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◆第六章 古き大妖◆
第五十六話 届かぬ力
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三十分程続いたスミジと牛鬼の暴力の応酬……。しかし、遂に均衡は崩れ始めた。
人の認識する存在としてはどちらも【鬼】──しかし、牛鬼は自らの存在としての伝承である【牛鬼】も加わっている。事前にインターネットを利用して高めた分、牛鬼としての力の方が僅かに上回ったのだ。
対して押され始めた虚鬼──スミジはこの状況を打破する為に最後の賭けに出る。
【あやかし】に寄った状態で使うのはやはり道祖土の術──。その技の中で稀な筆を不要とする呪言……言霊を使用した呪いの言葉。
『銅鏡に映りし雨天の月が、照らして咲くは彼岸花。紅花を喰らいしクワコの繭は夏の夜に鬼灯となり明かりを燈す。金火の尾、嘶く遠雷、無明の根、梳いて束ねて撚り合わせるは金剛堅固の無縫の衣』
道祖土流・霊印投写妙法術【陸式・呪言緤歌】
言葉に宿る力を練り上げ対象の強化する術は、本来『霊気写法』で顕現した【あやかし】の為に考案されたものだ。
通常の言霊と違うのは“道祖土の顕現させた【あやかし】”にのみ使用するという誓約があること……。この縛りにより効果は更に引き上げられる。
虚鬼となったスミジはその条件に該当する。しかし、実際に陸式を虚鬼に使うのはこれが初めてのこと……。どこまで有効かは分からないが賭けに出るしかないのもまた事実……。
斯くして言霊の効果は目に見える形で発動した。火炎光背の霊力は羽衣へと形状を変え【虚鬼】の腕に巻き付いてゆく。これにより膂力は更に高まり拳は不壊の鎚として振るわれた。
『おのれ……! まだ力を増すか!?』
『終わりだ牛鬼……。お前は現世に住まうには強力過ぎる……。だが、帰ることを拒んだ以上討滅するしかない』
『ぐがぁ!!』
虚鬼の……スミジの拳はやがて一方的な力を発揮し、牛鬼はその体の維持が困難になり始める。殴られた部位は黒い霧へと変化し散ったまま戻らなくなった。
少しづつ……しかし確実に牛鬼はその身体が崩されてゆく。それでも完全に粉砕されまいとその身を凝縮し攻撃を耐え続けている。
そこで牛鬼は……虚鬼の流す血の涙に気付く。
『愚かな……。まだ討滅を躊躇うか』
『………』
『この大妖たる牛鬼へ憐憫を向けるとは……その脆弱な心でこの牛鬼を討とうなど片腹痛いわ! 嘗めるな、道祖土ォォォォ━━━ッ!!』
虚鬼の右手首を掴み拳を止めた牛鬼は右腕にて渾身の一撃を返した。顔を殴られ大きく態勢を揺らしたスミジだが、直ぐ様トドメを刺す為に左腕を振るう……。
しかし、その瞬間──突然何かが裂けるような音がした。
あとほんの一撃……それで牛鬼は討滅された筈だ。だが、それもまた宿命か……。
裂けたのは虚鬼の胸……縦に亀裂の入った黒い洞の中から元の姿をしたスミジが姿を現した。そしてそのまま砂地へ落下……残された虚鬼の身体は爆ぜる様に黒い霧となり竜巻に飲まれ消え失せる。
まるで申し合わせる様に石槌山法起坊の竜巻も砂塵を散らし消滅した。
立って居るのは牛鬼のみ……。それを確認した心源、蒼禅、筧の三名は歯嚙みするしかない。
「くっ……! 道祖土の奥の手ってのも通じなかったのか!?」
「いや……良く見ろ、心源殿。あの牛鬼の身体の小ささを……。あと一押しだ……あと一手で討滅できるまで疲弊している。しかし……」
体力はともかくまだ霊力の回復が間に合わない。それでも三人は、無理矢理身体を奮い立たせ牛鬼を討伐する為に足掻く。
「道祖土……まだ死なせねぇぞ! 死ぬには歳の順番ってのがあんだよ!」
心源は錫杖を拾い上げ支えにして立ち上がる。同じように蒼禅は利剣を、筧は鞘に納めた太刀を支えに歩みを進める。
「道祖土殿のくれたこの好機! 己の未熟が不甲斐ない……!」
「それは私も同意見だ、蒼禅殿……。今この機を逃して何の為の祓い師か……!」
三人を動かしているのは祓い師としての執念……。
だが──それでも人間である以上、限界は存在する。
牛鬼は今まさにスミジへと手を伸ばしその命を刈り取ろうとしている。祓い師達には最早それを止める術は残されていなかった……。
人の認識する存在としてはどちらも【鬼】──しかし、牛鬼は自らの存在としての伝承である【牛鬼】も加わっている。事前にインターネットを利用して高めた分、牛鬼としての力の方が僅かに上回ったのだ。
対して押され始めた虚鬼──スミジはこの状況を打破する為に最後の賭けに出る。
【あやかし】に寄った状態で使うのはやはり道祖土の術──。その技の中で稀な筆を不要とする呪言……言霊を使用した呪いの言葉。
『銅鏡に映りし雨天の月が、照らして咲くは彼岸花。紅花を喰らいしクワコの繭は夏の夜に鬼灯となり明かりを燈す。金火の尾、嘶く遠雷、無明の根、梳いて束ねて撚り合わせるは金剛堅固の無縫の衣』
道祖土流・霊印投写妙法術【陸式・呪言緤歌】
言葉に宿る力を練り上げ対象の強化する術は、本来『霊気写法』で顕現した【あやかし】の為に考案されたものだ。
通常の言霊と違うのは“道祖土の顕現させた【あやかし】”にのみ使用するという誓約があること……。この縛りにより効果は更に引き上げられる。
虚鬼となったスミジはその条件に該当する。しかし、実際に陸式を虚鬼に使うのはこれが初めてのこと……。どこまで有効かは分からないが賭けに出るしかないのもまた事実……。
斯くして言霊の効果は目に見える形で発動した。火炎光背の霊力は羽衣へと形状を変え【虚鬼】の腕に巻き付いてゆく。これにより膂力は更に高まり拳は不壊の鎚として振るわれた。
『おのれ……! まだ力を増すか!?』
『終わりだ牛鬼……。お前は現世に住まうには強力過ぎる……。だが、帰ることを拒んだ以上討滅するしかない』
『ぐがぁ!!』
虚鬼の……スミジの拳はやがて一方的な力を発揮し、牛鬼はその体の維持が困難になり始める。殴られた部位は黒い霧へと変化し散ったまま戻らなくなった。
少しづつ……しかし確実に牛鬼はその身体が崩されてゆく。それでも完全に粉砕されまいとその身を凝縮し攻撃を耐え続けている。
そこで牛鬼は……虚鬼の流す血の涙に気付く。
『愚かな……。まだ討滅を躊躇うか』
『………』
『この大妖たる牛鬼へ憐憫を向けるとは……その脆弱な心でこの牛鬼を討とうなど片腹痛いわ! 嘗めるな、道祖土ォォォォ━━━ッ!!』
虚鬼の右手首を掴み拳を止めた牛鬼は右腕にて渾身の一撃を返した。顔を殴られ大きく態勢を揺らしたスミジだが、直ぐ様トドメを刺す為に左腕を振るう……。
しかし、その瞬間──突然何かが裂けるような音がした。
あとほんの一撃……それで牛鬼は討滅された筈だ。だが、それもまた宿命か……。
裂けたのは虚鬼の胸……縦に亀裂の入った黒い洞の中から元の姿をしたスミジが姿を現した。そしてそのまま砂地へ落下……残された虚鬼の身体は爆ぜる様に黒い霧となり竜巻に飲まれ消え失せる。
まるで申し合わせる様に石槌山法起坊の竜巻も砂塵を散らし消滅した。
立って居るのは牛鬼のみ……。それを確認した心源、蒼禅、筧の三名は歯嚙みするしかない。
「くっ……! 道祖土の奥の手ってのも通じなかったのか!?」
「いや……良く見ろ、心源殿。あの牛鬼の身体の小ささを……。あと一押しだ……あと一手で討滅できるまで疲弊している。しかし……」
体力はともかくまだ霊力の回復が間に合わない。それでも三人は、無理矢理身体を奮い立たせ牛鬼を討伐する為に足掻く。
「道祖土……まだ死なせねぇぞ! 死ぬには歳の順番ってのがあんだよ!」
心源は錫杖を拾い上げ支えにして立ち上がる。同じように蒼禅は利剣を、筧は鞘に納めた太刀を支えに歩みを進める。
「道祖土殿のくれたこの好機! 己の未熟が不甲斐ない……!」
「それは私も同意見だ、蒼禅殿……。今この機を逃して何の為の祓い師か……!」
三人を動かしているのは祓い師としての執念……。
だが──それでも人間である以上、限界は存在する。
牛鬼は今まさにスミジへと手を伸ばしその命を刈り取ろうとしている。祓い師達には最早それを止める術は残されていなかった……。
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