姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第五十三話 流派の起源

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 筧流の奥義【雷帝匡手らいていきょうしゅ】による猛攻は肉体的にも精神的にも負担が大きい。心源の推測通り五分と持たずに力は尽きる。
 それは筧自身も理解していた。同時に牛鬼を倒しきれないことも……。

 だからこそ自らの『切り札』を先に切りその力を以て牛鬼の消耗を狙ったのである。

 但し……そこには賭けの要素が多分に含まれている。

 祓い師の業界では何かと噂の道祖土──スミジの代まで他流派との交流は無きに等しい祓い師一族。『護国統霊会』は道祖土へ仕事を依頼した者達から情報を集め力を探り、霊印術にて【あやかし】の力を使用することまでは突き止めた。
 だが、祓い仕事に【あやかし】を使うことはそれ程珍しいことではない。故に『世にとって危険か否か』の判断が保留となっていた。


 とはいえ、道祖土の真髄や起源は未だ謎に包まれている。

 【祓い師】という存在は本来、何らかの起源がある。たとえば筧や伊庭は、古くより帝に仕え世の邪なるものを祓うのが役目……。同様に、時の権力者から任を与えられ怪異を監視・排除するのが天元明智宗の起源である。
 海外の例ではリカルド牧師の『アルス・マグナ修道会』も似たような起源……要は組織構成員として形成される祓い師は権力者との繋がりは欠かせないのだ。

 逆に……存在の強さから祀られ崇められた強大な霊体──そこから力を借りる祓い師もいる。それが九頭竜姉妹の実家『九頭万世八竜神社』。
 自然の摂理さえ操り、恵みであり災いともなり得る強大な霊的存在を御神体としその力を借り受ける……民間の信仰により庶民に寄る形で派生した祓い師がそれである。

 といっても、その影響力から後に権力者の庇護も加わることになるが……今回は詳細は省くことにしよう。


 そして、前述のものとは一線を画す祓い師も確かに存在する。

 一つは【あやかし憑き】家系の血筋。

 御門の『犬神』は代々その家系にのみ憑き従う。系譜は古すぎて追えないことが多いが、神話にも繋がる例もある。どちらかといえば稀有な祓い師だ。

 もう一つは先天的な霊力を持ち我流を開眼する者。

 こちらは一代のみの流派形成される場合と、我流ながら完全なる『流派』として確立する場合に分かれる。前者は三条茉莉奈まりなとその執事・嘉藤かとうの両名が当て嵌る。

 そして、道祖土は後者……恐らく我流からの確立一族だろう──というのが『護国統霊会』の判断だった。

 我流派の誕生には多大な労力を要する。一族に目的があり、あらゆる研鑽を行う結束力が必要で、代を重ねるにつれ術を強化し続ける執念も併せ持たねばならない。それは祓い師にとって血による継承が最も高みへ昇ることに繋がる故……。
 道祖土の出現は江戸の頃と言われているので他流派よりも霊術理論構築は弱い筈だが、その技量は異常とも取れる成長を果たしていた。

 だからこそ道祖土は、未だ祓い師達に警戒されている節がある。

(だが、私は道祖土スミジという人間に【悪】を感じない。私の経験と本能が信ずるに値すると告げている)

 筧は刀を振るい続けながら心のなかで自答している。

(道祖土の痕跡を辿ればその力は確かに驚くべきものだろう。だが、そのどれを取っても全て人の為だとも判った。一族の目的が何であれ、私は共に肩を並べ戦う道祖土澄璽すみじという男を信じる!)

 背中の霊印全てが光を失い遂に筧は崩れ落ちた……かに見えた。それは踏み込み──筧は最後に渾身の太刀を牛鬼へと振るう。

 筧流剣術奥義【布都御魂ふつのみたま

 残りの霊力を集めた赤き陽炎立ち昇る太刀が牛鬼のその両の脚を分断……返した刃を下がった牛鬼の脳天へ落とす。
 これを首を捻り辛うじて躱す牛鬼……刃は肩に僅かに食い込んだが、そこで筧は霊力切れとなってしまった……。

「フッ……。あわよくば……と思ったがやはり上手くいかんか」
『……恐ろしい女だ。この形態への変化へんげを手に入れていなければ貴様一人で我を討滅さえできただろう。だが、これが現実……この牛鬼をここまで刻んだことを誇り……死ね!』

 精根尽き果て動く事すら儘ならない筧へ振り落とされる牛鬼の拳……無慈悲な一撃となるそれを止めたのはスミジの左腕だった……。

「箒神……筧さんを頼む」

 スミジの指示に従い筧を木の枝で包んだ箒神は、不規則な動きで心源達の傍へと移動した。

『……ククク。やはり最後は貴様か、道祖土? だが、その腕……あの女の命の代償としては大きかろう?』

 牛鬼の剛腕を受けたスミジの左腕は砕けあらぬ方向へと曲がっていた……。

 この状況での負傷、更には霊力不足……誰が見ても牛鬼討滅は失敗に思われた。

 しかし、牛鬼はスミジの目の奥に怪しい光を見る。それはこの世の存在ならざる【あやかし・牛鬼】にさえ一瞬なりの不可解な感情を与えた。

『何……だ? 貴様……何を隠している……!?』

 牛鬼の心情を見抜いたスミジは……苦笑いを浮かべた後大声で叫ぶ。

「石鎚山法起坊へお頼み申し上げる! どうかこの力を人目に触れさせぬようお力添えを!!」
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