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◆第三章 人が生み出す怪異◆
第二話 刑事の来訪②
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スミジの言葉で真顔になった伊庭は、懐から一通の封筒を取り出しテーブルに置いた。封筒には『警視庁 特別依頼案件』の文字が……。
「久々の国からの依頼……ね。……。この話、シズカには?」
「通していない。今回のは恐らく『楔崩し』だからな。あまり一般人は巻き込まない方が良いだろ?」
「『楔崩し』……なら、確かにそうだね」
一方、聞き慣れない言葉にアカリは首を傾げた。まだ懐覧堂で働き始め日の浅いアカリは、怪異に疎くても仕方の無いこと……。
そんなアカリの様子に気付いたスミジは丁寧に説明を行う。
スミジはアカリを本格的に怪異の世界に引き込むつもりはない。だが、【あやかし憑き】のアカリは何かに巻き込まれる可能性もある。その時どんな知識が役に立つか分からないので疑問の様子を見せた時はなるべく説明はするようにしていた。
「アカリちゃん。何で現代には【あやかし】が少ないと思う?」
「えっと……確か夜が明るくなったことで姿を現す場所が減って……それで皆忘れたからでしたっけ?」
「そう……。でも、実はそれだけじゃないんだよ」
そもそも闇は完全に無くならない。電力が普及し都会の夜が昼のようになろうとも、地方には未だ深い闇が残る。同様に世間が怪異を忘れても人は新たな怪異を求めるのだ。
中でも怪異を綴った絵巻物は人々の記憶に深く残る。伝承にまで引き上げられたそれらが容易く消え去ることはない。
ならば何故、姿を消したのか……?それが『楔』である。
まだ【あやかし祓い】が多く居た時代──特に優先して封じられたのが広く認識された怪異である。討滅、または封印……かつての祓い師達はそうして闇の力を削っていったのだ。
「封印のやり方はそれぞれだけど、封じて【あやかし】を眠らせたのが『楔』──つまり『楔崩し』というのは封印から出たもののことを言うんだ」
「それって……封印が壊れちゃって出てきちゃったんですか? 何でそんな……」
「経年劣化とか天災で壊れることが多いかな。それに、言い伝えを信じない人も増えたからね……。面白がって祠なんかを壊したり、曰く付きの安い土地で一儲け目的で土地を荒らしたりとかね。酷いと公共工事で壊れることもある」
道路工事や護岸工事に於いて、計画に障るものはたとえ文化財でも平気で壊す権力者も存在する。そうして世の中に放たれた【あやかし】は実はそれなりに存在するとのことだ。
「古い【あやかし】は『古妖』と言って厄介なヤツが多いんだよ。特に祟りを振り撒くヤツが危険なんだ」
スミジは差し出された封筒を開け手紙を広げた。そして一通り目を通した後、長い溜め息を吐いた。
「お前の言う通り、今回の依頼は古妖の討滅、または封印だろう。大丈夫か、スミジ?」
「……。それだけじゃないでしょ、伊庭さん?」
「お見通しか……。場合によっては祟り祓いも頼むことになる」
「……。取り敢えず持ってる情報を全部見せて欲しいんだけど」
「ああ。ちょっと待ってろ」
伊庭は懐から携帯端末を取り出し操作……報告書をスミジに見せる。そこには『超法規事例対策室』の調査で確認された詳細が記されていた。
二人の真剣なやりとりを黙って見ていたアカリだったが、ここでふと疑問が浮かんだ。
「そう言えば、なんで『おまわりさん』が怪異を? あまり関係ない気もするんですけど……」
アカリの質問にはスミジに携帯端末を手渡した伊庭が答える。
「公共に関わる場所で怪異が起きた場合はウチの部署が担当するんだ。交通事故や文化財の破損、他にも国立公園……」
「へぇ~……」
「普通の事件ではないと判断されると、各省庁から調査依頼が来ることもある。実は昔からある仕事らしいが、最近は警視庁『生活環境課別室・超法規事例対策室一係』ってな肩書きで落ち着いているみたいだな」
過去に皇室付きだった組織は、時代を経て役割とその範疇を変えていったと伊庭は自分の知る歴史を語る。
「実はウチの一族も昔は道祖土《さいど》と同じ【あやかし祓い】だったんだが、才能が薄れちまったらしくてな。それからは道祖土家と連携して調査する側になったんだ」
「それでスミジさんと知り合いだったんですね」
「ま、同郷で幼馴染みでもあるし腐れ縁ってヤツかな。そんな訳で時折こうして顔を見せると思うが……改めて宜しくな、アカリちゃん」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
二人の挨拶が終わるとほぼ同時、スミジは情報の確認を終え顔を上げた。
「滋賀県か……依頼は受けるよ、伊庭さん。アカリちゃん、悪いけど明日から二、三日お休みになる。もし何かあったら俺の携帯かシズカに連絡して」
「わかりました。………。大丈夫ですよね、スミジさん? 帰ってきますよね?」
アカリは不安な表情を浮かべている。
【あやかし祓い】は命懸けの仕事である。古妖が強力ならばスミジも危険なのではないか……そんな不安にアカリの声は僅かに震えていた。
それを悟ったスミジはアカリの頭を撫でながら穏やかな笑顔で答えた。
「大丈夫。この間も約束したろ? アカリちゃんに憑いた【あやかし】は必ず祓うって。俺は約束を破ったことは…………………………………………な、無いよね?」
「何ですか、その間は!? 何で最後ちょっと不安なんですか? 色々台無しですよ!!」
アカリのツッコミに苦笑いのスミジ。伊庭はそんなスミジの様子に何か含みのある笑いを浮かべていた……。
翌日から懐覧堂は休業──スミジは伊庭と共に滋賀県へと向かうこととなった。
「久々の国からの依頼……ね。……。この話、シズカには?」
「通していない。今回のは恐らく『楔崩し』だからな。あまり一般人は巻き込まない方が良いだろ?」
「『楔崩し』……なら、確かにそうだね」
一方、聞き慣れない言葉にアカリは首を傾げた。まだ懐覧堂で働き始め日の浅いアカリは、怪異に疎くても仕方の無いこと……。
そんなアカリの様子に気付いたスミジは丁寧に説明を行う。
スミジはアカリを本格的に怪異の世界に引き込むつもりはない。だが、【あやかし憑き】のアカリは何かに巻き込まれる可能性もある。その時どんな知識が役に立つか分からないので疑問の様子を見せた時はなるべく説明はするようにしていた。
「アカリちゃん。何で現代には【あやかし】が少ないと思う?」
「えっと……確か夜が明るくなったことで姿を現す場所が減って……それで皆忘れたからでしたっけ?」
「そう……。でも、実はそれだけじゃないんだよ」
そもそも闇は完全に無くならない。電力が普及し都会の夜が昼のようになろうとも、地方には未だ深い闇が残る。同様に世間が怪異を忘れても人は新たな怪異を求めるのだ。
中でも怪異を綴った絵巻物は人々の記憶に深く残る。伝承にまで引き上げられたそれらが容易く消え去ることはない。
ならば何故、姿を消したのか……?それが『楔』である。
まだ【あやかし祓い】が多く居た時代──特に優先して封じられたのが広く認識された怪異である。討滅、または封印……かつての祓い師達はそうして闇の力を削っていったのだ。
「封印のやり方はそれぞれだけど、封じて【あやかし】を眠らせたのが『楔』──つまり『楔崩し』というのは封印から出たもののことを言うんだ」
「それって……封印が壊れちゃって出てきちゃったんですか? 何でそんな……」
「経年劣化とか天災で壊れることが多いかな。それに、言い伝えを信じない人も増えたからね……。面白がって祠なんかを壊したり、曰く付きの安い土地で一儲け目的で土地を荒らしたりとかね。酷いと公共工事で壊れることもある」
道路工事や護岸工事に於いて、計画に障るものはたとえ文化財でも平気で壊す権力者も存在する。そうして世の中に放たれた【あやかし】は実はそれなりに存在するとのことだ。
「古い【あやかし】は『古妖』と言って厄介なヤツが多いんだよ。特に祟りを振り撒くヤツが危険なんだ」
スミジは差し出された封筒を開け手紙を広げた。そして一通り目を通した後、長い溜め息を吐いた。
「お前の言う通り、今回の依頼は古妖の討滅、または封印だろう。大丈夫か、スミジ?」
「……。それだけじゃないでしょ、伊庭さん?」
「お見通しか……。場合によっては祟り祓いも頼むことになる」
「……。取り敢えず持ってる情報を全部見せて欲しいんだけど」
「ああ。ちょっと待ってろ」
伊庭は懐から携帯端末を取り出し操作……報告書をスミジに見せる。そこには『超法規事例対策室』の調査で確認された詳細が記されていた。
二人の真剣なやりとりを黙って見ていたアカリだったが、ここでふと疑問が浮かんだ。
「そう言えば、なんで『おまわりさん』が怪異を? あまり関係ない気もするんですけど……」
アカリの質問にはスミジに携帯端末を手渡した伊庭が答える。
「公共に関わる場所で怪異が起きた場合はウチの部署が担当するんだ。交通事故や文化財の破損、他にも国立公園……」
「へぇ~……」
「普通の事件ではないと判断されると、各省庁から調査依頼が来ることもある。実は昔からある仕事らしいが、最近は警視庁『生活環境課別室・超法規事例対策室一係』ってな肩書きで落ち着いているみたいだな」
過去に皇室付きだった組織は、時代を経て役割とその範疇を変えていったと伊庭は自分の知る歴史を語る。
「実はウチの一族も昔は道祖土《さいど》と同じ【あやかし祓い】だったんだが、才能が薄れちまったらしくてな。それからは道祖土家と連携して調査する側になったんだ」
「それでスミジさんと知り合いだったんですね」
「ま、同郷で幼馴染みでもあるし腐れ縁ってヤツかな。そんな訳で時折こうして顔を見せると思うが……改めて宜しくな、アカリちゃん」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
二人の挨拶が終わるとほぼ同時、スミジは情報の確認を終え顔を上げた。
「滋賀県か……依頼は受けるよ、伊庭さん。アカリちゃん、悪いけど明日から二、三日お休みになる。もし何かあったら俺の携帯かシズカに連絡して」
「わかりました。………。大丈夫ですよね、スミジさん? 帰ってきますよね?」
アカリは不安な表情を浮かべている。
【あやかし祓い】は命懸けの仕事である。古妖が強力ならばスミジも危険なのではないか……そんな不安にアカリの声は僅かに震えていた。
それを悟ったスミジはアカリの頭を撫でながら穏やかな笑顔で答えた。
「大丈夫。この間も約束したろ? アカリちゃんに憑いた【あやかし】は必ず祓うって。俺は約束を破ったことは…………………………………………な、無いよね?」
「何ですか、その間は!? 何で最後ちょっと不安なんですか? 色々台無しですよ!!」
アカリのツッコミに苦笑いのスミジ。伊庭はそんなスミジの様子に何か含みのある笑いを浮かべていた……。
翌日から懐覧堂は休業──スミジは伊庭と共に滋賀県へと向かうこととなった。
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