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◆第六章 古き大妖◆
第十七話 方針検討
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そうして皆が落ち着いた頃合いを見計らい、住職たる心源が今後について語り始める。
響き渡るのは法術にて寺院敷地内全てに伝わる心源の声。当人は本堂中央奥に座し、蒼禅はその右隣に控えている。スミジや伊庭、藤倉は本堂の隅でそれを聞いていた。
「皆、警戒ご苦労様。取り敢えず寺に集まって貰った訳だが……実は大源寺はつい先刻【あやかし】に襲撃された」
事前に聞いている者が多いので混乱に陥ることはなかったが、それでもやはり信じられないといった表情が多く見られる。
「現れたのは磯女だ。幸い『対策室』から派遣された祓い師・道祖土スミジの協力を得て、俺と蒼禅で討滅した訳だが……どうやら磯女は牛鬼の使いだったみてぇだな」
牛鬼は磯女を使い人を誘き寄せるといった伝承は僧達も知っている。が……磯女が単身寺院に乗り込んできたことは異例中の異例でもあるのだ。
そしてその目的は陽動……狙いは高い霊力を持つ者の生き肝。つまり僧が狙われたのだと心源は包み隠さずに伝える。
「よって僧の分散は得策ではないと俺は判断した。警官も巻き込まれては堪るまいからな……そこで方針を変えることにした」
技量のある者を中心に十人一組の僧を沿岸拠点を設営し配置。それを各所へ……多いようだが四国はかなり広いので不安は残る。
警察には夜間の外出規制発令を依頼。沿岸に住まいのある人達には数日離れて貰い、有事の際の誘導等を任せることになった。
「で……重要なのはこの先だ。避難や警戒を長くってのは現実的じゃねぇ。何せ一般人にゃ【あやかし】がいるのを信じろって方が無理がある。そこで、幾つか策を練った」
生き肝が狙いなら囮になれば良い。囮役は心源、蒼禅の二人。牛鬼が現れたら近場から僧が駆け付け結界で閉じ込め、総掛かりで祓う……という至って単純ながら妥当な計画だ。
心源は更に天元明智宗総本山からの増援、超法規事例対策室への協力要請等を考えていると告げる。その後、皆の意見を聞きつつの検討に入った。
「……。実際どうなんだ、スミジ?」
伊庭は計画が不安に感じるらしく、スミジに確認せずにはいられない。
「分散で警戒をするよりはずっと良いと思う。ただ……」
「何だ……?」
「伊庭さんも気付いてると思うけど、牛鬼の目撃は昼間だった……。今の時代に日中出現する程の強力な存在……つまり、夜だけじゃなく一日中警戒しないとならないだろ? だから……」
「じゃあ、実際の僧の配備は昼十人、夜十人の一ヶ所二十人……五十箇所か。囮役の二人も何日掛かるか分からない中じゃ疲弊が心配な訳だな?」
「それに、俺も長く店を空ける訳にはいかないし……」
スミジの最優先はアカリを守ること。だが牛鬼による犠牲が出ている以上、放置というのも心苦しい。
数日で牛鬼を祓うにはどうしても誘き寄せる必要がある。問題は牛鬼の狡猾さだ。
「そして囮は十中八九見抜かれる。だから牛鬼は恐らく出てこない」
「………。それじゃ俺はともかくお前はマズイな」
「というより、対策の為の手段が圧倒的に足りない。強力な【あやかし】だろうとは思ってたけど……広い出現範囲を正直甘く見てた」
磯女が討滅されたと牛鬼が知れば更に警戒するだろう。【怪異】に対応できる人間は少なく対応に追われてやがては疲弊する。牛鬼はただそれを待てば良いのだ。
「その時こそ本格的に霊力を持つ祓い師を狙ってくる。今のままじゃ牛鬼が有利になるだけだ……」
「ったってなぁ……牛鬼は海を通って幽世から来るんだろ?」
海は深く暗い。人が海に持つ得体の知れない恐怖は、海が幽世と繋がっているからとも言われる。牛鬼はその海を通じ幽世から来訪していると思われていた。
だが……スミジの見解は少し違っていた。
「多分だけど幽世から来るのは最初の一度……後は何処かに塒を持っていると思う。異界を渡るのだってかなりの力を使うだろうからね。何度もそれをやるとは到底思えないから」
スミジが磯女に牛鬼の居場所を問い質したのはその為。結果としてはぐらかされたものの、『人は幽世には行けまい』とは言われなかったことが気に掛かっていた。
響き渡るのは法術にて寺院敷地内全てに伝わる心源の声。当人は本堂中央奥に座し、蒼禅はその右隣に控えている。スミジや伊庭、藤倉は本堂の隅でそれを聞いていた。
「皆、警戒ご苦労様。取り敢えず寺に集まって貰った訳だが……実は大源寺はつい先刻【あやかし】に襲撃された」
事前に聞いている者が多いので混乱に陥ることはなかったが、それでもやはり信じられないといった表情が多く見られる。
「現れたのは磯女だ。幸い『対策室』から派遣された祓い師・道祖土スミジの協力を得て、俺と蒼禅で討滅した訳だが……どうやら磯女は牛鬼の使いだったみてぇだな」
牛鬼は磯女を使い人を誘き寄せるといった伝承は僧達も知っている。が……磯女が単身寺院に乗り込んできたことは異例中の異例でもあるのだ。
そしてその目的は陽動……狙いは高い霊力を持つ者の生き肝。つまり僧が狙われたのだと心源は包み隠さずに伝える。
「よって僧の分散は得策ではないと俺は判断した。警官も巻き込まれては堪るまいからな……そこで方針を変えることにした」
技量のある者を中心に十人一組の僧を沿岸拠点を設営し配置。それを各所へ……多いようだが四国はかなり広いので不安は残る。
警察には夜間の外出規制発令を依頼。沿岸に住まいのある人達には数日離れて貰い、有事の際の誘導等を任せることになった。
「で……重要なのはこの先だ。避難や警戒を長くってのは現実的じゃねぇ。何せ一般人にゃ【あやかし】がいるのを信じろって方が無理がある。そこで、幾つか策を練った」
生き肝が狙いなら囮になれば良い。囮役は心源、蒼禅の二人。牛鬼が現れたら近場から僧が駆け付け結界で閉じ込め、総掛かりで祓う……という至って単純ながら妥当な計画だ。
心源は更に天元明智宗総本山からの増援、超法規事例対策室への協力要請等を考えていると告げる。その後、皆の意見を聞きつつの検討に入った。
「……。実際どうなんだ、スミジ?」
伊庭は計画が不安に感じるらしく、スミジに確認せずにはいられない。
「分散で警戒をするよりはずっと良いと思う。ただ……」
「何だ……?」
「伊庭さんも気付いてると思うけど、牛鬼の目撃は昼間だった……。今の時代に日中出現する程の強力な存在……つまり、夜だけじゃなく一日中警戒しないとならないだろ? だから……」
「じゃあ、実際の僧の配備は昼十人、夜十人の一ヶ所二十人……五十箇所か。囮役の二人も何日掛かるか分からない中じゃ疲弊が心配な訳だな?」
「それに、俺も長く店を空ける訳にはいかないし……」
スミジの最優先はアカリを守ること。だが牛鬼による犠牲が出ている以上、放置というのも心苦しい。
数日で牛鬼を祓うにはどうしても誘き寄せる必要がある。問題は牛鬼の狡猾さだ。
「そして囮は十中八九見抜かれる。だから牛鬼は恐らく出てこない」
「………。それじゃ俺はともかくお前はマズイな」
「というより、対策の為の手段が圧倒的に足りない。強力な【あやかし】だろうとは思ってたけど……広い出現範囲を正直甘く見てた」
磯女が討滅されたと牛鬼が知れば更に警戒するだろう。【怪異】に対応できる人間は少なく対応に追われてやがては疲弊する。牛鬼はただそれを待てば良いのだ。
「その時こそ本格的に霊力を持つ祓い師を狙ってくる。今のままじゃ牛鬼が有利になるだけだ……」
「ったってなぁ……牛鬼は海を通って幽世から来るんだろ?」
海は深く暗い。人が海に持つ得体の知れない恐怖は、海が幽世と繋がっているからとも言われる。牛鬼はその海を通じ幽世から来訪していると思われていた。
だが……スミジの見解は少し違っていた。
「多分だけど幽世から来るのは最初の一度……後は何処かに塒を持っていると思う。異界を渡るのだってかなりの力を使うだろうからね。何度もそれをやるとは到底思えないから」
スミジが磯女に牛鬼の居場所を問い質したのはその為。結果としてはぐらかされたものの、『人は幽世には行けまい』とは言われなかったことが気に掛かっていた。
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