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◆第六章 古き大妖◆
第五十七話 牛鬼の油断
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『クックック! 最後のは肝を冷やしたぞ……。だが、残ったのはこの我……牛鬼だ!』
迫る牛鬼の手……既に人間程まで縮んだ牛鬼ではあるが、まだ人を縊るだけの力は残っている。そしてその身体は僅かながら増大を始めていた。
インターネットを利用した【牛鬼】という存在への認識は今もってして広がり続けている。その力の回復も例を見ない速度となっているのだろう。ここで倒さねば戦い全てが無駄となり更なる犠牲者も増える。
「く……そ……」
『ハハハハハ! 勝負を急いたな、道祖土!』
迫る牛鬼の手……倒れたまま身動ぎもできぬスミジの頬に鋭き爪が触れる。
しかし──。
命運が尽きるかと思われたその時……場の誰も想像せぬことが起こった。
『む……? 何だ……?』
牛鬼の傍に現れたのはスミジが霊気写法にて顕現させたままだった【あやかし】……。
「は……はき……がみ……?」
同じく顕現させた河童は既に消えている。が……何が原因か【箒神】は顕現させた後も長らく残っていた。
【箒神】は場の浄化に加え霊力の尽きた筧椿姫を避難させる際にも役目を果たしている。しかし……本来ならばスミジが与えた霊力も尽き消えている頃合い。未だ顕現できている理由がスミジ当人にも分からない。
『……。道祖土が顕現させたあやかしか……。だが、この程度の小妖……』
牛鬼は腕を振り払う様に爪で斬り裂こうとした……しかし、【箒神】はくるくると回りながらこれをヒラリと躱す。
柳が風で揺れるように、綿毛が手を擦り抜けるように──【箒神】はスルリスルリと牛鬼を翻弄する。一撃でも当たれば霧散するだろう頼りなき箒の化身は、それでも無事なまま牛鬼に纏わり続けた。
『おのれ……! 道祖土の生み出した偽物の分際で……!』
この時、既に勝ちを確信していた牛鬼は狡猾さを欠いていた……。
【箒神】はスミジが術で顕現させた存在に過ぎない。つまりスミジを仕留めさえすれば【箒神】は即座に只の墨へと戻る。
だが、牛鬼は自らの力で道祖土を……正確にはスミジを打ち破った訳ではない。故に目の前の【あやかしもどき】さえ引き裂けないことに憤慨したのだ。
この時、牛鬼はスミジから意識を逸した。最早立つことすら儘ならない相手よりも動き回る存在の方が敵に相応しかった為──。
そしてこれこそが牛鬼最大の油断。この因果によりスミジは命を拾い、大妖たる牛鬼は倒されることとなる。
「う……。な……、んだ?」
牛鬼が箒神に翻弄されている間、スミジは不思議な気配を感じ続けていた。何かに見られている、そして語り掛けられている気配……。
(法起坊……じゃない。何……だ……?)
意識を集中し元を辿れば、それは牛鬼と対峙している【箒神】からのもの……。
(顕現した【あやかし】に意識……? いや、確かにあることはあるけど……これはもっと強い……。こんなことは初めてだ)
幽世から力を借りる以上、その意識の一部も霊気写法に宿る。それは朧気だからこそスミジの意思に従うのだ。
だが、今感じているのは自我に近い強い意志……。道祖土の術にそこまでの効果はない。
そこでふと法起坊の言葉が過ぎる。この戦いに挑む前、石鎚山にて言われたこと……。
『鍵は【あやかし】の伝承にある──』
それは牛鬼伝承に於ける討伐手段のことだとスミジは思っていた。伝承にある法螺貝、銃弾、真言による討滅……しかし、伝承と同様の手段を使用した心源、蒼禅、そして筧でも討伐は叶わなかった。つまり、スミジは思い違いをしていることになる。
(……。じゃあ……一体何なんだ……。箒神から伝わる意志に何か関係があるのか……?)
迫る牛鬼の手……既に人間程まで縮んだ牛鬼ではあるが、まだ人を縊るだけの力は残っている。そしてその身体は僅かながら増大を始めていた。
インターネットを利用した【牛鬼】という存在への認識は今もってして広がり続けている。その力の回復も例を見ない速度となっているのだろう。ここで倒さねば戦い全てが無駄となり更なる犠牲者も増える。
「く……そ……」
『ハハハハハ! 勝負を急いたな、道祖土!』
迫る牛鬼の手……倒れたまま身動ぎもできぬスミジの頬に鋭き爪が触れる。
しかし──。
命運が尽きるかと思われたその時……場の誰も想像せぬことが起こった。
『む……? 何だ……?』
牛鬼の傍に現れたのはスミジが霊気写法にて顕現させたままだった【あやかし】……。
「は……はき……がみ……?」
同じく顕現させた河童は既に消えている。が……何が原因か【箒神】は顕現させた後も長らく残っていた。
【箒神】は場の浄化に加え霊力の尽きた筧椿姫を避難させる際にも役目を果たしている。しかし……本来ならばスミジが与えた霊力も尽き消えている頃合い。未だ顕現できている理由がスミジ当人にも分からない。
『……。道祖土が顕現させたあやかしか……。だが、この程度の小妖……』
牛鬼は腕を振り払う様に爪で斬り裂こうとした……しかし、【箒神】はくるくると回りながらこれをヒラリと躱す。
柳が風で揺れるように、綿毛が手を擦り抜けるように──【箒神】はスルリスルリと牛鬼を翻弄する。一撃でも当たれば霧散するだろう頼りなき箒の化身は、それでも無事なまま牛鬼に纏わり続けた。
『おのれ……! 道祖土の生み出した偽物の分際で……!』
この時、既に勝ちを確信していた牛鬼は狡猾さを欠いていた……。
【箒神】はスミジが術で顕現させた存在に過ぎない。つまりスミジを仕留めさえすれば【箒神】は即座に只の墨へと戻る。
だが、牛鬼は自らの力で道祖土を……正確にはスミジを打ち破った訳ではない。故に目の前の【あやかしもどき】さえ引き裂けないことに憤慨したのだ。
この時、牛鬼はスミジから意識を逸した。最早立つことすら儘ならない相手よりも動き回る存在の方が敵に相応しかった為──。
そしてこれこそが牛鬼最大の油断。この因果によりスミジは命を拾い、大妖たる牛鬼は倒されることとなる。
「う……。な……、んだ?」
牛鬼が箒神に翻弄されている間、スミジは不思議な気配を感じ続けていた。何かに見られている、そして語り掛けられている気配……。
(法起坊……じゃない。何……だ……?)
意識を集中し元を辿れば、それは牛鬼と対峙している【箒神】からのもの……。
(顕現した【あやかし】に意識……? いや、確かにあることはあるけど……これはもっと強い……。こんなことは初めてだ)
幽世から力を借りる以上、その意識の一部も霊気写法に宿る。それは朧気だからこそスミジの意思に従うのだ。
だが、今感じているのは自我に近い強い意志……。道祖土の術にそこまでの効果はない。
そこでふと法起坊の言葉が過ぎる。この戦いに挑む前、石鎚山にて言われたこと……。
『鍵は【あやかし】の伝承にある──』
それは牛鬼伝承に於ける討伐手段のことだとスミジは思っていた。伝承にある法螺貝、銃弾、真言による討滅……しかし、伝承と同様の手段を使用した心源、蒼禅、そして筧でも討伐は叶わなかった。つまり、スミジは思い違いをしていることになる。
(……。じゃあ……一体何なんだ……。箒神から伝わる意志に何か関係があるのか……?)
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