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見送りの日
しおりを挟む彼の話を聞いて、わたしは複雑な気持ちだった。
怒りもあったし、悲しくもあった。でも、一番大きかったのは、自分への後悔。もう少し彼に歩み寄っていれば良かった、結局わたしだって、わかってくれないと諦めていたのだから。
「なぜ、その話をわたしに?」
「何故だろうな。……どこか、ジリアナに似ているからかもしれん」
「え……」
心臓がどくんと跳ねる。ジリアナだと気付いているかのような言い方に、焦ってしまう。けれど、彼の視線は穏やかなもので、何も追及してくる様子はない。
「話を聞いてくれて、ありがとう」
静かな声でそういって、彼の姿は闇に紛れ込んだ。最後に見た彼の顔は、薄暗かったけれど、笑っているように見えた――――。
流刑の日、当日。
与えられたのは小さな木舟と僅かな食料と水のみ。大型の船で沖まで出た後、木舟に移される。そこからは、独りで海を漂うことになる。運が良ければどこかの島に行きつくかもしれないけれど、海には獰猛な生き物がいると聞いている。島に辿りつく前に、死んでしまうかもしれない。
…彼に、生きていてほしいのか、死んでほしいのか、わからなくなっている。生まれてきた時はあんなにも復讐してやろうと意気込んでいたのに……。
港に居るのは、お父様と、数人の兵士とエドワードだけ。わたしは少し離れた場所から様子を見ている。お父様は、ギル王子には伝えなかったみたいだ。流しの刑と言うことは、知っているとは思うけれど……息子が逃亡の手助けをしたり、心を痛める事を避けたのだと、思う。お父様はギル王子のことを気に入っているようだから。
「乗れ」
兵士がエドワードに指示をする。静かに、エドワードが舟に乗り込むと、お父様に向かって静かに一礼をして……ゆっくりと舟が動き出す。
どんどん、舟が遠くへと行く。小さくなっていくそれに、目頭が熱くなっていく。
「リア」
「え……っ」
背中から、温かな声が聞こえて。振り向けばフードを被ったギル王子がルナと共に居た。でも、その表情は少しだけ…暗い。
「何故……」
「皇帝陛下がいくら隠したとしても、噂は届いてしまうからね」
繭を下げて笑ったギル王子がわたしの隣に並び立つ。潮風に吹かれて、ギル王子の髪が揺れる。視線は沖に出ている舟をまっすぐに見ている。
……やはり、あんなことがあっても、ギル王子にとっては父親だったことは間違いないのだ。
「…リア?」
「わたしが、居ますわ。ギル王子」
「………ありがとう、リア」
そっと身をギル王子に寄せると、肩に手が回って、ぐっと引き寄せられる。い、いつもこんなに近い距離に来たことはないからドキドキしてしまう。
これから、わたしが彼を支えて…いけばいい。悪しき時代はもう終わったのだから。
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