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◆第六章 古き大妖◆
第五十四話 真の切り札
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叫びに呼応するように小さなつむじ風がスミジの傍に現れた。砂を巻き上げている為に目視できるそれは、一つ二つと増えやがては幾十となり円陣を作り出す。
やがて旋風は反発することなく繋がり一つの大竜巻へと変化を成した。
直径凡そ三十メートル程の竜巻は砂を巻き上げるだけでなく黒い靄も含まれていた。つまりは完全な視覚遮断状態──スミジの願いは聞き入れられたのだ。
『………。フン……天狗めが多少手を貸したところで貴様の霊力不足は補えんだろう?』
「俺も最初は失敗したと思ったさ」
『何の話をしている……?』
「悪い。こっちの事情ってだけだ」
『………』
石鎚山法起坊から渡された霊珠があればスミジの霊力は回復できた。しかし、あの霊珠は三条茉莉奈の母を救う時の為に温存し置いてきた。石鎚山法起坊がそれとなく仄めかしていたのでそれが正しいと思っていた。
だが、蓋を開ければ牛鬼討伐はジリ貧とさえ言える状態……。霊珠があれぱスミジのみならずもう一人分程の霊力も回復できただろう。
それを置いてきたことをスミジは“失敗した”と言ったのである。
切り札の使用はスミジ自身もできるならば避けたい。しかし、石鎚山法起坊が頼みに応えたところを見ると選択肢は他に無い……ということらしい。
「覚悟を……決めなきゃな」
骨折に因る発熱と疲労で額に汗が流れるスミジが、無事な右腕にて筆を握り宙に描くは【あやかし】の姿──。
「そういや、お前も【鬼】だったな……牛鬼」
浮かび上がる鬼の絵は牛鬼同様の赤銅色……虚式・霊気写法による【あやかし】の具現化。しかし、そこから更に術は変化する。
霊印術の中で虚式の変化形となる肆式。本来、道具に【あやかし】の力を宿し利用する【幽怪憑依】を人に使おうとした先祖が居た。結果、生まれたのは【あやかし】の力を持つ人間……。
だが、その者は【あやかし】の力を制御できずに魂を喰われ完全な【あやかし】となり一族に祓われた。
それ以来、道祖土にとっても禁忌とされたあやかしとの融合。
蒼禅が使用する天元明智宗奥義【降魔法術・来仏宿威】の様に限定的に借り受けるのではなく、【あやかし】の力を幽世から無尽蔵に引き出すソレは確かに人の手にあっては危険な力と思われても当然の術……。
「裏屍式……幽現魂合絵依」
【あやかし】の力を完全な形で発現するには現世の者としての拘りを捨てなければならない。故に屍人で屍式──。
そして人に戻る為には完全に幽世のものとなってもいけない。その為の器が霊気写法で描いた【あやかし】……。
人の身に【あやかし】を宿すのではなく、現世に現出させた【あやかし】の器に幽世側へ寄ったスミジの魂を移す……この矛盾とも思える発想が屍式を可能にしたのである。
これは道祖土本家ですら知らぬスミジの秘中の秘……。
半透明の鬼の姿とスミジが重なった時、残り少ない筈の霊力は瞬時に増幅。更に元の霊力をも越え鬼体の背後に火炎光背を形成する。
炎は手首や足首にも腕輪の様に取り巻きユラユラと揺れていた。
その身体は赤銅にして鋼の如し。元々180センチメートル以上あるスミジの身体は、今や牛鬼と同程度まで膨張していた。
『貴様! 人の身であやかしに!?』
『これが俺の真の切り札だ。……。だが、本当は使いたくなかった。この力は俺の魂をほんの少しづつ……しかし、確実に幽世に引き寄せる。お陰で霊力は増え怪我は治る、が……人間としての感情が偏る』
スミジの砕けた左腕は既に修復され滾りさえ見せていた。
『恐るべきは道祖土の妙技……まさか【あやかし】そのものとなる力とはな? ククク! あの男の予言は正しかったな。ハ━━ッハッハ!』
『【あやかし】ではない。無論、人でもない……今の俺は……言ってみれば【虚鬼】……』
『ならば見せてみろ、虚鬼とやら……。貴様がこの大妖・牛鬼を倒せる証をな!』
やがて旋風は反発することなく繋がり一つの大竜巻へと変化を成した。
直径凡そ三十メートル程の竜巻は砂を巻き上げるだけでなく黒い靄も含まれていた。つまりは完全な視覚遮断状態──スミジの願いは聞き入れられたのだ。
『………。フン……天狗めが多少手を貸したところで貴様の霊力不足は補えんだろう?』
「俺も最初は失敗したと思ったさ」
『何の話をしている……?』
「悪い。こっちの事情ってだけだ」
『………』
石鎚山法起坊から渡された霊珠があればスミジの霊力は回復できた。しかし、あの霊珠は三条茉莉奈の母を救う時の為に温存し置いてきた。石鎚山法起坊がそれとなく仄めかしていたのでそれが正しいと思っていた。
だが、蓋を開ければ牛鬼討伐はジリ貧とさえ言える状態……。霊珠があれぱスミジのみならずもう一人分程の霊力も回復できただろう。
それを置いてきたことをスミジは“失敗した”と言ったのである。
切り札の使用はスミジ自身もできるならば避けたい。しかし、石鎚山法起坊が頼みに応えたところを見ると選択肢は他に無い……ということらしい。
「覚悟を……決めなきゃな」
骨折に因る発熱と疲労で額に汗が流れるスミジが、無事な右腕にて筆を握り宙に描くは【あやかし】の姿──。
「そういや、お前も【鬼】だったな……牛鬼」
浮かび上がる鬼の絵は牛鬼同様の赤銅色……虚式・霊気写法による【あやかし】の具現化。しかし、そこから更に術は変化する。
霊印術の中で虚式の変化形となる肆式。本来、道具に【あやかし】の力を宿し利用する【幽怪憑依】を人に使おうとした先祖が居た。結果、生まれたのは【あやかし】の力を持つ人間……。
だが、その者は【あやかし】の力を制御できずに魂を喰われ完全な【あやかし】となり一族に祓われた。
それ以来、道祖土にとっても禁忌とされたあやかしとの融合。
蒼禅が使用する天元明智宗奥義【降魔法術・来仏宿威】の様に限定的に借り受けるのではなく、【あやかし】の力を幽世から無尽蔵に引き出すソレは確かに人の手にあっては危険な力と思われても当然の術……。
「裏屍式……幽現魂合絵依」
【あやかし】の力を完全な形で発現するには現世の者としての拘りを捨てなければならない。故に屍人で屍式──。
そして人に戻る為には完全に幽世のものとなってもいけない。その為の器が霊気写法で描いた【あやかし】……。
人の身に【あやかし】を宿すのではなく、現世に現出させた【あやかし】の器に幽世側へ寄ったスミジの魂を移す……この矛盾とも思える発想が屍式を可能にしたのである。
これは道祖土本家ですら知らぬスミジの秘中の秘……。
半透明の鬼の姿とスミジが重なった時、残り少ない筈の霊力は瞬時に増幅。更に元の霊力をも越え鬼体の背後に火炎光背を形成する。
炎は手首や足首にも腕輪の様に取り巻きユラユラと揺れていた。
その身体は赤銅にして鋼の如し。元々180センチメートル以上あるスミジの身体は、今や牛鬼と同程度まで膨張していた。
『貴様! 人の身であやかしに!?』
『これが俺の真の切り札だ。……。だが、本当は使いたくなかった。この力は俺の魂をほんの少しづつ……しかし、確実に幽世に引き寄せる。お陰で霊力は増え怪我は治る、が……人間としての感情が偏る』
スミジの砕けた左腕は既に修復され滾りさえ見せていた。
『恐るべきは道祖土の妙技……まさか【あやかし】そのものとなる力とはな? ククク! あの男の予言は正しかったな。ハ━━ッハッハ!』
『【あやかし】ではない。無論、人でもない……今の俺は……言ってみれば【虚鬼】……』
『ならば見せてみろ、虚鬼とやら……。貴様がこの大妖・牛鬼を倒せる証をな!』
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