姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第十八話 元・人間の【あやかし】

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「牛鬼は海に居る。恐らくは現世うつしよの何処か島みたいなところに……」
「いや……だからそれを調べる手が無いんだろ?」

 海上にねぐらがあったとしても海は広い。近海にそれがあるのか否かも判らず、可能性としては海中も否定はできない。ましてや『見える者』が限られる【あやかし】……隠れているのならば尚更発見は困難だ。

「確かに人間には見付けられないかもしれない……。でも、【怪異】なら別な筈」
「【怪異】って……一体何を……」
「だから……幽世存在の力を借りるんだよ、伊庭さん。幸い頼れそうな存在が近くに居るし」
「ほう? そりゃ何だ?」

 いつの間にか近付いてきていた心源と蒼禅は、スミジの前に“ドカッ!”と腰を下ろす。真剣な面持ちの蒼禅と違い心源は興味津々だ。

「どこから聞いてました、心源さん?」
「ん? そりゃあ最初からよ。てか、寺院内の有力そうな意見は全部聞いてるぜ?」
「全部って……」

 勿論、二千人全ての言葉を漏らさず聴いている訳ではない。心源は法術を用い有用そうな意見を選別していたのだ。
 とはいえ、それでも並みの数ではない。これには流石のスミジも呆れていた。

「で……お前の話が面白そうだったんでな。聞きに来た」
「それは良いんですけど……大丈夫なんですか?」
「ん? 何がだ?」
「いや……天元てんげん明智めいち宗に限らず祓い師は【怪異】との協力は滅多にしないでしょう? 私の案を採用すると宗派の教えに背くとかにはならないですか?」

 【怪異】の力を借りる道祖土さいどは、だからこそ異端視されている面もある。そんなスミジの意見を反映して心源の立場は悪くならないのか……と心配しているのだ。

 が……心源はニヤリと笑い自らの顎を撫でている。

「案外馬鹿だな、お前」
「馬鹿……」
「違うか? 人間護って安全にするのが最優先だろうが……細けぇこと気にしてる場合じゃねぇんだよ。な? 蒼禅?」

 心源の意見に蒼禅も同意の姿勢を見せる。

「今回の件は宗派がどうという次元で済む話ではない。良策があるのであれば遠慮せず言って欲しい」
「……分かりました。但し、まだ確実とは言えないので話半分で聞いてください」
「了解した」

 スミジの提案する【怪異】の助力……それは──。

「元・人間の【あやかし】?」
「はい。この地方には丁度良い伝承がありますから」

 元・人間の【あやかし】なら人の道理も理解している。対話だけでなく人間の危機にも手を貸してくれる期待は決して楽観ではないだろう。
 但し問題もある。単純に出逢うことができるか否かだ。

 【あやかし】になった元・人間は気まぐれで助け船を出してくれることはある。しかしながら基本的には関わりを持たぬようにしている節がある。
 それは恐らく現世うつしよ幽世かくりよのバランスを崩さぬ為……故に最低限の干渉に留めていると思われる。

「でも、今回は人間の手に余る【あやかし】……だから、事情を話せば協力をして貰える可能性はあると思います」
「ふむ……理屈は分かった。上手くいけば牛鬼を倒す加勢を得られる、と」
「力を借りられなくても牛鬼のねぐらを教えて貰えるかもしれません。それだけで短期決戦に持ち込めるでしょう?」
「まぁ……な。で……その【あやかし】ってのは、アレだよな?」
「やっぱり気付いてましたね」
「この地方じゃ地名にもあるからな、『天狗』は」

 愛媛と高知の間には天狗高原という山がある。更に愛媛の石鎚山いしづちやま山頂には天狗岳という名が付いた峰が存在する。
 スミジが頼ろうとしているのは、まさにその石鎚山を開山したという行者。 

 神變しんへん大菩薩。又の名を──。

「天狗・石鎚山いしづちやま法起坊ほっきぼう……つまり、役行者えんのぎょうじゃを頼ります」
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