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自分で世話するは親が世話することになる
しおりを挟む「ダメです。元のところに戻してきなさい」
「えー…」
「キュエー…」
わたしは子鷲を連れて屋敷に戻ってきた。ベレイにも見付かっちゃったし、ここは堂々と屋敷で飼った方が安全だろうと思ったからだ。
そんなわけで玄関から子鷲を連れて入ってきたんだけど、レジェが腕を組んで立っていた。どうやらお見通しらしくわたしが何か言うよりも早くきっぱりと言われてしまったのだ。
わたしと子鷲の残念そうな声が被る。魔物だから、というわけではなさそうだ。
「これ以上妙なペットは見切れないからね」
「じゃあベレイ捨ててくるから…」
「えっいえ、恐らく私ではないかと……」
わたしがペットだと言いたいのか。ぎろりとベレイを睨み付けるが「どっちかは言わないけどさ」とレジェに言われてしまった。
愛くるしいマスコットポジションを目指してはいるがペットと言われるのは心外である。いや、ペットなら働かなくてもいいわけなのでペットでも良いのかもしれない。
「魔物が狩りきれていなかったか……いや」
思考を本題に戻す。大鷲に関してはレジェが指示したものだから残党が居ると治安の為にも困るのだろう。難しい顔をしていたが少し歩み寄って子鷲をまじまじと見詰めると首を傾けた。
「この間の鷲の子供ではないね」
「違うの?」
「幼体だから似ているけど、違うものだね」
嘴が付いてて羽があって……よく見れば確かにちょっと違う、かも?なるほど、みにくいアヒルの子現象か。
それにしてもレジェは見る目がすごいなと感心しつつ、ぎゅうと子鷲(鷲の子供じゃないみたいだけど)を抱きしめる。
「どうしてもダメ?」
「ダメ。世話ちゃんとしないでしょ」
「するよ!お散歩にもちゃんとわたしが行くから!」
「……はぁ」
まるで小学生が親にペットを強請っている時のやり取りである。いや強請っているのだが。
レジェは溜息吐いて、手を顎に添えて考えた後にわたしと子鷲を見て頷く。
「害はなさそうだし……ちゃんと世話をするならいいよ」
「やったぁ!」
「キュエ!」
全部ではないが心を許していることは伝わるんだろう。レジェが仕方なしに許可してくれるときゃっきゃと子鷲と喜ぶ。子供だがかなり頭のいい魔物種のようだ、言葉や感情が通じているように思える。そう考えると、あの時の大鷲の子供とは別の種類だ聞いて納得する。
レジェがわたし達に歩み寄ってくると、怪我に気付いて困った顔をしていた。
「……とりあえず怪我が治るように休ませてやらなきゃね」
「魔法じゃだめなの?」
わたしの言葉に、レジェとベレイが固まる。何かおかしなこと言ってしまっただろうか。
「魔物には聖属性は回復だろうと毒になるんです」
「そうだったんだ…」
だから頑なに怪我を治させようとしなかったのか。…わたしよりも頭が良いんじゃないか、子鷲は。
少しくらいは魔法のことや魔物のことを学んでもいいかと思ったが難しいことを頭に入れるとパンクしそうなので睡眠学習に留めておこう。
「ベレイ、手当てをしてあげるといい。治療セットは倉庫にあるから」
「わかった」
ベレイが離れて、倉庫へと向かう。
わたしの頭を撫でながらもう片方の手で子鷲の嘴を撫でるレジェ。魔物使いという職業がないわけではないが、やはり滅多にないことなのでちょっとだけ困った顔をしていて、我儘を言ったんだということを受け止めさせられる。
「しばらくはこのホールで飼うことにしようか。番犬代わりには丁度良いからね」
「キュエ」
……なんだかんだ、レジェはわたしに甘い気がする。甘やかされて育っている自覚はあるが、今まで受けた事のないほどよい甘さは癖になってしまっている。
(抜け出せないだろうな)
この状態で戦場に駆り出されても望まれるような聖女になることは無理だろう。そもそも魔族とも戦う意思なんて最初からなかったのだが。
ベレイが戻ってきて、怪我の手当てをしてくれると少しだけまた元気になった子鷲に安心する。
飛べるまで時間は掛かるだろう。それまでしっかり休んで貰って、わたしはその間に騎乗できるようにしておこう。
「ホニィ、飼うなら名前を付けてあげないとね。魔物呼びじゃきっと嫌だろう」
確かにそうだ。だが名付けとなると難しい。
じっと子鷲を見上げて首を捻って考える。――あ、そうだ。子鷲が好きなものが思い浮かんで、前世の記憶から単語を引っ張り出してくる。
「…ポム。今日からきみのこと、そう呼ばせてもらうよ」
「キュエ!」
わたしがそう呼ぶと、子鷲――ポムが嬉しそうに鳴いて、わたしも嬉しくて笑った。
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