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◆第六章 古き大妖◆
第五十八話 鍵は伝承
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法起坊は牛鬼の目的が【塵輪鬼】とも言っていた。それは力を集め塵輪鬼に戻ることだと考えていたが、牛鬼は塵輪鬼の周知ではなく牛鬼としての認識を広めることに終始していた様な口振りだった。
確かに塵輪鬼の知名度は牛鬼に比べるとかなり低い。文献が残されていてもやはり『牛鬼』という存在の方が人々の認識は強いのだ。
(もしかして牛鬼は、自分の散った身体だけでなく塵輪鬼の身体も『牛鬼』として一つにしようとしてるのか?)
古き時代、仲哀天皇の矢を受け討ち果たされた塵輪鬼はバラバラとなり海に落ち、首が鬼島(黄島)、尻が黒島、尾が青島となったという。
そして同じように、過去討伐された牛鬼も黒島、中ノ小島、端ノ小島となったと伝わっている。
それらに散った霊気全てを集め、『牛鬼』という存在を基に重ねれば更なる力を得ることができる。元が同じ存在である以上、目論見は恐らく容易に叶うだろう。
それは今の牛鬼よりも更に強力な【あやかし】の誕生──つまりは現世にさえ猛威を振るい続けることも可能となる。
【齎されるのは『あやかしの溢れる闇深き時代』の再来──】
闇は人の想像を掻き立てる。そして牛鬼の膨大な霊気に触発され新旧問わず【あやかし】が世に放たれるだろう。それはもう現世が幽世と繋がると言っても過言ではない。
だからこそ……法起坊は現世の理を維持する為に間接的にせよ手を貸したと思われる。
だが、やはり祓い師が総出で対処すべき事案ではなかったのかとスミジは思わずには居られない。
(いや……牛鬼の狡猾さを考えれば大規模な罠は読まれていたということなのか……。どのみち、この島の大きさや足場ではそれ程大人数も連れて来られない)
何より、牛鬼との戦いに同行できる程の実力者を急に召集することも容易ではない。本来指示する側の筧が参じたことからもその辺りは察して余りある。
有象無象では却って足手まといにしかならない。そう考えれば人選は限界がある。
つまりは現状こそが最善手……スミジは己の置かれた状況を省みて笑うしかない。
(ハハハ……。全く……アカリちゃんから離れたところでこんな目に遭うとはね……)
アカリとの約束を果たさないまま死ぬ訳にはいかない──そう自覚したスミジは考えを素早く切り替える。
(石鎚山法起坊は伊庭さんの心を汲んだ。人の道理も心も理解している存在がむざむざ俺達を死なせるとは思えない。言葉を信じるなら鍵は俺……道祖土の術だ)
伝承にある牛鬼退治……それを再現するには住吉三神を顕現させる必要がある。とはいうものの、スミジは一度見たものしか顕現できない。
加えて……神の顕現という領域は非常に複雑で繊細な条件が加わることも多い。スミジも明確な神を模した霊気写法は使うことは出来ず、辛うじて使えるのが金翅鳥だけだった。そして、樹神や箒神はどちらかといえば付喪神や精霊の部類に入る。
つまり……スミジは住吉三神を描くことはできない……。
(……。だけど、現状には必ず意味がある。考えろ……。塵輪鬼、牛鬼、住吉三神、仲哀天皇、神功皇后……)
倒れ伏しながら牛鬼へと目を向ければ【箒神】は未だ攻撃を躱し続けていた。
(箒神……ははきがみ……。……。箒神の存在は……)
そこでスミジはその問いに行き当たる。
(箒は母木……。産道を祓い清める安産の神でもあったな……。確か……母木は……)
母木の産神は神功皇后だとも言われている。ここで箒神と神功皇后の伝承が繋がりを見せた。
(……。箒神と神功皇后が同一の神性を宿すなら或いは……。でも、そんなことが本当に可能なのか……?)
同じ繋がりがあっても呼び出したのは【箒神】としての権能。神功皇后とはまるで別の作用を持つ存在である。
そしてスミジは神としての神功皇后を知らない。息長帯比売、気長足姫、大帯姫、聖母大菩薩……八幡神社に祀られる神功皇后全ての姿を知らないのだ。
それを僅かな繋がりを元に【箒神】から変化させようなど到底できるとは思えなかった。
(そもそも霊気写法で顕現させた【あやかし】さえ途中で変化させたことが無いんだ。霊力もほぼ空……立ち上がることもできない。今の俺に何ができる……)
確かに塵輪鬼の知名度は牛鬼に比べるとかなり低い。文献が残されていてもやはり『牛鬼』という存在の方が人々の認識は強いのだ。
(もしかして牛鬼は、自分の散った身体だけでなく塵輪鬼の身体も『牛鬼』として一つにしようとしてるのか?)
古き時代、仲哀天皇の矢を受け討ち果たされた塵輪鬼はバラバラとなり海に落ち、首が鬼島(黄島)、尻が黒島、尾が青島となったという。
そして同じように、過去討伐された牛鬼も黒島、中ノ小島、端ノ小島となったと伝わっている。
それらに散った霊気全てを集め、『牛鬼』という存在を基に重ねれば更なる力を得ることができる。元が同じ存在である以上、目論見は恐らく容易に叶うだろう。
それは今の牛鬼よりも更に強力な【あやかし】の誕生──つまりは現世にさえ猛威を振るい続けることも可能となる。
【齎されるのは『あやかしの溢れる闇深き時代』の再来──】
闇は人の想像を掻き立てる。そして牛鬼の膨大な霊気に触発され新旧問わず【あやかし】が世に放たれるだろう。それはもう現世が幽世と繋がると言っても過言ではない。
だからこそ……法起坊は現世の理を維持する為に間接的にせよ手を貸したと思われる。
だが、やはり祓い師が総出で対処すべき事案ではなかったのかとスミジは思わずには居られない。
(いや……牛鬼の狡猾さを考えれば大規模な罠は読まれていたということなのか……。どのみち、この島の大きさや足場ではそれ程大人数も連れて来られない)
何より、牛鬼との戦いに同行できる程の実力者を急に召集することも容易ではない。本来指示する側の筧が参じたことからもその辺りは察して余りある。
有象無象では却って足手まといにしかならない。そう考えれば人選は限界がある。
つまりは現状こそが最善手……スミジは己の置かれた状況を省みて笑うしかない。
(ハハハ……。全く……アカリちゃんから離れたところでこんな目に遭うとはね……)
アカリとの約束を果たさないまま死ぬ訳にはいかない──そう自覚したスミジは考えを素早く切り替える。
(石鎚山法起坊は伊庭さんの心を汲んだ。人の道理も心も理解している存在がむざむざ俺達を死なせるとは思えない。言葉を信じるなら鍵は俺……道祖土の術だ)
伝承にある牛鬼退治……それを再現するには住吉三神を顕現させる必要がある。とはいうものの、スミジは一度見たものしか顕現できない。
加えて……神の顕現という領域は非常に複雑で繊細な条件が加わることも多い。スミジも明確な神を模した霊気写法は使うことは出来ず、辛うじて使えるのが金翅鳥だけだった。そして、樹神や箒神はどちらかといえば付喪神や精霊の部類に入る。
つまり……スミジは住吉三神を描くことはできない……。
(……。だけど、現状には必ず意味がある。考えろ……。塵輪鬼、牛鬼、住吉三神、仲哀天皇、神功皇后……)
倒れ伏しながら牛鬼へと目を向ければ【箒神】は未だ攻撃を躱し続けていた。
(箒神……ははきがみ……。……。箒神の存在は……)
そこでスミジはその問いに行き当たる。
(箒は母木……。産道を祓い清める安産の神でもあったな……。確か……母木は……)
母木の産神は神功皇后だとも言われている。ここで箒神と神功皇后の伝承が繋がりを見せた。
(……。箒神と神功皇后が同一の神性を宿すなら或いは……。でも、そんなことが本当に可能なのか……?)
同じ繋がりがあっても呼び出したのは【箒神】としての権能。神功皇后とはまるで別の作用を持つ存在である。
そしてスミジは神としての神功皇后を知らない。息長帯比売、気長足姫、大帯姫、聖母大菩薩……八幡神社に祀られる神功皇后全ての姿を知らないのだ。
それを僅かな繋がりを元に【箒神】から変化させようなど到底できるとは思えなかった。
(そもそも霊気写法で顕現させた【あやかし】さえ途中で変化させたことが無いんだ。霊力もほぼ空……立ち上がることもできない。今の俺に何ができる……)
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