姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第三章 人が生み出す怪異◆

第八話 冥道業魔将

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「………。そういえば久々に一人きりの【あやかし祓い】だな。あの骸骨武者、話がわかるヤツなら楽なんだけど……」

 スミジは迫る【あやかし】から目を逸らさず念入りに準備体操を行う。相変わらず作務衣姿にサンダルという軽装……それは鎧武者と戦うにはかなり心許ない様思われる。

 だが、スミジに気負いや恐れの様子は見られない。

 道祖土さいど一族は基本的に筆を利用した術を主軸とし武器などは持たない。それは祓い師としての“縛り”である。制約を設け限定された技を研鑽することで他派の真似できぬを高みを目指す……そうして道祖土さいど一族は【祓い師】としての土壌を築いてきた。
 それを凡そ二百年以上……血脈による継承は確実に結果へと繋がっていた。

 一人きりになったスミジではあるが、実はその方が遥かにやりやすいことも確かだった。

 【あやかし祓い】の仕事の殆どが『憑かれた者の解放』か『【あやかし】から守る為』の対応──つまり、他人を気遣う必要がある。勿論、自分以外が【あやかし祓い】であった場合はその限りでは無いのだが……。

「………。思ったよりデカイな」

 目前まで迫った骸骨武者はかなりの巨躯だった。馬という動物は近くで見ると想像より巨体ではある。しかし、迫る【あやかし】の馬体部分は恐らくその倍以上。当然、骸骨武者もかなりの巨体となる。手に携えている大鉈の如き刃渡りの太刀はそれだけで恐怖を与えるに充分だった。

 そんな骸骨武者は身長約180センチメートルのスミジが見上げる形になった位置で動きを止めた。

(……。対話する意思と知能があるのか?)

 スミジが期待した瞬間、骸骨武者は下顎の骨を大きく開き名乗りを上げた。

『我が名は冥道めいどう業魔将ごうましょう覇羅剛バラゴ──最強の魔将なり
「………。はい?」

 スミジ……聞き慣れない言葉に目が点になる。

 何やら怪しげな称号を持つ骸骨武者の【あやかし】・『バラゴ』──まず、名前からして胡散臭さ全開だった。喋る故に知能が無い訳ではないのだろうが……どうもスミジの知る【あやかし】とは毛色が違う。

「え……? め、冥道業魔将って何?」
『無知な人間め。冥道業魔将とは、いずれこの世に顕現なされる魔王様の臣下』
「……。えぇ~……」

 遂にスミジは大きく口を開け固まった。

(ど、どうやら誰かの創作物みたいだけど……それにしては随分霊力がある。本当に何だ、コレ……?)

 何はともあれ、会話ができるなら交渉し封じることが可能かもしれない。スミジは気を取り直して対話を続けた。

「申し訳ないんだけど、バラゴ……」
『人間如きが……呼び捨てるとは不敬なるぞ?』
「バ、バラゴ……さん? 申し訳ありませんが、このまま幽世かくりよへお帰り願えませんかね?」
『クックック……愚かなことを言う。我が愉悦は戦にあり!』
(ダメだ……。これはダメなパターンだ……)

 対話の受け答えはできるものの根本の道理が完全に別物。魔将という視点、戦いによる愉悦という目的、高圧的で傲慢な態度……もし近年の創作物だとしても、ここまで我が強い存在が交渉に応じないことは想像に易い。

「……。幽世に行かないなら無理矢理封じるか戦うしかないんだけど……どうする?」
『フハハハ! 望むところよ! 脆弱な人がどこまで抗うか見せてみよ!』

 バラゴはゆっくりと大太刀を振り翳し一気にスミジへと落とす。動きが鈍いのでスミジは難なく躱すことができた。

 が……その刃は道路を砕き盛大な地響きを起こす程の威力。

「なっ……!?」

 高速道路の高架は何とか無事……。しかし、その一撃はスミジの予想を上回る破壊力だった。
 新たに生まれただろう【あやかし】は、明らかに度を超えた力を宿していた……。
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