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◆第六章 古き大妖◆
第十五話 仏の加護
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『フン! 今回は見逃してやるわ……が、次に会った時は腹を裂いてその肝を喰らってやる!』
そう吐き捨てた磯女はスルスルと木々の間を抜け移動してゆく。その素早さたるや脱兎が如し。
「…………。アイツ、結界あんの知らねぇのか?」
「恐らく道祖土殿が分からぬ様にしたのでしょう」
「あ~あ。じゃあ酷い目に遭うな? 可哀想によぉ」
心源は言葉とは裏腹にニマニマと意地の悪い笑顔を浮かべている。その様子に蒼禅は溜め息を吐いた。
「心源さん……仮にも仏の道を説く者が不幸を嬉しそうにするのはどうかと……」
「いんや? 嬉しくはねぇさ。これはアレだ……安堵の顔だ、安堵の」
(………。嘘だな)
心源は少々破天荒なところがある。実力は蒼禅と同等かそれ以上だが、『偉くなると面倒』や『堅苦しいのは御免』と言って天元明智宗の重鎮【降魔八僧正】の座を辞退した過去があった。
現在では大源寺の住職として四国の封印管理の役割を担っている心源ではあるが、その気さくさから人々の信頼は厚い。
「さて……それじゃ追うか」
心源がそう告げ走り始めて間も無く、雷轟と共に悲鳴が届く。
「今日三度目の雷か……奴さん、厄日だな」
「討滅されるので関係ないのでは……」
「なら、尚更厄日じゃねぇか」
二人が辿り着いた先には磯女が蒸気を上げ倒れていた。しかし、まだ致命的な状態という訳ではない。鈍い動きながらもその身を起し激高した。
『お、おのれぇ! よくも……よくも妾にこんな屈辱を~!』
「結界張ったのは俺達じゃねぇんだがな……まぁ気付かなかったお前が悪い」
『……こうなったら肝など要らん! 皆殺しにしてくれる!』
再び叫びを上げる磯女に素早く反応した心源は再び『樹神』の能力を使用……呪詛の声を反射する。が、磯女はそれに構わず口から毒素の霧を撒き始めた。
結界内を満たす勢いで霧が拡がり始めた為、心源・蒼禅も堪らず距離を取る。
「くっ! これでは近付けん!」
「さっきみたいに羯磨で散らせねぇのか?」
「あの勢いでは間に合わないですよ……」
と……そこに声が響く。
『払え! 【箒神】』
現れた箒の絵神・箒神は心源と蒼禅の周囲を二、三度回った後、木々を縫うように磯女へと向かって行く。
続いて箒神は、自らも回転しつつ磯女の周囲を高速で回り始めた。蒼禅が羯磨を使用し起こしたよりも大きく発生した竜巻……そこに吸い込まれた毒素は尽く浄化される。
払い祓う浄化の力──それこそが箒神……スミジの霊気写法で再現したことで効果が薄れている筈だが十分過ぎる効果を見せた。
『キイィィッ! どこまでも腹立たしい!』
「さて……それじゃ最後の忠告だぜ? 幸いお前はまだ人死にを出しちゃいねぇからな。封印してやっても良い。どうする?」
『人間如きが……妾が屈伏するとでも思うておるのか!?』
「じゃあ仕方無ぇよな。蒼禅?」
「はい! 磯女……今からお前の討滅に入る!」
蒼禅が真言を唱えると同時、心源は木棍を構え突進。磯女が爪で迎え撃とうとしたのを寸で躱し棒高跳びの要領で上空に跳んだ。
「ちっとばかしじっとしてろや!」
心源は上空で木棍から枝や根を伸ばし繭状の檻で磯女を封じ込める。この間に蒼禅は数珠を腕に巻き付け真言を唱えた。
「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン!」
蒼禅の体から立ち上る赤い霊気はやがて姿の形成を始める。それは天元明智宗の奥義──。
【降魔法術・来仏宿威】
幽世より仏を招き宿す法力。霊気により具現化された姿の仏は、宿した蒼禅に限定時間の力を貸し与える。
(あれが天元明智宗の……奥義は何処も似たような形になるのかな)
それはスミジの霊印投写妙法術にも通ずるところがあるが、【あやかし】とは比べ物にならない霊気の圧力──。その力は仏にその身を委ねる覚悟と信心が起こす奇跡の諸行。
但し、人の身ではやはり耐久しきれない程の霊力──使用時間と制限が加わるのは仕方無きこと。
蒼禅の背後に宿ったのは不動明王……蒼禅が手にする利剣には加護の炎が宿る。強力な【陽】の力により先に宿っていたスミジの大蜈蚣は焼かれて弾き出され消えた。
不動明王の炎は迦楼羅炎といい迦楼羅天……つまりスミジの使う『金翅鳥《こんじちょう》』の浄化の炎と同じもの。だが、直接仏を降ろしている分その効果は段違いだ。
「哈ぁぁぁ━━━━っ!」
蒼禅はそのまま樹の繭へ利剣を突き入れると内側から猛烈な炎が噴き上がる。心源は木棍を素早く手離し離脱。距離を取り油断せず様子を見守っている。
『ギィヤァァ━━━━ッ!!』
やがて炎は樹の繭をも炭に変えてゆく。燃え落ちた中には既に何も存在していなかった。
「地の利を捨て海から上がった怠慢が敗因だったな、磯女よ。いや……これも御仏のお力。感謝致します、不動明王様」
蒼禅は力を解除すると合掌し黙祷……そして近くの樹に寄り掛かり肩で息を切らしている。奥義だけあり負担は相当なものだった様だ。
こうして磯女は天元明智宗により見事討滅された。
そう吐き捨てた磯女はスルスルと木々の間を抜け移動してゆく。その素早さたるや脱兎が如し。
「…………。アイツ、結界あんの知らねぇのか?」
「恐らく道祖土殿が分からぬ様にしたのでしょう」
「あ~あ。じゃあ酷い目に遭うな? 可哀想によぉ」
心源は言葉とは裏腹にニマニマと意地の悪い笑顔を浮かべている。その様子に蒼禅は溜め息を吐いた。
「心源さん……仮にも仏の道を説く者が不幸を嬉しそうにするのはどうかと……」
「いんや? 嬉しくはねぇさ。これはアレだ……安堵の顔だ、安堵の」
(………。嘘だな)
心源は少々破天荒なところがある。実力は蒼禅と同等かそれ以上だが、『偉くなると面倒』や『堅苦しいのは御免』と言って天元明智宗の重鎮【降魔八僧正】の座を辞退した過去があった。
現在では大源寺の住職として四国の封印管理の役割を担っている心源ではあるが、その気さくさから人々の信頼は厚い。
「さて……それじゃ追うか」
心源がそう告げ走り始めて間も無く、雷轟と共に悲鳴が届く。
「今日三度目の雷か……奴さん、厄日だな」
「討滅されるので関係ないのでは……」
「なら、尚更厄日じゃねぇか」
二人が辿り着いた先には磯女が蒸気を上げ倒れていた。しかし、まだ致命的な状態という訳ではない。鈍い動きながらもその身を起し激高した。
『お、おのれぇ! よくも……よくも妾にこんな屈辱を~!』
「結界張ったのは俺達じゃねぇんだがな……まぁ気付かなかったお前が悪い」
『……こうなったら肝など要らん! 皆殺しにしてくれる!』
再び叫びを上げる磯女に素早く反応した心源は再び『樹神』の能力を使用……呪詛の声を反射する。が、磯女はそれに構わず口から毒素の霧を撒き始めた。
結界内を満たす勢いで霧が拡がり始めた為、心源・蒼禅も堪らず距離を取る。
「くっ! これでは近付けん!」
「さっきみたいに羯磨で散らせねぇのか?」
「あの勢いでは間に合わないですよ……」
と……そこに声が響く。
『払え! 【箒神】』
現れた箒の絵神・箒神は心源と蒼禅の周囲を二、三度回った後、木々を縫うように磯女へと向かって行く。
続いて箒神は、自らも回転しつつ磯女の周囲を高速で回り始めた。蒼禅が羯磨を使用し起こしたよりも大きく発生した竜巻……そこに吸い込まれた毒素は尽く浄化される。
払い祓う浄化の力──それこそが箒神……スミジの霊気写法で再現したことで効果が薄れている筈だが十分過ぎる効果を見せた。
『キイィィッ! どこまでも腹立たしい!』
「さて……それじゃ最後の忠告だぜ? 幸いお前はまだ人死にを出しちゃいねぇからな。封印してやっても良い。どうする?」
『人間如きが……妾が屈伏するとでも思うておるのか!?』
「じゃあ仕方無ぇよな。蒼禅?」
「はい! 磯女……今からお前の討滅に入る!」
蒼禅が真言を唱えると同時、心源は木棍を構え突進。磯女が爪で迎え撃とうとしたのを寸で躱し棒高跳びの要領で上空に跳んだ。
「ちっとばかしじっとしてろや!」
心源は上空で木棍から枝や根を伸ばし繭状の檻で磯女を封じ込める。この間に蒼禅は数珠を腕に巻き付け真言を唱えた。
「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン!」
蒼禅の体から立ち上る赤い霊気はやがて姿の形成を始める。それは天元明智宗の奥義──。
【降魔法術・来仏宿威】
幽世より仏を招き宿す法力。霊気により具現化された姿の仏は、宿した蒼禅に限定時間の力を貸し与える。
(あれが天元明智宗の……奥義は何処も似たような形になるのかな)
それはスミジの霊印投写妙法術にも通ずるところがあるが、【あやかし】とは比べ物にならない霊気の圧力──。その力は仏にその身を委ねる覚悟と信心が起こす奇跡の諸行。
但し、人の身ではやはり耐久しきれない程の霊力──使用時間と制限が加わるのは仕方無きこと。
蒼禅の背後に宿ったのは不動明王……蒼禅が手にする利剣には加護の炎が宿る。強力な【陽】の力により先に宿っていたスミジの大蜈蚣は焼かれて弾き出され消えた。
不動明王の炎は迦楼羅炎といい迦楼羅天……つまりスミジの使う『金翅鳥《こんじちょう》』の浄化の炎と同じもの。だが、直接仏を降ろしている分その効果は段違いだ。
「哈ぁぁぁ━━━━っ!」
蒼禅はそのまま樹の繭へ利剣を突き入れると内側から猛烈な炎が噴き上がる。心源は木棍を素早く手離し離脱。距離を取り油断せず様子を見守っている。
『ギィヤァァ━━━━ッ!!』
やがて炎は樹の繭をも炭に変えてゆく。燃え落ちた中には既に何も存在していなかった。
「地の利を捨て海から上がった怠慢が敗因だったな、磯女よ。いや……これも御仏のお力。感謝致します、不動明王様」
蒼禅は力を解除すると合掌し黙祷……そして近くの樹に寄り掛かり肩で息を切らしている。奥義だけあり負担は相当なものだった様だ。
こうして磯女は天元明智宗により見事討滅された。
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