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◆第四章 存在の善悪◆
第十一話 三条家の視点より
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その頃──他の祓い師達は捜索を続けつつ怪異を祓っていた。
「………。確かに領域だけあって【あやかし】が増えているわね」
「はい。お疲れではありませんか、御嬢様?」
「この程度は労力の内に入らないわよ、嘉藤」
三条家の令嬢・茉莉奈は外していた左目の眼帯を戻し日傘を畳む。一方の嘉藤は懐から懐中時計を取り出し時間を確認した。
「……。本当にこの依頼を受ける必要があったのですか?」
小さく溜め息を吐いた嘉藤は仕える主を確認する。三条は同じように溜め息を吐いている。
「仕方ないでしょう? 早乙女さんからの依頼なのだから……。私はあの方に借りがあるのよ」
「しかし……」
「それに……もしかすると領域に引かれて『アレ』が現れるかもしれない。今回縁ができた祓い師達とは今後の情報共有も見込めると思うのだけど……」
「わかりました。御嬢様がそう仰有るならばこれ以上は申しません。どのみち私の役割は変わりませんので」
三条に向かい一礼をした嘉藤は懐から携帯端末を取り出す。画面には上空から景星学園全体を映した映像が表示され、所々に色の付いたマーカーが点灯している。
赤の点は現在三条達が居る場所、青い点は他の祓い師達の居る場所を示していた。
「それにしても九人とは……また集まったものですね」
「それもまた早乙女さんの人脈でしょうね。当然【咎憑き】はいない様で安心したわ」
「……得体の知れない祓い師が混じっていたことにはお気付きですか?」
「ええ……榑木、と言ったかしら? あの男は空気がまるで違うわね。もし敵意を向けられたら私達では相手にならない……違う?」
「仰有る通りにございます。アレは恐らく数多の怪異を屠ってきた者──もう人の域では無いのでしょう。悪人ではないのやもしれませんが、なるべくお近づきにならぬように……」
「わかってるわ」
嘉藤から端末を預かった三条は祓い師達の配置を見る。マーカーの位置は見事に分散している。それは互いの位置を知る手段があることの顕れ。
「それにしても、馬の【あやかし】ばかりというのも珍しいのではないかしら?」
「そうですね。しかし原因となる馬が存在しない状況でこれ程となると、道祖土スミジという男のいう通り呪物が疑われます。恐らく、それこそが馬にまつわるものなのでしょう」
「呪物……これもまた厄介だわ」
呪物は大きさに左右されることはない。小さな指輪やピアスである場合もあれば一軒家が呪物だった例もある。見極めには霊力による追跡や鑑定を行うのが常道。
しかし、領域が生まれている場合は空間の中の霊力のせいで探索が難しくなる。
祓い師達が互いの位置を把握できるのは、命あるものの霊力は種類が違うからだ。飽くまでイメージの範囲ではあるが、生物の霊力は陽の光であり怪異の霊力は夜の月……。
それを感知する方法はそれぞれながら、しっかりと認識する術は祓い師としての必要技能でもあった。
例えるなら水の上のアメンボが祓い師であり、水に伝わる波紋が霊力──これを【霊紋《れいもん》】と呼ぶ。
この霊紋は呪物からも発せられているが、当然【あやかし】からも発せられているので互いが干渉し判らなくなる。怪異の霊紋は湖面に浮かんでくる泡が起こす波のようなものなのだ。
「それでも、近付けば流石にわかるわね。だから人を頼った……道祖土さんの判断は正しい」
「早乙女様の人脈を理解していればこそなのでしょうが、良く他者を頼る気になったものです」
「道祖土の秘技は真似できないから……というのが一つ。もう一つは頼らざるを得なかったのでしょうね」
「……?」
「まぁ、それは他人の都合だから詮索はしないわ。ともかく、私達も仕事を受けた以上は手は抜けない」
「無論です。祓い師としてだけでなく三条家としての格を見せ付けてやらねば」
嘉藤はどこか楽しそうに告げた。
「さて……他の祓い師達はどうかしらね」
「彼の者らの力はおおよその予想は付きますな。宗教関係者は系統がほぼ似通ってますので」
「そうね。わからないのはあの御門という男と榑木……」
「では、そちらに衛星を向け確認しますか?
」
「やめておきましょう。今後の為にも皆さんの信頼が欲しい。早乙女さんの顔もあるでしょうし」
「承知しました」
三条茉莉奈は再び日傘を開き歩き始める。嘉藤はその僅か前を両手に皮手袋を装着しつつ歩き始めた。
「………。確かに領域だけあって【あやかし】が増えているわね」
「はい。お疲れではありませんか、御嬢様?」
「この程度は労力の内に入らないわよ、嘉藤」
三条家の令嬢・茉莉奈は外していた左目の眼帯を戻し日傘を畳む。一方の嘉藤は懐から懐中時計を取り出し時間を確認した。
「……。本当にこの依頼を受ける必要があったのですか?」
小さく溜め息を吐いた嘉藤は仕える主を確認する。三条は同じように溜め息を吐いている。
「仕方ないでしょう? 早乙女さんからの依頼なのだから……。私はあの方に借りがあるのよ」
「しかし……」
「それに……もしかすると領域に引かれて『アレ』が現れるかもしれない。今回縁ができた祓い師達とは今後の情報共有も見込めると思うのだけど……」
「わかりました。御嬢様がそう仰有るならばこれ以上は申しません。どのみち私の役割は変わりませんので」
三条に向かい一礼をした嘉藤は懐から携帯端末を取り出す。画面には上空から景星学園全体を映した映像が表示され、所々に色の付いたマーカーが点灯している。
赤の点は現在三条達が居る場所、青い点は他の祓い師達の居る場所を示していた。
「それにしても九人とは……また集まったものですね」
「それもまた早乙女さんの人脈でしょうね。当然【咎憑き】はいない様で安心したわ」
「……得体の知れない祓い師が混じっていたことにはお気付きですか?」
「ええ……榑木、と言ったかしら? あの男は空気がまるで違うわね。もし敵意を向けられたら私達では相手にならない……違う?」
「仰有る通りにございます。アレは恐らく数多の怪異を屠ってきた者──もう人の域では無いのでしょう。悪人ではないのやもしれませんが、なるべくお近づきにならぬように……」
「わかってるわ」
嘉藤から端末を預かった三条は祓い師達の配置を見る。マーカーの位置は見事に分散している。それは互いの位置を知る手段があることの顕れ。
「それにしても、馬の【あやかし】ばかりというのも珍しいのではないかしら?」
「そうですね。しかし原因となる馬が存在しない状況でこれ程となると、道祖土スミジという男のいう通り呪物が疑われます。恐らく、それこそが馬にまつわるものなのでしょう」
「呪物……これもまた厄介だわ」
呪物は大きさに左右されることはない。小さな指輪やピアスである場合もあれば一軒家が呪物だった例もある。見極めには霊力による追跡や鑑定を行うのが常道。
しかし、領域が生まれている場合は空間の中の霊力のせいで探索が難しくなる。
祓い師達が互いの位置を把握できるのは、命あるものの霊力は種類が違うからだ。飽くまでイメージの範囲ではあるが、生物の霊力は陽の光であり怪異の霊力は夜の月……。
それを感知する方法はそれぞれながら、しっかりと認識する術は祓い師としての必要技能でもあった。
例えるなら水の上のアメンボが祓い師であり、水に伝わる波紋が霊力──これを【霊紋《れいもん》】と呼ぶ。
この霊紋は呪物からも発せられているが、当然【あやかし】からも発せられているので互いが干渉し判らなくなる。怪異の霊紋は湖面に浮かんでくる泡が起こす波のようなものなのだ。
「それでも、近付けば流石にわかるわね。だから人を頼った……道祖土さんの判断は正しい」
「早乙女様の人脈を理解していればこそなのでしょうが、良く他者を頼る気になったものです」
「道祖土の秘技は真似できないから……というのが一つ。もう一つは頼らざるを得なかったのでしょうね」
「……?」
「まぁ、それは他人の都合だから詮索はしないわ。ともかく、私達も仕事を受けた以上は手は抜けない」
「無論です。祓い師としてだけでなく三条家としての格を見せ付けてやらねば」
嘉藤はどこか楽しそうに告げた。
「さて……他の祓い師達はどうかしらね」
「彼の者らの力はおおよその予想は付きますな。宗教関係者は系統がほぼ似通ってますので」
「そうね。わからないのはあの御門という男と榑木……」
「では、そちらに衛星を向け確認しますか?
」
「やめておきましょう。今後の為にも皆さんの信頼が欲しい。早乙女さんの顔もあるでしょうし」
「承知しました」
三条茉莉奈は再び日傘を開き歩き始める。嘉藤はその僅か前を両手に皮手袋を装着しつつ歩き始めた。
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