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◆第六章 古き大妖◆
第七話 それぞれの領分
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「その方は怪我をしていましたが、笑顔で私を安心させて家まで送ってくれたんです。私は……その背中に憧れた」
「そんなことが……」
「その方は【あやかし】を牛鬼かもしれないと言っていました。それから私は、祓い師という存在を知りました」
藤倉はそう言うと小さく溜め息を吐いた。
と……それまで黙っていたスミジが口を開く。
「藤倉さんが祓い師の力に目醒めたのはその頃ですね?」
「はい。始めは戸惑いましたが、幸い父の友人が『霊遺物管理委員会』に所属していて……そのツテで師匠が見付かって祓い師になりました」
稀に……【怪異】に遭遇し霊力に覚醒する者が居る。
そういった者の近くには霊力に引かれ【怪異】が集まる。もし知識を授ける者が居ない場合、【怪異】による危険に対して無防備なまま……。その点については以前、三条マリナの執事・嘉藤の過去に触れた際にも語られた。
しかし藤倉の場合、異変に気付いた両親に運良く【怪異】に通づる知人が居た……それもまた幸いだったと言える。
そこから更に『超法規事例対策室』に連絡が入り祓い師達へ打診。応じた者が藤倉の師匠となった。
「祓い師になってしばらく経ったある日、師匠が私を見て言ったんです。『恐らくお前は祓い師としてでは無く別の道を選ぶだろう』と」
「それが左手の指輪……ですね」
「はい」
左手の薬指に光る指輪……つまり結婚。
女性の霊力は男性と比べ、契機で変化する場合がある。思春期に高まることもあれば、処女性や出産に左右されることもある。無論、個人差があるのだが……。
「師匠は私が結婚すると予見していたのでしょうね……。事実、私は出産を期に霊力を失いました。元々祓い師家系でもなかったので仕方無いと諦めは付きましたけどね」
「師匠に忠告されてからは、あなたは祓い師として活動しつつ警察官僚を目指して勉強した。そして警察官僚と祓い師の二足の草鞋は、結婚を期に片方へ絞られた……と」
「お察しの通りです。祓い師じゃなくなっても出来ることはありますから」
「確かに……そうですね」
伊庭には藤倉の気持ちが理解できた。自分も【怪異】に絡む立場でありつつも祓い師にはなれない。ならば出来ることを、と『超法規事例対策室』に所属している。だからこそ伊庭は藤倉を励ましたくなった。
「警察に限界があるのは仕方無いんですよ。警察そのものは飽くまで『人間』の為に存在する組織ですから」
「ですが……」
「【怪異】はどうあっても祓い師の領分になる。それでもあなたは十分に……いや、十二分にやっている。しかし、何事もあまり気負うと悪い方に転がる……と、私は昔友人に言われましたよ。まぁ、ソイツは自分が無理するんで説得力ないんですけどね?」
そう言いながら伊庭はスミジに視線を向けた。スミジは少し照れた表情で窓の外へ視線を移した。
「祓い師達をサポートして牛鬼を逸早く祓う……それが犠牲者に対して我々が出来ることです。その為にも、天元明智宗とも打ち合わせをしないといけませんね」
「そうですね」
藤倉は伊庭の言葉が嬉しかったのか少し表情が明るい。伊庭もまた、自分に近い立場の藤倉が努力する姿が励みになったのだろう。
しかし……窓の外を眺めるスミジだけは複雑な心境だった。
【怪異】は祓い師の領分……これはまさにその通りである。言い換えれば祓い師の領分に普通の人間が関わることは、則ち危険を意味する。
例として『片輪車』や『覇羅剛』の件に警察が介入していた場合、多大な死者を出していた可能性が高い。
今回、天元明智宗の協力があるとはいえ殆どの警官は【怪異】に耐性がある訳ではない。いや……その天元明智宗の僧に対してさえ不安が残るのだ。
懇親会の際、賢雲は天元明智宗の祓い師の少なさを懸念していた。時代の流れとはいえ、やはり数の力が失われることへの危機感は残る。
そして今回の相手は大妖・牛鬼……並の祓い師では討滅どころか封印さえ難しい強敵だ。
(賢雲さんに来て貰わなかったのは失敗だったかな。いや……)
賢雲が任せると言ったのだ。現地にも頼りになる祓い師が居るのだろう。ならば協力して牛鬼を祓う……それも、出来るだけ早く。それこそが祓い師の役目だとスミジは再確認した。
スミジ達を乗せた車は天元明智宗の寺院へと走る。だが……ここからスミジの想定よりも事態は深刻になってゆく。
「そんなことが……」
「その方は【あやかし】を牛鬼かもしれないと言っていました。それから私は、祓い師という存在を知りました」
藤倉はそう言うと小さく溜め息を吐いた。
と……それまで黙っていたスミジが口を開く。
「藤倉さんが祓い師の力に目醒めたのはその頃ですね?」
「はい。始めは戸惑いましたが、幸い父の友人が『霊遺物管理委員会』に所属していて……そのツテで師匠が見付かって祓い師になりました」
稀に……【怪異】に遭遇し霊力に覚醒する者が居る。
そういった者の近くには霊力に引かれ【怪異】が集まる。もし知識を授ける者が居ない場合、【怪異】による危険に対して無防備なまま……。その点については以前、三条マリナの執事・嘉藤の過去に触れた際にも語られた。
しかし藤倉の場合、異変に気付いた両親に運良く【怪異】に通づる知人が居た……それもまた幸いだったと言える。
そこから更に『超法規事例対策室』に連絡が入り祓い師達へ打診。応じた者が藤倉の師匠となった。
「祓い師になってしばらく経ったある日、師匠が私を見て言ったんです。『恐らくお前は祓い師としてでは無く別の道を選ぶだろう』と」
「それが左手の指輪……ですね」
「はい」
左手の薬指に光る指輪……つまり結婚。
女性の霊力は男性と比べ、契機で変化する場合がある。思春期に高まることもあれば、処女性や出産に左右されることもある。無論、個人差があるのだが……。
「師匠は私が結婚すると予見していたのでしょうね……。事実、私は出産を期に霊力を失いました。元々祓い師家系でもなかったので仕方無いと諦めは付きましたけどね」
「師匠に忠告されてからは、あなたは祓い師として活動しつつ警察官僚を目指して勉強した。そして警察官僚と祓い師の二足の草鞋は、結婚を期に片方へ絞られた……と」
「お察しの通りです。祓い師じゃなくなっても出来ることはありますから」
「確かに……そうですね」
伊庭には藤倉の気持ちが理解できた。自分も【怪異】に絡む立場でありつつも祓い師にはなれない。ならば出来ることを、と『超法規事例対策室』に所属している。だからこそ伊庭は藤倉を励ましたくなった。
「警察に限界があるのは仕方無いんですよ。警察そのものは飽くまで『人間』の為に存在する組織ですから」
「ですが……」
「【怪異】はどうあっても祓い師の領分になる。それでもあなたは十分に……いや、十二分にやっている。しかし、何事もあまり気負うと悪い方に転がる……と、私は昔友人に言われましたよ。まぁ、ソイツは自分が無理するんで説得力ないんですけどね?」
そう言いながら伊庭はスミジに視線を向けた。スミジは少し照れた表情で窓の外へ視線を移した。
「祓い師達をサポートして牛鬼を逸早く祓う……それが犠牲者に対して我々が出来ることです。その為にも、天元明智宗とも打ち合わせをしないといけませんね」
「そうですね」
藤倉は伊庭の言葉が嬉しかったのか少し表情が明るい。伊庭もまた、自分に近い立場の藤倉が努力する姿が励みになったのだろう。
しかし……窓の外を眺めるスミジだけは複雑な心境だった。
【怪異】は祓い師の領分……これはまさにその通りである。言い換えれば祓い師の領分に普通の人間が関わることは、則ち危険を意味する。
例として『片輪車』や『覇羅剛』の件に警察が介入していた場合、多大な死者を出していた可能性が高い。
今回、天元明智宗の協力があるとはいえ殆どの警官は【怪異】に耐性がある訳ではない。いや……その天元明智宗の僧に対してさえ不安が残るのだ。
懇親会の際、賢雲は天元明智宗の祓い師の少なさを懸念していた。時代の流れとはいえ、やはり数の力が失われることへの危機感は残る。
そして今回の相手は大妖・牛鬼……並の祓い師では討滅どころか封印さえ難しい強敵だ。
(賢雲さんに来て貰わなかったのは失敗だったかな。いや……)
賢雲が任せると言ったのだ。現地にも頼りになる祓い師が居るのだろう。ならば協力して牛鬼を祓う……それも、出来るだけ早く。それこそが祓い師の役目だとスミジは再確認した。
スミジ達を乗せた車は天元明智宗の寺院へと走る。だが……ここからスミジの想定よりも事態は深刻になってゆく。
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