応している霊は話せないみたいだね」
「じゃあ、心残りは分からないんですね?」
「いや……そうでもないよ? 何となくは伝わるんだ」
祓い師は他者より幽界に近い故か少しだけ霊の意識を読めるのだとスミジは言った。
「一つは将棋をもっと指したいというものだったからね。アカリちゃんにも手伝って貰える?」
「わかりました。でも、一つっていうことは他にも?」
「うん。もう一つは最後に分かる。それまでは将棋を指すのみ……かな」
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