姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第八話 大源寺の危機

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 愛媛県・宇和島地方の寺院『大源寺だいげんじ』。

 海岸沿いにある天元明智てんげんめいち宗の寺が今回の牛鬼対策拠点として選ばれることになったのはある意味必然だった。

 しかし……今回に限ってそれは悪手だったと言わざるを得ない。大源寺は海に近すぎたのだ。

「何だ……? 煙……?」
「あれは大源寺の方角……! 急ぎます!」

 藤倉はパトランプを車の屋根に乗せ加速する。向かう先は海岸沿をやや登った高台。僅か南側には入り江の岩礁地帯……。寺院への登り口には幾台かの警察車輛が見えた。
 塞がれていない登り口通路を藤倉は少し速度を落として進む。そして入り口の門付近に近付いた時、スミジが車を止めるようにと告げた。

「どうした?」
「二人はこの先に行かない方が良い。あれは煙じゃなくて瘴気の類だ。それも霊力のない二人が普通に可視化できる程呪詛が濃い」
「し、しかし……」
「それとコレを。一時間位は持つけど直接強い【あやかし】と対峙したら焼き切れるから……。車にも結界を張る。俺が戻るまで絶対に外に出るなよ、伊庭さん?」
「…………。わかった」

 赤龍の描かれた厚紙の札を二人に手渡したスミジはいつになく真剣で余裕もない。その眼差しに伊庭は従うしかなかった。

「今から少し騒がしくなるかもしれません。もしもの時は車で警察署まで戻って下さい」
「道祖土さんはどうするのですか?」
「天元明智の僧を救助します。もし……他の誰かが助けを求めに来たとしても無視して下さい。救助は寺院内で足りる様に立ち回りますから、もし来たら【あやかし】だと思って対応を」
「わかりました。……どうか無事で」

 一瞬ニコリと微笑んだスミジは直ぐ真顔に戻ると、懐から取り出した筆を持ち車の周囲をぐるりと移動する。その間常に筆を動かし続けていた。

 霊印投写妙法術・伍式【絶気ぜつき界印文かいいんもん】──。

 外界の霊気を断絶する道祖土の結界術。本来の手順では他の道具と組み合わせ更に結界構築の時間を要するが、今は緊急事態……簡易式での展開となる。しかし、小一時間程度なら問題ないだろう。

 スミジはそのまま二、三度跳躍すると寺院の門の中へと姿を消した。

「………。こういう時、霊力を失ったことが本当に悔やしいです」

 悲痛な表情でハンドルを握る藤倉。祓い師として加勢できればと内心穏やかではない。

「それは俺も同じですよ、藤倉さん。何で俺の家系は霊力が弱くなったのかと毎回思います」
「伊庭さんの家系は……」
「ええ……祓い師でした。でも、大正の頃にはもう力が薄れていたと……」
「そうですか……」
「俺は……いつもアイツを見送るだけだ」
「…………」

 現在、『超法規事例対策室』は『霊遺物管理委員会』と共同で【対怪異装備】の開発中だと伊庭は聞いている。上部組織である『護国統霊会』では既に実戦配備も行われているらしきその装備は、霊力の弱い者でもある程度【怪異】と渡り合えるものだと噂されていた。
 未だ下部組織に行き渡らない装備であるが、伊庭は現場にこそ早く配備して貰いたいと願うことしか出来ない。

 そして──一方のスミジは……。

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