姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第十九話 役小角

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 【役小角《えんのおづぬ》】

 修験道の始祖と言われる飛鳥時代の呪術者。役行者えんのぎょうじゃ役優婆塞えんのうばそくなどとも呼ばれる。
 その逸話は多く、由縁ある霊場は数多あまた存在する。【怪異】や【異界】の伝承を語る上で別格とも言える偉人である。

 天狗・石鎚山いしづちやま法起坊ほうきぼうは、役小角をまつった形態の一つ……生前から類い稀なる力を持った役小角は死後に大天狗となり、八大天狗や四十八天狗に数えられる。

 そして、四国・愛媛県にはその石鎚山が存在する。

「石鎚山法起坊は、石鎚山の神・石土毘古命いわつちひこのみことに人々の願いを伝え慈悲を与える役を担っていると聞きます。だから期待は出来ると思いますが……」
「何ぶん人には見えず、だから人前に現れるかも分からぬ……か。しかし、道祖土さいど殿には考えがある……と?」

 蒼禅の言葉にスミジは困った様な表情で笑う。

「正直、考えという程のものはありません。今回は本当に運任せになります。何せ相手は大天狗ですからね……」
「だが、助力を得られれば形勢は一気に変わるな……。とは言え、さっき話した警戒体制は変えられねぇのも確かだ。宇和島近辺は藤倉所長のお陰で差し障りなく警戒できているが、他も同じたぁいかねぇだろうからなぁ……」

 一般人に更なる犠牲が出ては目も当てられない、と心源は片眉を上げ溜め息を吐いた。

「二十人を五十箇所──。それ、愛媛沿岸だけに絞ったらどうです?」
「おいおい……他の地区は見捨てんのか?」
「いえ……『対策室』に連絡をしたら増援が期待できそうなんです。だよね、伊庭さん?」
「ああ……。今回は参加報奨金が国から出るそうで、フリーの祓い師にも呼び掛けてるから明日には来る筈ですよ」
「ほ! ソイツは助かるな。じゃあ、俺達は自分の地区を担当すりゃ良い訳か……」
「という訳で、俺と伊庭さんは今から石鎚山に向かいます。闇深い方が幽世側に近付きますから、法起坊と出逢える可能性も上がりますし」
「おいおい……。祓い師のお前はともかく、そっちの刑事さんにゃキツいんじゃねぇか?」

 その言葉に伊庭は憮然とした表情で答える。

「確かに霊力は少ないが、これでもスミジと修行をしたことがあります。問題ないですよ」
「……。ま、そういうなら構わないがよ?」

 何となく事情を悟ったのか心源はそれ以上のことは言わなかった。
 
「ともかく、なるべく早く戻ります。上手くいかなかったら……スミマセン」
「なぁに。元々俺達だけじゃ【怪異】に頼ろうたぁ思わねぇからな……ダメならダメで別の手を考えるさ」
「それじゃ行きますね。心源さん、蒼禅さん……どうか無理はなさらぬよう」
「ああ。お互いにな?」

 頷いたスミジと伊庭は藤倉に視線を向けた。

「藤倉さん、車をお借りしても良いですか?」
「……。私も行きます」
「いや……流石にそれは……。それに心源さん達との打ち合わせもあるんじゃ……」
「【あやかし】に対しては心源さんのご指示に従うしかありませんので私が居なくても大丈夫でしょう。ですが、道祖土さんと伊庭さんは土地に明るくないですよね? それでは困るでしょう?」

 石鎚山までの道順自体は携帯端末のGPS機能を使えば問題ない。しかし、夜間の慣れぬ道を走ることは確かに不安もある。

「ですが、山に向かうとなれば遅くなります。御家族が心配しませんか?」
「家族には牛鬼が出現したと分かった時に忙しくなると伝えてあります。それに、家族が安心して暮らすには牛鬼を何とかしないと……」
「……そうですね。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 そしてスミジと伊庭は藤倉と共に石鎚山へと向かう。石鎚山法起坊との出逢いは何を齎すのか……今はまだ分からない。

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