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◆第六章 古き大妖◆
第五十九話 道祖土の真髄
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そこでスミジの頭に過ぎったのは遠く幼い頃の記憶……残暑の中、家の縁側にて交わしたの祖父との会話だった。
『ねぇ、爺ちゃん……。何で僕は【あやかし】なんて視えるの?』
『何だ、藪から棒に……』
『だって、他の人には見えないんだよ? 誰に言っても信じてもらえないし、皆は触ることもできないし……。だから“そんなのはいない”って嘘つき呼ばわりされた』
『………』
祖父は表情を変えなかった……が、スミジの頭を荒々しく撫でた。
『スミジ……。目に見えないものは存在しないのか? お前は空気は見えなくとも呼吸してるだろう?』
『それはそうだけど………』
『世の中には目に見えないが微生物や微粒子だって存在する。ニュートリノなどがそうだな。霊力というものが本当は何なのか……それは儂にもわからん。それは微粒子だと宣う祓い師も居る。儂が思うに、霊力とは……』
『………』
『……少し難しかったか?』
『うん……』
祖父は今度は破顔しスミジの頭を撫でた。
『ハッハッハ。……そうだな。【あやかし】というのは心の形なのだ』
『……?』
『【あやかし】などというのは本当はそのまま存在しないのかもしれない。だが、人の認識が姿を与える。簡単に言うならば人間は【あやかし】にとって親なのだ』
『親って……お父さんやお母さんのこと?』
『そうだ。【あやかし】自体は空気と同じ……。そこにあり人に影響を与えてもすぐに証明をするのは困難だ。だが、世の中には理を探ろうとする者が必ず居る。空気を証明したように、【あやかし】を見ようとした者も居たのだ。そういった者達が【あやかし】を生み出したのだ』
太古より、神も精霊も天使も妖怪もその姿は人の心が生み出した。それを【世界】が覚えていて、少しでも繋がるものがあると何度でも姿を見せるのだと祖父は告げた。
『見えない者にとっては存在しない……それで良い。だがな、スミジ? 儂らには見えているだろう? そして儂らに見えることにも意味がある』
二人の視線の先──道祖土家の庭先では小さな【あやかし】が数体何やらじゃれ合っている。
道祖土の住まう地域には有害な【あやかし】は存在しない。確認する端から封印、または討滅される為である。
しかし、無害な【あやかし】は放置されている。それを知ってか他の地域では存在することが難しい小妖などは寧ろ集まっている程だ。
道祖土は年に一度、そういった【あやかし】達に意思を確認し幽世へ送ることも役目としていた。とはいえ、残ることを希望する【あやかし】を強制的に送る……ということをしなかったのはスミジの祖父の方針だった。
『見える意味……?』
『うむ。【あやかし】が見えることは兆しでもある。その種類によっては天候の変化や災害を知らせてくれる者も居る。人捜しなどでは樹神などは良く働いてくれる。それに……』
『それに……?』
『害ある【あやかし】を退治するにも【あやかし】が力を貸してくれるのでな。道祖土……つまり儂らが視えるのは、特にそれを見分ける為なのだろう』
悪しき【あやかし】、善なる【あやかし】、それを見分け力として借り受けるのが道祖土の流儀……。それは牽いては見えぬ者を救うことに繋がると祖父は誇らしげに口にした。
『……良くわかんないや』
『今はそれで良かろう。ふぅむ……では、こう思えば良い。人間が親で【あやかし】が子供……スミジは父や母から無視されたら悲しかろう?』
『うん……そんなの嫌だよ』
『ならば【あやかし】も同じよ。アヤツらは人の心から生まれた。それはつまり心があるのだ。見えないものを無理に見る必要はないが、見えるのに無視されるのはアヤツらも寂しいだろう。儂らが視てやれることで救われる【あやかし】もいる。お前は【あやかし】が嫌いな訳では無かろう?』
『うん……』
『スミジ……覚えておけ。【あやかし】……いや、【怪異】の姿は人が生み出す。それは道祖土の真髄にも繋がるとな──』
(そうだ……。道祖土流の真髄──それは『疑わぬこと』だ)
【怪異】を描き出すことを主体とする祓い師・道祖土の術。その真髄は他者に視えぬ存在を『疑わぬこと』──その姿こそが確かにそこに在ると信じて疑わぬ心が【怪異】を現世への顕現させることを可能にしているのである。
(どんな姿でも良い……。神功皇后の姿を思い浮かべ信じ切るんだ……)
『ねぇ、爺ちゃん……。何で僕は【あやかし】なんて視えるの?』
『何だ、藪から棒に……』
『だって、他の人には見えないんだよ? 誰に言っても信じてもらえないし、皆は触ることもできないし……。だから“そんなのはいない”って嘘つき呼ばわりされた』
『………』
祖父は表情を変えなかった……が、スミジの頭を荒々しく撫でた。
『スミジ……。目に見えないものは存在しないのか? お前は空気は見えなくとも呼吸してるだろう?』
『それはそうだけど………』
『世の中には目に見えないが微生物や微粒子だって存在する。ニュートリノなどがそうだな。霊力というものが本当は何なのか……それは儂にもわからん。それは微粒子だと宣う祓い師も居る。儂が思うに、霊力とは……』
『………』
『……少し難しかったか?』
『うん……』
祖父は今度は破顔しスミジの頭を撫でた。
『ハッハッハ。……そうだな。【あやかし】というのは心の形なのだ』
『……?』
『【あやかし】などというのは本当はそのまま存在しないのかもしれない。だが、人の認識が姿を与える。簡単に言うならば人間は【あやかし】にとって親なのだ』
『親って……お父さんやお母さんのこと?』
『そうだ。【あやかし】自体は空気と同じ……。そこにあり人に影響を与えてもすぐに証明をするのは困難だ。だが、世の中には理を探ろうとする者が必ず居る。空気を証明したように、【あやかし】を見ようとした者も居たのだ。そういった者達が【あやかし】を生み出したのだ』
太古より、神も精霊も天使も妖怪もその姿は人の心が生み出した。それを【世界】が覚えていて、少しでも繋がるものがあると何度でも姿を見せるのだと祖父は告げた。
『見えない者にとっては存在しない……それで良い。だがな、スミジ? 儂らには見えているだろう? そして儂らに見えることにも意味がある』
二人の視線の先──道祖土家の庭先では小さな【あやかし】が数体何やらじゃれ合っている。
道祖土の住まう地域には有害な【あやかし】は存在しない。確認する端から封印、または討滅される為である。
しかし、無害な【あやかし】は放置されている。それを知ってか他の地域では存在することが難しい小妖などは寧ろ集まっている程だ。
道祖土は年に一度、そういった【あやかし】達に意思を確認し幽世へ送ることも役目としていた。とはいえ、残ることを希望する【あやかし】を強制的に送る……ということをしなかったのはスミジの祖父の方針だった。
『見える意味……?』
『うむ。【あやかし】が見えることは兆しでもある。その種類によっては天候の変化や災害を知らせてくれる者も居る。人捜しなどでは樹神などは良く働いてくれる。それに……』
『それに……?』
『害ある【あやかし】を退治するにも【あやかし】が力を貸してくれるのでな。道祖土……つまり儂らが視えるのは、特にそれを見分ける為なのだろう』
悪しき【あやかし】、善なる【あやかし】、それを見分け力として借り受けるのが道祖土の流儀……。それは牽いては見えぬ者を救うことに繋がると祖父は誇らしげに口にした。
『……良くわかんないや』
『今はそれで良かろう。ふぅむ……では、こう思えば良い。人間が親で【あやかし】が子供……スミジは父や母から無視されたら悲しかろう?』
『うん……そんなの嫌だよ』
『ならば【あやかし】も同じよ。アヤツらは人の心から生まれた。それはつまり心があるのだ。見えないものを無理に見る必要はないが、見えるのに無視されるのはアヤツらも寂しいだろう。儂らが視てやれることで救われる【あやかし】もいる。お前は【あやかし】が嫌いな訳では無かろう?』
『うん……』
『スミジ……覚えておけ。【あやかし】……いや、【怪異】の姿は人が生み出す。それは道祖土の真髄にも繋がるとな──』
(そうだ……。道祖土流の真髄──それは『疑わぬこと』だ)
【怪異】を描き出すことを主体とする祓い師・道祖土の術。その真髄は他者に視えぬ存在を『疑わぬこと』──その姿こそが確かにそこに在ると信じて疑わぬ心が【怪異】を現世への顕現させることを可能にしているのである。
(どんな姿でも良い……。神功皇后の姿を思い浮かべ信じ切るんだ……)
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