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◆第六章 古き大妖◆
第三十七話 咎憑きの影
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「迫るもの通るもの、遮り妨げよ!【ぬりかべ】!」
あわや串刺しかと思われた蜘蛛の脚は、心源と蒼禅の前で拮抗……見えない壁が二人を守った。直後、硬直が解けた二人は直ぐ様牛鬼から距離を取った。
霊気写法による援護。顕現させた『ぬりかべ』は高い知名度を誇る【あやかし】であり、見えぬ姿で行く手を遮る性質を持つ。
では、見えぬ姿をどうやって描いたのか……それについては『ぬりかべ』の正体に由来するが、説明は次の機会としよう。
「今のはヤバかったな……蒼禅」
「ええ……。道祖土殿、お陰で助かった」
『いえ……どうやら牛鬼の霊気に混じる瘴気は相手の動きを縛る効果があるみたいですね。気をつけないと』
インカム越しに答えたスミジは、自らも隠れていた岩場から姿を現した。
「もう一人隠れていたか、祓い師……しかも、僕に気配を感じさせないなんてやるじゃないか」
「俺は殆ど金属を持ってないんでね。匂いじゃ気が付かなかったんだろな」
「それに今の技……もしかして君が道祖土か?」
「どうして道祖土を……」
「やはりそうか。ハハハハハ! これは良い! 本当にあの男の言う通りになった!」
「あの男……?」
そこで牛鬼は整った少年の顔をニヤリと歪ませる。
「僕を今の世に解き放ったのは人間の男さ。そしてその男は色々と役に立ってくれた。人間から隠れる方法やその習性、それに祓い師の知識などの……ね。お陰で力を蓄えることもできた」
「お前を解放したのは咎憑きか?」
「そうそう、君達は悪しき祓い師をそう呼ぶんだったね……僕からすれば善悪など些細なことだけど。その彼が去る際、一つ忠告を残していった。『やがて【道祖土】という祓い師に出会うことがあるだろう……消滅したくなければ精々油断しないことだ』とね」
「…………」
「そして現実に『道祖土』は来た……。だけど、僕はこの機会を待っていた気がする。あの男がそこまで言う祓い師なら今の僕の力を測るには丁度良い」
少年の背中から更に蜘蛛の脚が六つ。これで合わせて八つ……全ての脚を出したことになる。
そして高まる牛鬼の霊力──それは常人ならば触れただけで正気を失う程の禍々しさ。しかし、スミジは臆した様子もなく平然と質問を投げ掛けた。
「戦う前に幾つか聞きたいことがあるんだが……」
「何だい、道祖土?」
「先ず、お前を解放した咎憑きの名前を知りたい」
「フッ。別に構わないよ。口止めされている訳でも無いしね……男は物部翹士郎と名乗った。本名かまでは知らないけどね」
その名はスミジも聞いたことがあった。
現在指名手配されている中で最も長く逃亡を続けている【咎憑き】にして、多くの災いを振り撒く者……通称『災禍なる呪術師』―――『超法規事例対策室』が最重要危険人物として捜索している男。
「……。物部は何を目論んでいる?」
「さあ……そこまでは知らないね」
「そうか……。……。それで、お前はそれだけの知識や知能を手に入れてもまだ人間に害を為すのか?」
「アハハハハ! どうやら人間は勘違いしているようだね……現世は人間だけのものではないんだよ。当然ながら僕達【あやかし】にも権利はある」
「権利……?」
「そう。動物が生存の為の戦略を行うように、【あやかし】もまた存在の維持に力を尽くす。それだけの話さ」
その言葉を聞いた心源は激昂し叫ぶ。
「ふざけんな! テメェらが人間を喰うのが生存本能だってのか!」
「ふん……別におかしくはないだろう? 現世に於いての【あやかし】の存在は人間の認識に左右されるんだ。そして人間の認識で最も根強いのは『畏れ』──人を喰らえば恐怖を与えるだけでなく霊力や肉を取り込み現世に留まり易くなる。まさに一石二鳥だろう?」
「テメェ、そんな勝手な理由で……人の命を何だと思ってやがる!」
「ハハハハ! 君達がそれを言うのか? 自分達の欲望で何万人もの無辜の民を平気で殺す人間が? クックック……僕から言わせれば、今は暗闇こそ減ったけど人間の内の闇は前よりも濃くなったように感じるけどね」
「クッ……!」
今にも飛びかかりそうな心源……それを制したのは蒼禅だった。
あわや串刺しかと思われた蜘蛛の脚は、心源と蒼禅の前で拮抗……見えない壁が二人を守った。直後、硬直が解けた二人は直ぐ様牛鬼から距離を取った。
霊気写法による援護。顕現させた『ぬりかべ』は高い知名度を誇る【あやかし】であり、見えぬ姿で行く手を遮る性質を持つ。
では、見えぬ姿をどうやって描いたのか……それについては『ぬりかべ』の正体に由来するが、説明は次の機会としよう。
「今のはヤバかったな……蒼禅」
「ええ……。道祖土殿、お陰で助かった」
『いえ……どうやら牛鬼の霊気に混じる瘴気は相手の動きを縛る効果があるみたいですね。気をつけないと』
インカム越しに答えたスミジは、自らも隠れていた岩場から姿を現した。
「もう一人隠れていたか、祓い師……しかも、僕に気配を感じさせないなんてやるじゃないか」
「俺は殆ど金属を持ってないんでね。匂いじゃ気が付かなかったんだろな」
「それに今の技……もしかして君が道祖土か?」
「どうして道祖土を……」
「やはりそうか。ハハハハハ! これは良い! 本当にあの男の言う通りになった!」
「あの男……?」
そこで牛鬼は整った少年の顔をニヤリと歪ませる。
「僕を今の世に解き放ったのは人間の男さ。そしてその男は色々と役に立ってくれた。人間から隠れる方法やその習性、それに祓い師の知識などの……ね。お陰で力を蓄えることもできた」
「お前を解放したのは咎憑きか?」
「そうそう、君達は悪しき祓い師をそう呼ぶんだったね……僕からすれば善悪など些細なことだけど。その彼が去る際、一つ忠告を残していった。『やがて【道祖土】という祓い師に出会うことがあるだろう……消滅したくなければ精々油断しないことだ』とね」
「…………」
「そして現実に『道祖土』は来た……。だけど、僕はこの機会を待っていた気がする。あの男がそこまで言う祓い師なら今の僕の力を測るには丁度良い」
少年の背中から更に蜘蛛の脚が六つ。これで合わせて八つ……全ての脚を出したことになる。
そして高まる牛鬼の霊力──それは常人ならば触れただけで正気を失う程の禍々しさ。しかし、スミジは臆した様子もなく平然と質問を投げ掛けた。
「戦う前に幾つか聞きたいことがあるんだが……」
「何だい、道祖土?」
「先ず、お前を解放した咎憑きの名前を知りたい」
「フッ。別に構わないよ。口止めされている訳でも無いしね……男は物部翹士郎と名乗った。本名かまでは知らないけどね」
その名はスミジも聞いたことがあった。
現在指名手配されている中で最も長く逃亡を続けている【咎憑き】にして、多くの災いを振り撒く者……通称『災禍なる呪術師』―――『超法規事例対策室』が最重要危険人物として捜索している男。
「……。物部は何を目論んでいる?」
「さあ……そこまでは知らないね」
「そうか……。……。それで、お前はそれだけの知識や知能を手に入れてもまだ人間に害を為すのか?」
「アハハハハ! どうやら人間は勘違いしているようだね……現世は人間だけのものではないんだよ。当然ながら僕達【あやかし】にも権利はある」
「権利……?」
「そう。動物が生存の為の戦略を行うように、【あやかし】もまた存在の維持に力を尽くす。それだけの話さ」
その言葉を聞いた心源は激昂し叫ぶ。
「ふざけんな! テメェらが人間を喰うのが生存本能だってのか!」
「ふん……別におかしくはないだろう? 現世に於いての【あやかし】の存在は人間の認識に左右されるんだ。そして人間の認識で最も根強いのは『畏れ』──人を喰らえば恐怖を与えるだけでなく霊力や肉を取り込み現世に留まり易くなる。まさに一石二鳥だろう?」
「テメェ、そんな勝手な理由で……人の命を何だと思ってやがる!」
「ハハハハ! 君達がそれを言うのか? 自分達の欲望で何万人もの無辜の民を平気で殺す人間が? クックック……僕から言わせれば、今は暗闇こそ減ったけど人間の内の闇は前よりも濃くなったように感じるけどね」
「クッ……!」
今にも飛びかかりそうな心源……それを制したのは蒼禅だった。
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