姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

文字の大きさ
48 / 153
◆第四章 存在の善悪◆

第十話 咎憑き

しおりを挟む
「そういえば、スミジさん。領域の核の方は良いんですか? 競争なんですよね……私達、足手まといになりませんか?」

 九頭竜姉妹……妹クレハの言葉にスミジは苦笑いで答える。

「そんなことはないよ。捜索は平行して行うし……。それに、俺自身は別に競争したい訳じゃないからね」

 領域の核は人手が足りさえすれば本日中にでも祓えるだろう。

 今回の目的はアカリの生活圏から大きな怪異を取り除くこと。アカリの内に封じた【あやかし】が他の怪異に刺激され目覚める可能性がある。領域が発生した事実を考慮し、脅威が誕生する前に他者に力を借りることへ舵を切った形だ。

 スミジはシズカが腕利きの祓い師を選び声を掛けたと見ている。それもやはりアカリを気遣ってのこと……そして祓い師達は、人格的にも問題は無いらしいことが先程のやりとりで窺い知れた。
 ならば焦る必要はない……。今回は九人の祓い師の誰かが目的を果たせさえすれば良いのだから。

「ねぇ、スミジさん?」
「ん……?」
「あの祓い師達の力って分かるの?」
「う~ん……少しは推察できるかな。アオバちゃん……詮索は本来マナー違反なのは知ってるよね? でも、マナーであってルールではない。その意味はわかる?」
「ううん。知らない」

 共に仕事をすること自体が稀……もし現場が重なってもどちらかが仕事を降りるのが祓い師。相手を尊重するならそれが正しく、祓い師の能力詮索は暗黙の了解で制限されている。

 それでも……経験を積む上で祓い師の情報は蓄積されて行く。どんな術や道具を使う祓い師が居るのか……スミジにも当然知識がある。

(……。少し早いけど教えておいた方が良いか……)

 祓い師は他の祓い師の術や対応への知識を持っている。それには勿論、理由がある。

「祓い師は基本、他の祓い師には干渉しないし探りも入れない。これは飽くまでマナーなんだ。でも、俺や貴士さん、恐らく楠葉さんも他の祓い師が使う術の系統とかの知識は持っている。何でだと思う?」
「え? う~ん……クレハ、分かる?」
「え~っと……現場で仕事が重なった時に邪魔にならないように……かな?」
「そういった意味合いも確かに含まれているね。でも、本筋はそこじゃない」

 三人は会話しながらも学園内の怪異を探り移動する。現在、周囲には人影も【あやかし】の気配も無い。だが、スミジは僅かに声を潜めて話を続けた。

「アオバちゃんは入り口の守衛さんに何かやったよね?」
「え……? うん。そうしないと通れそうに無かったから……」
「つまりはそういうことだよ」
「……?」

 意味がわからず互いの顔を見合わせているアオバとクレハ。スミジは抑揚ない声で説明を始める。

「祓い師っていうのは人外……化物と対峙するから、どうやったって力が必要になる。しかも、それは霊力を元にするから普通の人には見えない。だから思わず霊力で解決しちゃうんだ」
「そういうことなんだ……ごめんなさい」
「いや。まぁ、程度の問題だからね。アオバちゃんは害を与えようとした訳じゃないし、俺も時には似たことをする。これは祓い師皆に言えることだと思うよ。でも……」

 中には一線を越えてしまう祓い師が居るのだとスミジは口にした。

「そうなるとね……勘違いする人が出てくるんだ。術を使えば何をしても罰せられないってね」

 アオバとクレハはここでようやくスミジの言いたいことを理解した。

「つまり、力を悪用する祓い師がいるんですか?」
「そう……。祓い師も人間だからね……悪いことに慣れるとどんどんエスカレートするんだ。そうした祓い師はやがて力の悪用の歯止めが利かなくなる」

 歯止めが利かなくなった祓い師は【咎憑とがつき】と呼ばれる。

 咎憑きはその術にて様々な悪行に手を染める。窃盗、恐喝、傷害、そして殺人……。

「祓い師が受けた依頼の怪異が、実は咎憑きの手によるものだった例もある。そうなった場合、相手が退けば良いけど戦いになる場合もあるんだ。だから、祓い師は対策として知識が必要になるんだよ」
「……怖いね、アオバちゃん」
「うん……怖いね、クレハ」
「まぁ、咎憑きは割と直ぐ警察に捕まるから大丈夫だとは思うよ。でも、中にはずっと捕まらないヤバイ奴らも居る。一生出会わない可能性の方が高いけど、一応記憶には留めておいてね」

 咎憑きを追うのは伊庭の所属する『超法規事例対策室』と、その上位組織にあたる宮内庁・『護国統霊会』──彼等は霊的危機に公的関与が必要な際に対応する機関。犯罪者と表立って公表できない者達への抑止力でもある。

 現在、【咎憑き】と認定され長期間逮捕されていない者の数は七名……。全国で七名となれば出会う確率はかなり低い。咎憑き自身も自分が追われる身であることは理解しているので、滅多に表立って行動しない。

 そして怪異祓いの依頼を出すのは怪異に対応できない一般の人間。もし【咎憑き】が何らかの意図で依頼を偽り祓い師に近付いても、互いの術式で戦うこと自体が危険であり利を得ることも少ないのだ。

 そういった事情から、警戒を忘れてはならないが関わり合いになることはほぼ無いだろう……とスミジは説明した。

「という訳で、他の祓い師への対策についてはお父さんから聞いて欲しいかな。多分、その時に祓い師の見分け方も教えてくれるよ。貴士さんの役割を取るのは悪いからね」
「は~い」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

処理中です...