姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第三十九話 時代に合わせた進化

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(流石は天元明智宗の中でも戦いに長けた者達か……。それでも道祖土殿の技が無ければ危うかったが)

 筧は自らも前線に立ちたい気持ちはあるが役割をわきまえ動かない。指揮をする者は冷静にあるべし──それは筧が長年の経験で嫌という程理解したことだ。

 だからこそ筧は慎重だった。持参した装備の中でも最高火力の銃を取り出し一撃必殺を意識しつつ牛鬼に狙いを定める。
 あとはタイミング……筧は前衛を信じて神経を集中しを待った。


 一方の心源、蒼禅……そしてスミジは出し惜しみをしている余裕はない。牛鬼はそれまで相手をした中で最大級の【あやかし】。陽光の差す時間で先程の動きができるのは脅威そのものだった。
 いや……時が経過し逢魔が刻が近付けば状況は更に厳しくなる。その前に討ち果たさねば更なる犠牲が生まれることは目に見えていた。

「やるぞ、蒼禅!」
「わかりました!」

 二人は懐から取り出した法具・獨鈷どっこを握り念を籠める。青白い光を放ったそれを二人は牛鬼へと放つ。
 硬質な牛鬼の背に届いた獨鈷は鈍い金属音を上げると弾かれることなく突き刺さる。が……決して深くはない。辛うじて、と言った具合だ。

 しかし、確かに刺さった。心源と蒼禅にはそれで十分だった。

「ノウマク・サマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソワカ!」

 二人は同じ真言を同時に唱える。発生したのはいかづち……唱えた真言は帝釈天だ。

 帝釈天はインドに於ける雷帝インドラ神。幽世より力を借りて喚んだ雷は牛鬼に刺さった二本の獨鈷に直撃、その体内へと流れる。

『ぐおおぉぉぉぉーっ!』

 並の【あやかし】ならば一撃で討滅されるその威力は牛鬼にも通じ得ると思われた。

 だが……。

『……クックッ。この程度か、坊主共?』

 牛鬼が電撃に怯んだのは一瞬だけ。その後は流れる電流に対して何事も無いかのように動き始める。
 更に、牛鬼は身体に力を込めると背に刺さった獨鈷を弾き飛ばした。

「ちっ……。頑丈な奴だな。だが……」
「ええ。次は……!」

 再び獨鈷を取り出した心源・蒼禅。但し取り出した数は各七本づつの計十四本……霊力を籠めた獨鈷は宙に浮き牛鬼へと狙いを定めている。
 同じ雷を落とせばその効果は七倍……先程も僅かながら効果はあったのだ。次こそは確実に手傷を与えられると考えるのは当然だろう。

 しかし、物事はそう上手くは運ばない。二人が放った獨鈷は牛鬼に刺さらず弾かれたのである。

「なっ……!」
『何故刺さらぬか不可解か? それは貴様らの力が弱く我に届かぬからよ』
「何だと……!?」
『ククク……復活してより力を蓄えたことの意味、祓い師ならば理解できる筈だがな。加えて、今の時代は良いぞ? 人の情報媒体に手を加えればあっという間に存在の力は跳ね上がる。わざわざ歩き回らずとも言葉のみで済むのだ』
「まさか……」
『ハハハ! 気付いた様だな。人の身で行動する事は愉快だったぞ? お陰で沢山の知識を手に入れた』

 牛鬼が行ったのは積極的怪異の周知。【あやかし】自らが怪異である自己存在を人間に広める……これは明らかな異常事態である。
 牛鬼は人の姿にてインターネットを利用した情報発信を行っていた。それは人の文化を利用し、より多くの人間の意識に印象付く様書き込みを繰り返したことを意味する。

 多くの古き【あやかし】は新しきものを嫌う。それは自らが世に生まれた理由を新しきものが塗り潰しかねないからだ。加えて言えば、新しいものは人間が必要とする光を伴う為【あやかし】にとっては苦手とするところ。

 己の不利になりかねないものを平然と利用するのは、牛鬼という大妖だからこそ可能な行為なのだろう。



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