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◆第四章 存在の善悪◆
第十話 咎憑き
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「そういえば、スミジさん。領域の核の方は良いんですか? 競争なんですよね……私達、足手まといになりませんか?」
九頭竜姉妹……妹クレハの言葉にスミジは苦笑いで答える。
「そんなことはないよ。捜索は平行して行うし……。それに、俺自身は別に競争したい訳じゃないからね」
領域の核は人手が足りさえすれば本日中にでも祓えるだろう。
今回の目的はアカリの生活圏から大きな怪異を取り除くこと。アカリの内に封じた【あやかし】が他の怪異に刺激され目覚める可能性がある。領域が発生した事実を考慮し、脅威が誕生する前に他者に力を借りることへ舵を切った形だ。
スミジはシズカが腕利きの祓い師を選び声を掛けたと見ている。それもやはりアカリを気遣ってのこと……そして祓い師達は、人格的にも問題は無いらしいことが先程のやりとりで窺い知れた。
ならば焦る必要はない……。今回は九人の祓い師の誰かが目的を果たせさえすれば良いのだから。
「ねぇ、スミジさん?」
「ん……?」
「あの祓い師達の力って分かるの?」
「う~ん……少しは推察できるかな。アオバちゃん……詮索は本来マナー違反なのは知ってるよね? でも、マナーであってルールではない。その意味はわかる?」
「ううん。知らない」
共に仕事をすること自体が稀……もし現場が重なってもどちらかが仕事を降りるのが祓い師。相手を尊重するならそれが正しく、祓い師の能力詮索は暗黙の了解で制限されている。
それでも……経験を積む上で祓い師の情報は蓄積されて行く。どんな術や道具を使う祓い師が居るのか……スミジにも当然知識がある。
(……。少し早いけど教えておいた方が良いか……)
祓い師は他の祓い師の術や対応への知識を持っている。それには勿論、理由がある。
「祓い師は基本、他の祓い師には干渉しないし探りも入れない。これは飽くまでマナーなんだ。でも、俺や貴士さん、恐らく楠葉さんも他の祓い師が使う術の系統とかの知識は持っている。何でだと思う?」
「え? う~ん……クレハ、分かる?」
「え~っと……現場で仕事が重なった時に邪魔にならないように……かな?」
「そういった意味合いも確かに含まれているね。でも、本筋はそこじゃない」
三人は会話しながらも学園内の怪異を探り移動する。現在、周囲には人影も【あやかし】の気配も無い。だが、スミジは僅かに声を潜めて話を続けた。
「アオバちゃんは入り口の守衛さんに何かやったよね?」
「え……? うん。そうしないと通れそうに無かったから……」
「つまりはそういうことだよ」
「……?」
意味がわからず互いの顔を見合わせているアオバとクレハ。スミジは抑揚ない声で説明を始める。
「祓い師っていうのは人外……化物と対峙するから、どうやったって力が必要になる。しかも、それは霊力を元にするから普通の人には見えない。だから思わず霊力で解決しちゃうんだ」
「そういうことなんだ……ごめんなさい」
「いや。まぁ、程度の問題だからね。アオバちゃんは害を与えようとした訳じゃないし、俺も時には似たことをする。これは祓い師皆に言えることだと思うよ。でも……」
中には一線を越えてしまう祓い師が居るのだとスミジは口にした。
「そうなるとね……勘違いする人が出てくるんだ。術を使えば何をしても罰せられないってね」
アオバとクレハはここでようやくスミジの言いたいことを理解した。
「つまり、力を悪用する祓い師がいるんですか?」
「そう……。祓い師も人間だからね……悪いことに慣れるとどんどんエスカレートするんだ。そうした祓い師はやがて力の悪用の歯止めが利かなくなる」
歯止めが利かなくなった祓い師は【咎憑き】と呼ばれる。
咎憑きはその術にて様々な悪行に手を染める。窃盗、恐喝、傷害、そして殺人……。
「祓い師が受けた依頼の怪異が、実は咎憑きの手によるものだった例もある。そうなった場合、相手が退けば良いけど戦いになる場合もあるんだ。だから、祓い師は対策として知識が必要になるんだよ」
「……怖いね、アオバちゃん」
「うん……怖いね、クレハ」
「まぁ、咎憑きは割と直ぐ警察に捕まるから大丈夫だとは思うよ。でも、中にはずっと捕まらないヤバイ奴らも居る。一生出会わない可能性の方が高いけど、一応記憶には留めておいてね」
咎憑きを追うのは伊庭の所属する『超法規事例対策室』と、その上位組織にあたる宮内庁・『護国統霊会』──彼等は霊的危機に公的関与が必要な際に対応する機関。犯罪者と表立って公表できない者達への抑止力でもある。
現在、【咎憑き】と認定され長期間逮捕されていない者の数は七名……。全国で七名となれば出会う確率はかなり低い。咎憑き自身も自分が追われる身であることは理解しているので、滅多に表立って行動しない。
そして怪異祓いの依頼を出すのは怪異に対応できない一般の人間。もし【咎憑き】が何らかの意図で依頼を偽り祓い師に近付いても、互いの術式で戦うこと自体が危険であり利を得ることも少ないのだ。
そういった事情から、警戒を忘れてはならないが関わり合いになることはほぼ無いだろう……とスミジは説明した。
「という訳で、他の祓い師への対策についてはお父さんから聞いて欲しいかな。多分、その時に祓い師の見分け方も教えてくれるよ。貴士さんの役割を取るのは悪いからね」
「は~い」
九頭竜姉妹……妹クレハの言葉にスミジは苦笑いで答える。
「そんなことはないよ。捜索は平行して行うし……。それに、俺自身は別に競争したい訳じゃないからね」
領域の核は人手が足りさえすれば本日中にでも祓えるだろう。
今回の目的はアカリの生活圏から大きな怪異を取り除くこと。アカリの内に封じた【あやかし】が他の怪異に刺激され目覚める可能性がある。領域が発生した事実を考慮し、脅威が誕生する前に他者に力を借りることへ舵を切った形だ。
スミジはシズカが腕利きの祓い師を選び声を掛けたと見ている。それもやはりアカリを気遣ってのこと……そして祓い師達は、人格的にも問題は無いらしいことが先程のやりとりで窺い知れた。
ならば焦る必要はない……。今回は九人の祓い師の誰かが目的を果たせさえすれば良いのだから。
「ねぇ、スミジさん?」
「ん……?」
「あの祓い師達の力って分かるの?」
「う~ん……少しは推察できるかな。アオバちゃん……詮索は本来マナー違反なのは知ってるよね? でも、マナーであってルールではない。その意味はわかる?」
「ううん。知らない」
共に仕事をすること自体が稀……もし現場が重なってもどちらかが仕事を降りるのが祓い師。相手を尊重するならそれが正しく、祓い師の能力詮索は暗黙の了解で制限されている。
それでも……経験を積む上で祓い師の情報は蓄積されて行く。どんな術や道具を使う祓い師が居るのか……スミジにも当然知識がある。
(……。少し早いけど教えておいた方が良いか……)
祓い師は他の祓い師の術や対応への知識を持っている。それには勿論、理由がある。
「祓い師は基本、他の祓い師には干渉しないし探りも入れない。これは飽くまでマナーなんだ。でも、俺や貴士さん、恐らく楠葉さんも他の祓い師が使う術の系統とかの知識は持っている。何でだと思う?」
「え? う~ん……クレハ、分かる?」
「え~っと……現場で仕事が重なった時に邪魔にならないように……かな?」
「そういった意味合いも確かに含まれているね。でも、本筋はそこじゃない」
三人は会話しながらも学園内の怪異を探り移動する。現在、周囲には人影も【あやかし】の気配も無い。だが、スミジは僅かに声を潜めて話を続けた。
「アオバちゃんは入り口の守衛さんに何かやったよね?」
「え……? うん。そうしないと通れそうに無かったから……」
「つまりはそういうことだよ」
「……?」
意味がわからず互いの顔を見合わせているアオバとクレハ。スミジは抑揚ない声で説明を始める。
「祓い師っていうのは人外……化物と対峙するから、どうやったって力が必要になる。しかも、それは霊力を元にするから普通の人には見えない。だから思わず霊力で解決しちゃうんだ」
「そういうことなんだ……ごめんなさい」
「いや。まぁ、程度の問題だからね。アオバちゃんは害を与えようとした訳じゃないし、俺も時には似たことをする。これは祓い師皆に言えることだと思うよ。でも……」
中には一線を越えてしまう祓い師が居るのだとスミジは口にした。
「そうなるとね……勘違いする人が出てくるんだ。術を使えば何をしても罰せられないってね」
アオバとクレハはここでようやくスミジの言いたいことを理解した。
「つまり、力を悪用する祓い師がいるんですか?」
「そう……。祓い師も人間だからね……悪いことに慣れるとどんどんエスカレートするんだ。そうした祓い師はやがて力の悪用の歯止めが利かなくなる」
歯止めが利かなくなった祓い師は【咎憑き】と呼ばれる。
咎憑きはその術にて様々な悪行に手を染める。窃盗、恐喝、傷害、そして殺人……。
「祓い師が受けた依頼の怪異が、実は咎憑きの手によるものだった例もある。そうなった場合、相手が退けば良いけど戦いになる場合もあるんだ。だから、祓い師は対策として知識が必要になるんだよ」
「……怖いね、アオバちゃん」
「うん……怖いね、クレハ」
「まぁ、咎憑きは割と直ぐ警察に捕まるから大丈夫だとは思うよ。でも、中にはずっと捕まらないヤバイ奴らも居る。一生出会わない可能性の方が高いけど、一応記憶には留めておいてね」
咎憑きを追うのは伊庭の所属する『超法規事例対策室』と、その上位組織にあたる宮内庁・『護国統霊会』──彼等は霊的危機に公的関与が必要な際に対応する機関。犯罪者と表立って公表できない者達への抑止力でもある。
現在、【咎憑き】と認定され長期間逮捕されていない者の数は七名……。全国で七名となれば出会う確率はかなり低い。咎憑き自身も自分が追われる身であることは理解しているので、滅多に表立って行動しない。
そして怪異祓いの依頼を出すのは怪異に対応できない一般の人間。もし【咎憑き】が何らかの意図で依頼を偽り祓い師に近付いても、互いの術式で戦うこと自体が危険であり利を得ることも少ないのだ。
そういった事情から、警戒を忘れてはならないが関わり合いになることはほぼ無いだろう……とスミジは説明した。
「という訳で、他の祓い師への対策についてはお父さんから聞いて欲しいかな。多分、その時に祓い師の見分け方も教えてくれるよ。貴士さんの役割を取るのは悪いからね」
「は~い」
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