姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第三章 人が生み出す怪異◆

第五話 原因と対策②

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 一時間後───スミジを迎えに来たミニバンの中で一同は情報の確認を行った。

「どうだった、スミジ?」
「封印されていたくさびは見付けたよ。でも、どうやら山崩れじゃなく封印の劣化で出たみたいだ」

 封印に使用していた要石は土砂に埋もれていた訳ではなかった。周囲に置かれた石が割れ要の石塔も倒れていたのだが、それらの石は封印に必要な霊気が微弱だったという。残っていたのは【あやかし】特有の霊気だけなので封印は劣化していたことに間違いない……というのがスミジの見立てである。

「伊庭さん、地元住民の話は聞けた?」
「ああ。昔は土地の管理者が居たらしいけど、代替わりして土地を売ったんだそうだ。昔の管理者は『あそこは地盤が軟弱だから近付くな』と言ってたみたいだが……」
「多分、それは楔に近付かせない為の嘘だと思う。先月地盤が崩れたのは別の場所みたいだし」
「だが、その嘘が地元住民に避難を習慣付けて孤立せずに済んだ訳か……皮肉な話だな」

 その辺りの事情はともかく、土砂崩れと【あやかし】の解放には関連性は無いと分かった。

「道祖土さん……」
「何ですか、秋山さん?」
「そんなことまで調べる必要ってあるんですか? 私、【あやかし】だけ祓って終わりなんだと思ってたんですけど……」

 秋山の質問には伊庭が答える。

「スミジだけならそれで済むんだが、一応お役所仕事だからな……。原因、過程、可能性を調べて報告せにゃならんのさ」
「つまり、警察の為に調べてるんですか?」
「正確には『今後の国民生活の安全確保』の為だ。これは割と重要なことだぞ?」

 封印が劣化しているのなら再封印する必要がある。管理者が不在なら国から定期的な監視が必要になり、場所によっては公共工事の計画も変えねばならない。それらを課題として精査、検討する為にも情報は必要なのである。

「もっとも、議員の先生方は自分の懐を潤すことにばかり御執心で公共工事を無理に押し通すんだけどな? 実害が出てからじゃないと理解しないからこの調査に意味がない可能性もある」
「実害……?」
「稀に封印を無視して工事を命令した奴に祟りが降りかかるのさ。でも、所詮は他人事だからと殆どの議員は学習しない。嫌んなるよ、全く」

 国会議員には議員の為の祓い師が居る。だから滅多に実害は及ばず学習しないのだと伊庭は眉間を押さえている。

「まぁまぁ。一応、こうやって調査するのは役にも立ってるよ。特に今回の封印……『天暁てんきょう』が封じたものだった」
「マジか……。それはまた……」

 秋山は専門家ではないので話に付いていけない。安心させる意図も踏まえ、スミジと伊庭は説明を始める。

「天暁というのは江戸の頃に全国を巡って【あやかし】を封じた御坊さんです。で……この天暁が封印を施した場所は今でも結構確認されているんですよ。だよね、伊庭さん?」
「ああ。その一つが経年劣化で壊れたとなると……分かるだろ?」
「つ、つまり、総点検が必要なんですね?」
「そういうことだ。だが、一気に崩れてからじゃ対応が間に合わなかったかもしれん。早めに分かっただけマシなんだが……如何せん数がな?」

 携帯端末を取り出した伊庭は何処かに電話をかけ始めた。

「あ……課長? 伊庭です。今回の件ですが天暁の案件でした。はい……協力者が現地で確認済みです。封印が劣化しているので全国調査が必要かと……。はい……はい……じゃあ、その様に手配をお願いします」

 通話を切った伊庭は小さく溜め息を吐いた。 

「やれやれ……これで一安心だろう。後は本部が対応する筈だ」
「その……封印てどのくらいあるんです?」
「分かってるだけで日本全土に六十ちょっとだ。全部確認するだけでも一仕事だな」
「六十も……怖いのが六十……アハハ……」

 秋山婦警は耳を塞いで笑っている。聞いた後に耳を塞いでも意味がないのだが、やはり少々錯乱している様だ。そして秋山のハンドル操作を失った車は少しづつ対向車線へ……しかし、今度は伊庭が直ぐ様対応した。

「うぉい! 危ねぇよ! ……ったく……大丈夫だって。気付かず【あやかし】が大量に出る方がヤバかったんだからな……その意味じゃ遥かに運が良い」
「そ、そうですよね」
「という訳でだ。いよいよ本格的に怪異を祓う。………。本当に担当を変わらずに良いんだな、秋山?」
「うっ……! だだだ、大丈夫です! …………多分」
「………。ま、頑張れ」

 怪異は闇に活性化する。更に今回の【あやかし】は常に移動を行うのだ。それに合わせ対策に必要なものを用意する、と伊庭は再び何処かへ電話をかけていた……。


 そして──逢魔が刻が訪れる。 


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