姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第四十三話 呪詛毒

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 蒼禅の力を確認した心源は法力を込め法螺貝を鳴らす。それも僅かな時間ではなく一呼吸で三十秒以上の長さだ。

 心源の吹く道具も只の法螺貝ではない。それもまた天元明智宗の法力道具。効果は【あやかし】の淀んだ霊力を浄化し地に還すもの……。

『ちっ……厄介なものを……』

 宇和島地方の牛鬼伝承では修験者が法螺貝を吹き、真言を唱え牛鬼を剣で斬り裂いたという。心源はその伝承をなぞらえることで討滅の効果の引き上げを考えていた。用いるのは天元明智の法具なので更に効率は高い筈……。

 そして心源の狙い通り、未だ膨大な牛鬼の霊力は僅かづつながら減少を始めた。それを嫌ってか牛鬼は法螺貝を吹く心源に目標を定め爆ぜる様に飛び掛かる。

「クソッ!」
『死ね、羽虫』

 その瞬間、割って入ったのは霊気写法で顕現した【あやかし】……スミジは心源のサポートに集中していた。

 顕現した【あやかし】は【大ムカデ】……ムカデはその硬質の殻で攻撃を防いだ後、牛鬼の体に巻き付き絞め上げる。そして更にその牙で噛み付いた。

『小賢しい……この牛鬼に毒だと?』

 一瞬ブルリと震えた牛鬼は口から黒い霧を吐き出した。スミジと心源は即座に牛鬼から距離を取る。

「ヤベェ、ヤベェ……ありゃ毒だろ?」
「ですね……。大ムカデ自体も毒を持ってはいますが、虚式・霊気写法は元の【あやかし】より弱いので耐えられるかどうか……」

 スミジの予感をなぞる様に霧が晴れた先に居たのは牛鬼のみ……周囲には朱色の墨が撒き散っていた。

「……やっぱり駄目だったか」
『フン……。こんな紛い物でこの牛鬼と毒勝負だと? 笑わせる』

 牛鬼が最も恐れられている点はその毒素と呪詛。牛鬼由縁の伝承の殆どはそれらを伝えている。

『ククク……。面白い……ならば我が瘴毒、存分に味わわせてやろう!』

 素早さを増した牛鬼は毒素・呪詛を巻き散らしたままスミジと心源、そして蒼禅へと攻撃を始める。
 速さに対しては辛うじて反応できてはいるが何より毒素・呪詛が厄介だった。触れれば蝕まれる呪詛は広がる一方……このままでは全滅の可能性が高い。

 そこで蒼禅は法具である羯磨を素早く取り出し真言を唱える。磯女の時の様に羯磨を回転させ毒素・呪詛を巻き上げ散らそうとしたのだ。

 だが……羯磨はやがて毒素の影響で変形し溶け始めた。

「クッ……! ここまで強力な毒素とは……」
『磯女と同じとでも思ったか? 我が毒素は骨すら残さんぞ?』

 その様子に心源は法螺貝を一度手放し自らも懐から取り出した羯磨を投げる。蒼禅同様に真言を唱え毒素を巻き上げ始めた。
 同時に……スミジも虚式・霊気写法を展開。描いたのは絵神・【箒神ははきがみ】……大きな竹箒の【あやかし】はやはり回転による渦を起こした。

 二つの渦はやがて一つとなり巨大な竜巻となる。【箒神】の不浄を祓う力と心源の法力が相乗効果を生み毒素は上手く散ったかに思われた。

 牛鬼は……この隙を狙っていた。

『死ね! 道祖土!』

 いつの間にか毒霧に紛れ姿を消していた牛鬼は突然スミジの足場から出現……。これには流石のスミジ、そして心源も反応が遅れた。

 離れている蒼禅が獨鈷を投げるも後ろ脚であっさり叩き落されてしまう。

 スミジは反射的に心源を庇うように移動……そして死を覚悟した……。


 その瞬間──響いたのは銃撃の音。絶妙な位置に移動していた筧による援護射撃は、牛鬼の前脚に集中し一本を破壊……その体にも複数弾命中を果たす。





 
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