姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第三章 人が生み出す怪異◆

第二話 刑事の来訪

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「お~い、スミジ~。居るか~?」

 日暮れも近付き始めた時刻──東京・懐覧堂の硝子戸がガラガラと開くや否や、低く渋い声が響く。

 来訪したのはスミジと同年代の若い男。やや高めの身長に短めの髪、ダーク寄りの紺のスーツと弛めたネクタイが印象的なその男は、どこか気だるげな目で店内を見回していた。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 棚の陰で掃除をしていたアカリは、久々の来客に若干緊張している様子。

「ん? セーラー服……ああ、君が例のアルバイトのか。スミジ、居るかい?」
「スミジさんなら奥です。呼んできましょうか?」
「悪いね。そうしてくれると助かる」

 アカリは男を接客用ソファーに案内した後、店の奥へと姿を消した。

 しばし後、スミジが姿を現す。その頭にはタオルが巻かれ顔には墨が付いていた。

「容姿を聞いてもしやと思ったら……やっぱり伊庭さんか」
「おう、久し振り。……お前、顔くらい拭いてこいよ」
「ハハ……今、作業中だったんで」

 そういうとスミジはテーブルに置かれた来客用の紙おしぼりで顔を拭う。男──伊庭に汚れた位置を指摘され顔の汚れはキレイに取れた。

「スミジさん、この方はお客さんじゃないんですか?」

 伊庭とスミジに茶を用意したアカリは二人の気安い様子に疑問を持ったらしい。

「そう言えばアカリちゃんは初めてだね……。この人は伊庭さんといって刑事さんだ」
伊庭いば竜仁りゅうじだ。宜しく」
九郷くごうアカリです。宜しくお願いします」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる伊庭……。一見して刑事には見えないが妙な迫力は感じる。

「おまわりさんですか……ハッ! ま、まさか……懐覧堂に泥棒が入ったんですか!?」
「ハハハ……違う違う。今日はスミジに頼みがあって来たんだよ」
「な、なぁんだ……私、てっきりお店の商品でも盗まれたのかなって」

 客足が少ない懐覧堂の商品が盗まれでもしたら大事だとアカリなりに心配したらしい……。

「ハッハッハ。その心配は要らんさ。この店の品物盗んだら漏れ無く酷い目に遭うから……なぁ、スミジ?」
「? ……どういうことですか?」
「アカリちゃん、だっけ? この店で働いてるならコイツの【乙】の仕事も知ってるだろ? コイツ、店に術で罠仕掛けてあるんだよ」

 店の品を勝手に持ち出そうとすると、入り口付近にある額から【あやかし】──正確には【スミジが描いたあやかし】が飛び出し賊を捕らえる罠があるのだ。
 因みに、仕掛けてあるのは『釣瓶落つるべおとし』と『毛羽毛現けうけげん』……他にも色々とあるらしい。

 自分の才能は遠慮せずに使う……それがスミジの矜持である。

「へ、へぇ~……」

 アカリが目を向ければ懐覧堂入り口の長押なげしの上には確かに【あやかし】が描かれた絵が飾られている。雰囲気作りなのかと思っていたアカリは、自分が働いていた空間が妖怪屋敷だという事実に半笑いだった……。

「大丈夫だよ、アカリちゃん。一応、悪意にしか反応しないから」
「そ、そうなんですか」
「で……伊庭さん。ここまで来たってことは何か用があったんじゃないの?」
「ああ……実はな……」

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