姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第十四話 天元明智宗 対 磯女

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 磯女へと迫る心源しんげん蒼禅そうぜんの二名は霊力により身体を強化しそれぞれの武器を振るう。

 だが、磯女もそう易々と倒せる相手ではない。

 磯女の長い髪は血を吸うとされていて、触れれば瞬く間に生命力と霊力を奪われてしまう……故に髪を斬り払おうと蒼禅が前に出れば、磯女は耳をつんざく叫び声を上げた。叫びは呪詛と衝撃を伴い蒼禅を押し退ける。

「くっ……!」

 ならばと前に踏み込んだ心源は、懐から仏法具の独鈷杵どっこしょを数本取り出しナイフのように投げると印を結び真言を唱えた。

「ナウマク・サンマンダ・バサラダン・カン!」 

 僅かに光り加速する独鈷杵が磯女の身体に刺さる……寸前で尾の横凪ぎで弾かれる。

「ちっ!」
『ヒッヒ! 甘いわ!』
「ならば!」

 蒼禅はその間に背後に回り込み刺突を試みるも、磯女の再度の叫び声に硬直し動きを止めた。

「ぐっ!」
『先ずは貴様からよ!』

 髪が伸び蒼禅に届くかというところで、再度投擲された心源の独鈷杵が磯女の背に刺さった。

『がっ……おのれぇ!』

 と……この隙に硬直の解けた蒼禅が剣を振るう。刃は磯女の腹部に当たるが鱗に阻まれ深くは斬り込めない。

「硬い……!」
『おのれ……おのれおのれおのれぇ!』

 磯女はその口から紫の霧を吐き出した。蒼禅は素早く反応し退避。霧はみるみる拡がり草木を枯らしてゆく。

 蒼禅は心源の傍まで移動し警戒を強めた。

「毒か……厄介な」
「気を付けろよ、蒼禅! 吸い込んだら肺まで腐って終わりだぜ?」
「ええ……しかし、これでは……」

 磯女は毒霧に包まれている。これでは近付くことが出来ぬと考えた蒼禅は、懐から十字型の法具・羯磨かつまを取り出し投げた。

「オン・バザラ・タラマ・キリク!」

 回転を始めた十字羯磨は旋風を生み毒霧を巻き上げる。巻き上げた毒霧は結界の天井部に当たると雷撃に飲まれ霧散した。

「良し……じゃあ、行」
「お待ちください、心源殿。あれを……」

 蒼禅の言葉で動きを止めた心源。蒼禅の差し示した先には形態の変化した磯女が居た。

 その身体は先程より一回り小型の、まるでギリシャ神話のラミアの様な半人半蛇……磯女は着物を纏う上半身に蛇の下半身という姿になっていた。手の爪は鋭利な刃の様に変化している。

『フン……忌々しい坊主どもめ』
「ハッ! 忌々しいのはテメェだろうが、バケモンが!」
「どのみち貴様は逃げられん! 観念しろ、磯女!」

 心源と蒼禅は再び攻撃を仕掛ける。しかし、今度の磯女は更に素早くなっていた。 

「くっ! この野郎!」
『妾は“野郎”ではないわ!』
「ぐあっ!」

 尾で弾き飛ばされる心源だが、樹木に着地し逆に足場として跳躍。磯女の頭上から複数の独鈷杵を投げ付ける。 

「オン・バザラユダ・ソワカ!」

 独鈷杵は磯女の周囲を囲むように地に刺さると同時に雷が地を伝いその身を包んだ。

『ガグギギィィ!?』

 再び電撃で動きを止めた磯女を確認し隙を逃さず蒼禅が迫る。これに反応した磯女は再び叫びを使うが、着地していた心源が木棍を地に突き刺し備えた。

「力を借りるぜ、【あやかし】よぉ!」

 木棍から根が伝い磯女を球状に取り囲む。途端に叫び声と衝撃波は相殺された。

 しかし……それだけではない。衝撃波・呪詛共に内側へ幾度も反響。磯女の攻撃は磯女自身へと返ることになった。

 【樹神こだま】はこだま──つまり、樹木の力だけでなく山彦の権能も併せ持つ。特に音に関するものを返す点では叫び声という攻撃は相性が良かった。
 反響した衝撃に幾度も叩かれ続けた磯女は、堪らず爪で根を切り裂く。ここで磯女は転進の気配を見せる。






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