姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第五十五話 虚鬼の戦い

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 虚鬼となったスミジと牛鬼の戦いは酷く原始的な攻撃の繰り返しとなった……。

 互いが持つ自然災害とも言える膂力りょりょくにての殴り合い──。

 いや、それだけではない。引っ掻く、頭突く、噛み付く、引き裂く、千切る、握り潰す、踏み潰す、蹴り砕く、絞め上げる、組み敷き、そして折る……凡そ肉体でできる全ての手段で互いを攻撃し続けた。

『ブハハハハ! 愉悦! 【あやかし】と【あやかし】! 道祖土なる祓い師! 現世うつしよでこれ程の力と対峙するとは思わなんだわ!』
『………』
『ククク……随分と変わるものよ。今の貴様からは無意識に向けていただろう【あやかし】への友愛を感じぬ。どうやら偏るとは怒りに飲まれ他の感情が希薄になることの様だな? ならばその術、長く使えば精神が持つまい。最悪、肉体にも影響が出て命取りとなるのだろう。そうでなければ最後の切り札にもせぬか』
『よく喋る……』

 牛鬼の拳に対し頭突きで迎え撃つスミジ。岩と岩がぶつかるような低く鈍い音……それらは全て人ならば瞬時に命を奪われるだろう力を秘めている。それこそが災害と置き換えられる大妖たる所以……。
 音や会話は石鎚山法起坊の竜巻により遮られている。しかし、その衝撃は波となり地を伝う。島を揺らす振動は心源達も感じていた。

「おいおい……。一体何が起こってやがんだよ……」

 未だ体力も霊力も回復していない心源、蒼禅。そして疲労し過ぎて立つこともできない筧。三人は遠巻きに竜巻を見つめることしかできない。

「道祖土とはこれ程なのですか、心源さん……」
「……あの状態の牛鬼と単独で渡り合うなんざ俺も思わなかったぜ。てっきり封印の奥義でもあんのかと思ってたんだがな」
「……。やはり脅威……なのか……」

 そんな蒼禅に息を切らし座っていた筧が声を掛ける。

「恐らく……道祖土殿は禁術、もしくはそれに相当する術を使用している」
「禁術……それは問題ではないか!」
「問題は我々の方だろう、蒼禅殿……。道祖土殿はその力を使いたくなかった筈だ。使わせているのは我々の弱さ……」
「……。しかし……」
「禁術は何故禁術とされるのか理解しているか、蒼禅殿……?」
「それは……世を乱す恐れが……」

 蒼禅の答えに小さく首を振った筧は自分の刀を鞘に納めながら続けた。

「禁術は使い手に危険があるのだ。命、魂、存在、霊力、そして精神……。それらを犠牲にした結果として力を行使する。その反動は当人すら制御ができなくなる故に周囲にさえ影響を与える可能性がある。つまり、制御しつつ被害を回避できれば禁術とはならない」
「それは理屈であって道理ではあるまい」
「そうだな。が……術というのは個人差があるだろう? 貴公の使うあの奥義……心源殿が使えぬのは何故だ?」
「それは……」

 相性……心源は蒼禅よりも多彩に術を行使できるし霊力も僅かながら多い。しかしながら、奥義たる【来仏宿威】は使えない。そこに信心の差も経験の差も関係は無い。
 実のところ、心源も術自体は覚えている。それを使わぬのは過去に力に飲まれかけた故である。

「言い換えりゃ俺にとっては【来仏宿威】は禁術……確かにそうとも言えるな」
「心源さん……」
「椿嵐の言いたいことは分かるぜ? 道祖土は制御できるが禁術もどきを使えば騒ぎになる。だから隠してたってんだろ?」
「ああ。まぁ、理由はそれだけではないのだろうが……律儀に他者の流儀に合わせたのだな。が……禁術と近いと言うならばやはり反動は大きいだろう。それでも使わざるを得なかったのは私も同じだが、恐らく道祖土殿の方はもっと負担が深刻なのだろうな……」

 道祖土スミジはそれだけ命懸けだろうと筧は大きく嘆息しつつ目を閉じた。


 三人は再び竜巻を見守る。内で何が起こって居ようと、この戦いの終わりが近いことを感じたのだ……。
 

  
 
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