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◆第六章 古き大妖◆
第三話 四国へ
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「……。さっき『事例発覚後は』って言ったけど……」
「それはな……。……。実は今回の報告が来る以前にまで遡って事件の届け出を確認したんだが、海沿いでの行方不明が何件か見逃されていた。遺体は出ていないから牛鬼の仕業とは断言はできないが、恐らくは……」
「そうか……」
「仕事を受けるなら気持ちを切り替えろよ、スミジ? 今回の牛鬼はかなり狡猾な様だからな」
愛媛の事例が発覚するまで牛鬼はその存在を確認されなかった。十数年前の類似の事例との関連性は判らないが、行方不明の数から考えて少なくとも数年前から存在していた可能性があるという。
【あやかし】は大妖ほど狡猾……つまり力が強い程その知能も高くなる。当然ながら行動にも計画性が生まれてくるだろう。加えて現代は情報社会──【怪異】や【あやかし】などの情報も昔よりも広く周知されている。ネットなどを見た者達により存在の力も底上げされているのは間違いない。
「現代社会の影響か……。闇の深さが減った反面、認識される情報量は増える。知名度が高いほど力を付け、時には黄昏時より前にも現れる……何とも因果な話よな」
「それが現代の【怪異】の在り方なんでしょうね。賢雲さんにも心当たりがありませんか?」
「うむ。儂が若い頃に比べて新妖が増えたのもその流れだろうな。都市伝説などその最たる例だろう。そして、古妖も情報拡散にて力を増す時代……儂らには案外厄介やもしれんな」
それでも……やはり現代の【あやかし】は力を削がれることの方が多い。人を喰らうのは現世の命を取り込み適応する為だろう。
ともかく、牛鬼は人を喰らう……それは当然、看過できることではない。
「伊庭さん。取り敢えず詳しい資料は移動しながら目を通すよ。今回は時間が惜しい」
「わかった」
「賢雲さんはどうするんですか?」
「スミジ……お前が行くなら任せて良いか? 儂は関東側の『封印』の点検と管理もあるのでな……代理が居ない状態での移動は避けたいのだ」
天暁が施した【あやかし】の封印は各地に点在し、その半数を天元明智宗が管理している。賢雲は関東地区の担当だ。
封印を破ろうとする者は意外と多い。【咎憑き】などが世の混乱目的に稀に行うが、それよりも質が悪いのは一般人である。
悪戯のつもりなのだろうが、破壊された文化財の中には封印が混じっていた事例もある。
やめよう、文化財破壊!
「そういうことなら仕方無いですね」
「済まんな。四国の宗徒には伝えておく。それで邪険にはされまい」
流派の違う祓い師同士は互いを警戒する。スミジが来訪すれば排除される可能性もあるのだが、その問題は賢雲が取り払ってくれるとのこと。
「そうと決まったら懐覧堂を閉めないと……あ。アカリちゃん、授業中か……」
「それは俺の方から連絡しておく。確か、アカリちゃんは景星学園の生徒だよな?」
「うん……じゃあ、頼むよ伊庭さん」
急ぎ愛媛への出立となったスミジ……。本日、アカリはアルバイト予定だったが思わぬ休みになりそうだ。
「それじゃ急いで荷物を纏めるよ。それと……」
スミジは携帯端末を取り出しシズカに連絡を入れる。シズカは中々出なかったが、スミジが通話を切ろうとした直前に繋がった。
『う~ん……何~?』
「お前、寝てたのか?」
『昨日まで海外に居たから時差ボケでね……ふぁ~……。で、何?』
「国から【乙】の仕事が入った。起きた後で良いから報酬関連の交渉、いつもの様に頼む」
『わかった~』
「あと、アカリちゃんの……」
『警護ね。人選は私の判断で良いの?』
「任せるよ。……悪かったな、起こして」
『大丈夫よ。……。スミジ、気を付けてね』
「ああ」
スミジ不在の間、アカリが何らかの【怪異】に巻き込まれない様にする必要がある。スミジは遠出する度に警護を依頼していた。
その日の正午、飛行機にてスミジと伊庭は一路四国へ──。
今回の相手は古妖でも特に認知度が高く凶悪な『牛鬼』……事実、スミジはその強大さを目の当たりにすることになる。
「それはな……。……。実は今回の報告が来る以前にまで遡って事件の届け出を確認したんだが、海沿いでの行方不明が何件か見逃されていた。遺体は出ていないから牛鬼の仕業とは断言はできないが、恐らくは……」
「そうか……」
「仕事を受けるなら気持ちを切り替えろよ、スミジ? 今回の牛鬼はかなり狡猾な様だからな」
愛媛の事例が発覚するまで牛鬼はその存在を確認されなかった。十数年前の類似の事例との関連性は判らないが、行方不明の数から考えて少なくとも数年前から存在していた可能性があるという。
【あやかし】は大妖ほど狡猾……つまり力が強い程その知能も高くなる。当然ながら行動にも計画性が生まれてくるだろう。加えて現代は情報社会──【怪異】や【あやかし】などの情報も昔よりも広く周知されている。ネットなどを見た者達により存在の力も底上げされているのは間違いない。
「現代社会の影響か……。闇の深さが減った反面、認識される情報量は増える。知名度が高いほど力を付け、時には黄昏時より前にも現れる……何とも因果な話よな」
「それが現代の【怪異】の在り方なんでしょうね。賢雲さんにも心当たりがありませんか?」
「うむ。儂が若い頃に比べて新妖が増えたのもその流れだろうな。都市伝説などその最たる例だろう。そして、古妖も情報拡散にて力を増す時代……儂らには案外厄介やもしれんな」
それでも……やはり現代の【あやかし】は力を削がれることの方が多い。人を喰らうのは現世の命を取り込み適応する為だろう。
ともかく、牛鬼は人を喰らう……それは当然、看過できることではない。
「伊庭さん。取り敢えず詳しい資料は移動しながら目を通すよ。今回は時間が惜しい」
「わかった」
「賢雲さんはどうするんですか?」
「スミジ……お前が行くなら任せて良いか? 儂は関東側の『封印』の点検と管理もあるのでな……代理が居ない状態での移動は避けたいのだ」
天暁が施した【あやかし】の封印は各地に点在し、その半数を天元明智宗が管理している。賢雲は関東地区の担当だ。
封印を破ろうとする者は意外と多い。【咎憑き】などが世の混乱目的に稀に行うが、それよりも質が悪いのは一般人である。
悪戯のつもりなのだろうが、破壊された文化財の中には封印が混じっていた事例もある。
やめよう、文化財破壊!
「そういうことなら仕方無いですね」
「済まんな。四国の宗徒には伝えておく。それで邪険にはされまい」
流派の違う祓い師同士は互いを警戒する。スミジが来訪すれば排除される可能性もあるのだが、その問題は賢雲が取り払ってくれるとのこと。
「そうと決まったら懐覧堂を閉めないと……あ。アカリちゃん、授業中か……」
「それは俺の方から連絡しておく。確か、アカリちゃんは景星学園の生徒だよな?」
「うん……じゃあ、頼むよ伊庭さん」
急ぎ愛媛への出立となったスミジ……。本日、アカリはアルバイト予定だったが思わぬ休みになりそうだ。
「それじゃ急いで荷物を纏めるよ。それと……」
スミジは携帯端末を取り出しシズカに連絡を入れる。シズカは中々出なかったが、スミジが通話を切ろうとした直前に繋がった。
『う~ん……何~?』
「お前、寝てたのか?」
『昨日まで海外に居たから時差ボケでね……ふぁ~……。で、何?』
「国から【乙】の仕事が入った。起きた後で良いから報酬関連の交渉、いつもの様に頼む」
『わかった~』
「あと、アカリちゃんの……」
『警護ね。人選は私の判断で良いの?』
「任せるよ。……悪かったな、起こして」
『大丈夫よ。……。スミジ、気を付けてね』
「ああ」
スミジ不在の間、アカリが何らかの【怪異】に巻き込まれない様にする必要がある。スミジは遠出する度に警護を依頼していた。
その日の正午、飛行機にてスミジと伊庭は一路四国へ──。
今回の相手は古妖でも特に認知度が高く凶悪な『牛鬼』……事実、スミジはその強大さを目の当たりにすることになる。
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