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◆第六章 古き大妖◆
第五話 元祓い師の警視
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愛媛県警・宇和島警察署に到着したスミジと伊庭は、早速今後の対応を協議すべく責任者との打ち合わせに入ることにした。
……が、ここで伊庭の言葉通りスミジはかなり驚くこととなる。
「初めまして。愛媛県警・宇和島警察署長の藤倉桜子です」
署内応接室にて責任者を名乗ったのは、若い女性──。
歳はスミジや伊庭とそう変わらないだろう容姿。長い髪を後ろで団子の様に纏め、スーツ姿で身長が小さく細い為にかなり頼りないと感じる者も居るだろう。
しかし、スミジはそのを気迫を肌に感じていた。藤倉から伝わってくるのは武の達人の様な佇まい……。明らかに場数を踏んだ者の持つそれである。
(成る程……元・祓い師か……)
妙に納得しているスミジを余所に伊庭は挨拶を始める。
「本庁・『超法規事例対策室一係から来た伊庭です。こっちは外部委託扱いになりますが祓い師の道祖土スミジです」
「道祖土……成る程、どうりで」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
スミジは藤倉と握手を交わした瞬間、様々な事情を読み取った。特に藤倉が祓い師をやめた理由を彼女の左手薬指に光る指輪が物語っていた。
「それで藤倉警視……。応援……ということになってますが、現状はどうですか?」
「警視の肩書は省いて『藤倉』で良いですよ。……。実のところ現状あまり芳しくはありません。報告後は被害こそ出ていませんが弊害があるので……」
「弊害……?」
「報告した日からずっと警戒状態ですからね。海の仕事を行う方々には自粛をお願いしていますし……」
「ああ……成る程」
警戒の結果、海岸に住まう者達の生活は制限を受けている。また、協力を要請している祓い師についても同様で、対処できそうな場所には配置しているものの既に二週……何事もなくずっと待機状態ともなれば当然不満が出て来てもおかしくはない。
「しかし、そればかりは仕方無いと思いますが……」
「はい。ですが、見えない者からすれば『被害が無いのに何をやっているのか?』としか思えないでしょう。補償金もありませんし……。この問題は【怪異】絡み案件全般に言えることですけど……」
「ですが、我々からすれば『死ぬよりは良い』としか言えませんよ」
「はい……、だからこそ急いで祓いたいのですけどね……」
藤倉は伊庭の言葉に困った表情を浮かべた。藤倉は祓い師であった頃から同様の苦労を体験しているのだろうと伊庭は悟った。
「……捜索が上手くいっていないんですね?」
「はい……。そもそも捜索の術を使える祓い師が足りないのです。何せ牛鬼は海から来る」
広大な海もまた幽世と繋がっている。海の底は光が届かない深い闇──それが地上と違い常に存在しているのだ。必然的に海の【怪異】は、より得体のしれない奇妙なものが増えると言って良い。
「道祖土さん……捜索は可能ですか?」
「それ自体は術を駆使すればできますが、牛鬼は恐らく捕まらないでしょうね」
「……何故か聞いても?」
「そこまで狡猾なら祓い師から隠れる術も持ってる筈です。それに時間も……」
「時間……ですか?」
「はい。【あやかし】には人間と違い時間的な縛りがありませんからね……討滅される危険を避け、熱が冷めた頃にまた行動すれば良い訳です。それまでは長いと五年から十年は平気で幽世に隠れていると思いますよ」
「………」
藤倉は流石に渋い表情を浮かべた。
この時点で藤倉は対策としては最善を尽くしていると言って良い。だが、【あやかし】は見えぬ存在……時間が掛かり過ぎれば愛媛県警が藤倉の勘違いだとして対応を打ち切る可能性があった。
同時に藤倉の責任問題にも進展しかねない。見えない者達にとっては……特に組織単位ではそういうものである。
とはいえ、スミジと伊庭には藤倉が自らの立場を気にしているようには見えない。恐らく藤倉は、純粋に牛鬼による更なる犠牲が心配なのだろう。
「………。大丈夫。手はあります」
「本当ですか?」
「ええ。ただその為には準備が必要です。先ずは天元明智宗の協力を得て連携を。勿論、警察にも……それから作戦の打ち合わせを行いましょう」
「はい。……宜しくお願いします、道祖土さん」
牛鬼を祓う為、スミジ達の行動が始まった──。
……が、ここで伊庭の言葉通りスミジはかなり驚くこととなる。
「初めまして。愛媛県警・宇和島警察署長の藤倉桜子です」
署内応接室にて責任者を名乗ったのは、若い女性──。
歳はスミジや伊庭とそう変わらないだろう容姿。長い髪を後ろで団子の様に纏め、スーツ姿で身長が小さく細い為にかなり頼りないと感じる者も居るだろう。
しかし、スミジはそのを気迫を肌に感じていた。藤倉から伝わってくるのは武の達人の様な佇まい……。明らかに場数を踏んだ者の持つそれである。
(成る程……元・祓い師か……)
妙に納得しているスミジを余所に伊庭は挨拶を始める。
「本庁・『超法規事例対策室一係から来た伊庭です。こっちは外部委託扱いになりますが祓い師の道祖土スミジです」
「道祖土……成る程、どうりで」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
スミジは藤倉と握手を交わした瞬間、様々な事情を読み取った。特に藤倉が祓い師をやめた理由を彼女の左手薬指に光る指輪が物語っていた。
「それで藤倉警視……。応援……ということになってますが、現状はどうですか?」
「警視の肩書は省いて『藤倉』で良いですよ。……。実のところ現状あまり芳しくはありません。報告後は被害こそ出ていませんが弊害があるので……」
「弊害……?」
「報告した日からずっと警戒状態ですからね。海の仕事を行う方々には自粛をお願いしていますし……」
「ああ……成る程」
警戒の結果、海岸に住まう者達の生活は制限を受けている。また、協力を要請している祓い師についても同様で、対処できそうな場所には配置しているものの既に二週……何事もなくずっと待機状態ともなれば当然不満が出て来てもおかしくはない。
「しかし、そればかりは仕方無いと思いますが……」
「はい。ですが、見えない者からすれば『被害が無いのに何をやっているのか?』としか思えないでしょう。補償金もありませんし……。この問題は【怪異】絡み案件全般に言えることですけど……」
「ですが、我々からすれば『死ぬよりは良い』としか言えませんよ」
「はい……、だからこそ急いで祓いたいのですけどね……」
藤倉は伊庭の言葉に困った表情を浮かべた。藤倉は祓い師であった頃から同様の苦労を体験しているのだろうと伊庭は悟った。
「……捜索が上手くいっていないんですね?」
「はい……。そもそも捜索の術を使える祓い師が足りないのです。何せ牛鬼は海から来る」
広大な海もまた幽世と繋がっている。海の底は光が届かない深い闇──それが地上と違い常に存在しているのだ。必然的に海の【怪異】は、より得体のしれない奇妙なものが増えると言って良い。
「道祖土さん……捜索は可能ですか?」
「それ自体は術を駆使すればできますが、牛鬼は恐らく捕まらないでしょうね」
「……何故か聞いても?」
「そこまで狡猾なら祓い師から隠れる術も持ってる筈です。それに時間も……」
「時間……ですか?」
「はい。【あやかし】には人間と違い時間的な縛りがありませんからね……討滅される危険を避け、熱が冷めた頃にまた行動すれば良い訳です。それまでは長いと五年から十年は平気で幽世に隠れていると思いますよ」
「………」
藤倉は流石に渋い表情を浮かべた。
この時点で藤倉は対策としては最善を尽くしていると言って良い。だが、【あやかし】は見えぬ存在……時間が掛かり過ぎれば愛媛県警が藤倉の勘違いだとして対応を打ち切る可能性があった。
同時に藤倉の責任問題にも進展しかねない。見えない者達にとっては……特に組織単位ではそういうものである。
とはいえ、スミジと伊庭には藤倉が自らの立場を気にしているようには見えない。恐らく藤倉は、純粋に牛鬼による更なる犠牲が心配なのだろう。
「………。大丈夫。手はあります」
「本当ですか?」
「ええ。ただその為には準備が必要です。先ずは天元明智宗の協力を得て連携を。勿論、警察にも……それから作戦の打ち合わせを行いましょう」
「はい。……宜しくお願いします、道祖土さん」
牛鬼を祓う為、スミジ達の行動が始まった──。
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