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31:仲間意識です
しおりを挟む茶色の髪に、ぼろぼろになった帽子をかぶった少年がわたし達を睨み付けている。
いきなり現れて、パンを買うなとは…。
困っていればおじいさんが真っ黒の丸い何かを少年へと投げつける。少年の顔面にヒットしたそれはわたしの足元に転がってきて……見覚えのある黒い物体だ。これは、きっとパンだ。わたしの作ったパンにとてもよく似ている。
「いってえ!なにしやがんだ!」
「おい坊主。客に対してなんて物言いだ」
「うるせえジジイ!俺が焼いたパンどこにやりやがった!」
店主のおじいさんと少年が言い争っている。
上兄様は気にもしていない様子でパンを袋に詰めて、金額を数えてお金を置いているし……。言い争いはどんどん加速している。
「くそジジイ!もう知らねーから!!」
少年が目に涙を浮かべながら出て行ってしまう。手には黒こげになったパンを持っている。
あのパンが少年の作ったものなら、気持ちがとてもわかる。わたしは上兄様の制止も聞かず、思わず少年の後を追って店を出ていた――。
***
「待って!」
「うわっなんだお前!?」
少年は意外と体力がないみたいでちょっと走ったところでぜえはあしているところに追いついて、手首を掴む。
「あ、いきなりごめんなさい…。えっと、そのパン…」
「これがパンってわかるのか!?」
「え?ええ、まあ…」
自分も同じものを作ったから、とは…言えない。少年の瞳はきらきら輝いていて、とても嬉しそうだ。黒焦げだけど、とても強いバターの香りがするそれを見ていれば、視線に気付いた少年がしょんぼりと肩を落とす。
「…これ、こんなのパンじゃねえってあのくそジジイに言われたんだ…何度作ってもどんなもの作っても、認めてくれなくて……」
また認めて貰えない男の子がここに…。
あのおじいさんも、見るからに職人気質の頑固おやじ!って感じの様子だったもんね。隠れたパンの巨匠って感じでかっこいいなあ。
少年はばっと顔を上げると黒焦げのパンを握り締めると、炭が地面にぱらぱら落ちて風に吹かれていく。
「だから!俺、パン大会に出てあのじいさんに認めてもらいたいんだよ!」
パン大会という言葉に反応する。それはわたしが街に来た一番の理由だ。少年の手を両手で掴んでずいっと詰め寄る。
「……パン大会に出るのね?」
「えっあ、そうだけど、あの、近…近ぇ…!」
じりじりと下がる少年に合わせて詰め寄って壁に追いやっていく。少年の背中が壁に付いたところで逃げられないように両手を壁に付くとわたしは真剣な眼差しで少年を見詰める。
少年の顔は真っ赤に染まっていて、今にも火が噴きそうだ。
「わたしと一緒にパン大会に出ましょう!」
「…は?」
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