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◆第三章 人が生み出す怪異◆
第五話 原因と対策
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昼食を終え秋山家から出立したスミジ達は、次に怪異が原因で発生したと思われる事故現場へと向かう。
車の運転は変わらず秋山が行っていた。
「……秋山さん。お父さんは無事回復した訳ですから担当を外して貰ったらどうです?」
秋山婦警は怖いものが苦手。この後、本格的な怪異と対峙するので同行させるのは酷とスミジは考えた。しかし、秋山はやや上ずり声ながらもしっかりと答える。
「た、確かに怖いですが、与えられた仕事はしっかり果たさないと警察官失格ですから。それに、道祖土さんへの御礼も兼ねてお手伝いさせてください」
「そうですか……じゃあ、一応これを渡しておきますね」
スミジが懐から取り出したのは掌に収まる大きさの長方形の札。が、いつも使用している紙と違い厚紙である。
そこには龍の様なものが描かれていた。
「何ですか、これ?」
「御守りですよ。何かあれば一度だけですが必ず守ってくれます」
「あ、ありがとうございます!」
秋山は余程安心したのか、スミジが渡した札を制服の左胸ポケットに収納し手を当てている。
「それで……どうすんだ、スミジ?」
「取り敢えず事故現場を新しい方から遡って見て回る。秋山さん、お願いしますね」
「分かりました!」
事故を逆に辿れば、一般道から高速道路付近……そして再び一般道へと移動していることが分かる。辿り着いた先は山道の入り口……怪異は山から町へと下って行った様だ。
「……資料でも見たが、不規則に点々と移動してんだな。何でだ?」
「多分、結界を避けて抜け道を探してるんだと思う。ホラ、あれ……」
スミジが指差した道路脇には小さな石塔型の道祖神が見えた。
「結界自体は『片輪車』の為に張られた訳じゃないみたいだけどね」
そこで秋山は、おずおずと質問する。
「あの~……【あやかし】が結界というものを抜けたらどうなるんですか?」
「今回は多分、どうなるという訳でもないと思います。ただ、余所の地でも行動を続けるだけで。でも、そうなると被害は拡大しますし【あやかし】も力を増す。人の認識で力が強くなるので」
「た、大変じゃないですか……」
「そうですね。だから私が来ました」
東京住まいのスミジに対し地方の【あやかし祓い】……しかも国からの依頼で連絡が入ることは稀である。人手不足か、またはスミジが適任の案件か……伊庭の話では今回は前者ということになる。
「この下の道で秋山さんのお父さんが事故を起こしたんですね。じゃあ、山側の先には何が……」
「それなんですけど、実はこの先で崖崩れがあって……」
「それはいつ頃ですか?」
「ニヶ月程前ですね」
春の嵐によりゲリラ豪雨が起こり山の一部が地滑りを起こしたのが二ヵ月前……。今は復旧工事をしている最中だと秋山は続けた。
「そこまで行けます?」
「多分、途中から通行止めになってますので無理だと思いますが……」
「では、行けるところまでで良いのでお願いします」
山道の先……そこは確かに山崩れがあったらしく、重機が何台か路肩に止めてあった。
「やっぱり通行止め……すみません」
「いや、秋山さんのせいではないですよ。……因みに、この先には何があったんですか?」
「民家が幾つかありました。幸い、避難警報が出ていて家から逃れていた皆さんは無事でした」
豪雨の際の避難警告により住民は無事。とはいえ、生活道路が分断された為避難していた地元住民は帰ることができない。今は親類の元に身を寄せているらしい。
「………。良し。じゃあ、伊庭さんは秋山さんと一緒にその人達から話を聞いてきて貰える?」
「わかった。祠や社があったかを聞いてくれば良いんだな?」
「うん。できれば何か言い伝えも聞ければ」
そう言いつつスミジは車のドアを開け古い舗装の山道に降り立った。これ以上進めない場所であるので秋山は怪訝な顔をしている。
「道祖土さんはどうするんですか?」
「私はこのまま山を突っ切って上へ向かいます。一時間後に此処に迎えに来てください」
「き、危険ですよ!?」
「大丈夫。無理はしませんから……じゃあ伊庭さん、頼んだよ」
車の屋根をトントンと手で軽くと叩いたスミジは工事用の通路を先へと進んでいった。
「………ほ、本当に大丈夫でしょうか?」
「心配いらんさ。アイツは殺しても死なない」
「で、でも……」
スミジは一般として身長は高い部類に入るが、一見してそれほど鍛えている様に見えない。確かに祓い師としての実力は目にしたものの、穏やかな雰囲気に作務衣という服装も加わり秋山にはどこか頼りなさを感じていた。
「大丈夫だって。アイツ、熊も倒したことあるんだぜ……しかも人食い熊な?」
「はい? じ、冗談ですよね?」
「ハッハッハ。さてね……さ、行くぞ。俺達は俺達の仕事だ、新人」
「…………」
いつの間にか秋山への敬語をやめた伊庭は、車のダッシュボードを叩き発進を急かす。秋山は何度かスミジの消えた方角を確認した後、伊庭の指示に従い地元住民への聞き込みに向かった。
一方、スミジは……。
「う~ん……この辺りから行くかな」
人目の無い場所を選び懐から筆を取り出したスミジは、自らの足に奇妙な模様を描き頭上に視線を向ける。そして力を溜め思い切り跳躍……そのまま落石防止の柵を飛び越えた。更に岩の上でもう一度跳躍を行うと山の奥へと姿を消した。
偶然、それを目撃した工事業者は『天狗が出た……』と仲間に話したが、誰も信じなかったのは余談としておこう。
車の運転は変わらず秋山が行っていた。
「……秋山さん。お父さんは無事回復した訳ですから担当を外して貰ったらどうです?」
秋山婦警は怖いものが苦手。この後、本格的な怪異と対峙するので同行させるのは酷とスミジは考えた。しかし、秋山はやや上ずり声ながらもしっかりと答える。
「た、確かに怖いですが、与えられた仕事はしっかり果たさないと警察官失格ですから。それに、道祖土さんへの御礼も兼ねてお手伝いさせてください」
「そうですか……じゃあ、一応これを渡しておきますね」
スミジが懐から取り出したのは掌に収まる大きさの長方形の札。が、いつも使用している紙と違い厚紙である。
そこには龍の様なものが描かれていた。
「何ですか、これ?」
「御守りですよ。何かあれば一度だけですが必ず守ってくれます」
「あ、ありがとうございます!」
秋山は余程安心したのか、スミジが渡した札を制服の左胸ポケットに収納し手を当てている。
「それで……どうすんだ、スミジ?」
「取り敢えず事故現場を新しい方から遡って見て回る。秋山さん、お願いしますね」
「分かりました!」
事故を逆に辿れば、一般道から高速道路付近……そして再び一般道へと移動していることが分かる。辿り着いた先は山道の入り口……怪異は山から町へと下って行った様だ。
「……資料でも見たが、不規則に点々と移動してんだな。何でだ?」
「多分、結界を避けて抜け道を探してるんだと思う。ホラ、あれ……」
スミジが指差した道路脇には小さな石塔型の道祖神が見えた。
「結界自体は『片輪車』の為に張られた訳じゃないみたいだけどね」
そこで秋山は、おずおずと質問する。
「あの~……【あやかし】が結界というものを抜けたらどうなるんですか?」
「今回は多分、どうなるという訳でもないと思います。ただ、余所の地でも行動を続けるだけで。でも、そうなると被害は拡大しますし【あやかし】も力を増す。人の認識で力が強くなるので」
「た、大変じゃないですか……」
「そうですね。だから私が来ました」
東京住まいのスミジに対し地方の【あやかし祓い】……しかも国からの依頼で連絡が入ることは稀である。人手不足か、またはスミジが適任の案件か……伊庭の話では今回は前者ということになる。
「この下の道で秋山さんのお父さんが事故を起こしたんですね。じゃあ、山側の先には何が……」
「それなんですけど、実はこの先で崖崩れがあって……」
「それはいつ頃ですか?」
「ニヶ月程前ですね」
春の嵐によりゲリラ豪雨が起こり山の一部が地滑りを起こしたのが二ヵ月前……。今は復旧工事をしている最中だと秋山は続けた。
「そこまで行けます?」
「多分、途中から通行止めになってますので無理だと思いますが……」
「では、行けるところまでで良いのでお願いします」
山道の先……そこは確かに山崩れがあったらしく、重機が何台か路肩に止めてあった。
「やっぱり通行止め……すみません」
「いや、秋山さんのせいではないですよ。……因みに、この先には何があったんですか?」
「民家が幾つかありました。幸い、避難警報が出ていて家から逃れていた皆さんは無事でした」
豪雨の際の避難警告により住民は無事。とはいえ、生活道路が分断された為避難していた地元住民は帰ることができない。今は親類の元に身を寄せているらしい。
「………。良し。じゃあ、伊庭さんは秋山さんと一緒にその人達から話を聞いてきて貰える?」
「わかった。祠や社があったかを聞いてくれば良いんだな?」
「うん。できれば何か言い伝えも聞ければ」
そう言いつつスミジは車のドアを開け古い舗装の山道に降り立った。これ以上進めない場所であるので秋山は怪訝な顔をしている。
「道祖土さんはどうするんですか?」
「私はこのまま山を突っ切って上へ向かいます。一時間後に此処に迎えに来てください」
「き、危険ですよ!?」
「大丈夫。無理はしませんから……じゃあ伊庭さん、頼んだよ」
車の屋根をトントンと手で軽くと叩いたスミジは工事用の通路を先へと進んでいった。
「………ほ、本当に大丈夫でしょうか?」
「心配いらんさ。アイツは殺しても死なない」
「で、でも……」
スミジは一般として身長は高い部類に入るが、一見してそれほど鍛えている様に見えない。確かに祓い師としての実力は目にしたものの、穏やかな雰囲気に作務衣という服装も加わり秋山にはどこか頼りなさを感じていた。
「大丈夫だって。アイツ、熊も倒したことあるんだぜ……しかも人食い熊な?」
「はい? じ、冗談ですよね?」
「ハッハッハ。さてね……さ、行くぞ。俺達は俺達の仕事だ、新人」
「…………」
いつの間にか秋山への敬語をやめた伊庭は、車のダッシュボードを叩き発進を急かす。秋山は何度かスミジの消えた方角を確認した後、伊庭の指示に従い地元住民への聞き込みに向かった。
一方、スミジは……。
「う~ん……この辺りから行くかな」
人目の無い場所を選び懐から筆を取り出したスミジは、自らの足に奇妙な模様を描き頭上に視線を向ける。そして力を溜め思い切り跳躍……そのまま落石防止の柵を飛び越えた。更に岩の上でもう一度跳躍を行うと山の奥へと姿を消した。
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