33 / 44
32:やると決めたらやるんです!
しおりを挟む「パン大会……それが理由なんだね、フィア」
「お兄ちゃん…えっと、そ、それは…」
いつの間にか上兄様が追い付いていた。話を聞かれてしまっていたらしくて、顔がひきつってしまう。
い、いや!悪いことをしようとしてるわけではないし…ね?パン大会に出るくらい許してくれるよね!?
「そうです、お兄ちゃん!わたし、パン大会に出たいんです!」
「まだパン屋になりたいなんて言っているのか…」
溜め息をつく上兄様に、ダメもとで必死にお願いをしてみる。まだも何も、いつか本当の王女がお城に帰ってきた時の為に手に職をつけておかなくちゃいけないのだ。
直ぐにダメだと言われるかと思ったが、上兄様は腕を組んで悩んでいるようだ。
「え、お前あの人と兄妹なのか?全然似てねーなー…」
こそっと少年が言ってくる。実は血が繋がってないのだから似てなくて当然なのだが、改めて言われると、なんだかちょっとだけショックを受けちゃうのはなんでだろう…。
「……うん、いいよ。大会に出てみたら良いんじゃないかな」
「え?」
「出てみなよ、パン大会。母様たちには黙っておいてあげるよ」
…上兄様がこんなことを言ってくれるなんて…。そんなにお兄ちゃんって呼ばれるのが嬉しかったのか?
上兄様が何を企んでいるのか、わたしは知らないまま喜んで「がんばりましょうねっ!」と少年の手を握り締めて笑顔を浮かべていた――――。
***
「あ、俺の名前はマルコってんだ」
「わたしはフィアー……フィア、ですわ」
「フィアな。よろしく。で、そっちのお兄さんは?」
「……クロだよ」
少年…マルコが手を差し出してきて、握手する。
思わずフィアーナと言いそうになってしまった。王女の名前がフィアーナっていうのはさすがに知っているだろうからね。上兄様もクロと親しい人にしか呼ばれない愛称を告げて、わたしの後に握手をしている。
パン屋に入ってきたときはびっくりしたけど、良い子そうで安心する。
「で、本当に出るつもりなのかよ」
…そうだ。勝手にパン大会に出ることにしちゃったけど、そもそもパン大会の出場条件とかわたし何も知らないのよね。誰でも出れる大会っていうのは聞いたことあるんだけど…。
でも…、出たいという気持ちには変わりない。
「はい、わたし出たいんです!」
「そうか、じゃあ二人でがんばろーぜ!」
「はいっ頑張りましょう!」
マルコがすんなりとオーケーしてくれて、嬉しい。
わたしたちは一度パン屋に戻ろうと歩きながら話をする。
「パン大会は二人で一組が出場条件だからな、パートナー探してたとこだったんだよ」
「そうだったんですね…そういえばそうだったかも…?」
漫画のケーキ大会もペアで出場だったっけ…?
アリスと、上兄様と下兄様の三人でやっていたような気もするけど……うろ覚えだ。最近、どんどん前世の記憶が薄れて行ってしまっている気がする。
「親父!帰ったぜ!」
パン屋に着くと、マルコが扉を思い切り開ける。ぼろぼろの扉は乱暴にするたびに外れかけて、ちょっとの刺激があるだけで倒れてしまいそうだ。
おじいさんはぎろりとマルコを睨み付けるだけで、何も言わない。そんなおじいさんにマルコは少しだけ悔しそうに歯を噛み締め、わたしの手を握り締めると一歩前へと出た。
「俺、コイツとパン大会に出るんだ。絶対に優勝する。だから、そん時は俺のパンを認めて、この店に置け」
「……」
おじいさんは、まだ何も言わない。長く伸びたひげを撫でつけて、わたしを睨み付けるように見る。
「お嬢ちゃん、パン作りは甘いもんじゃない」
「…わかってます」
「それでもやるってのか?」
一度やると決めたことを投げ出すのは良くない。
わたしの為にも、一緒にやってくれるマルコのためにも、パン大会に出て頑張りたい!
「はい!」
わたしがはっきりと大きな声で返事をすれば、おじいさんの口元が緩んだ気がした。
「そうかい。なら坊主のこと頼むぞ嬢ちゃん」
「……はいっ」
おじいさんの言葉にわたしとマルコは見合わせて、笑顔で頷く。
こうしてわたしはパン大会に出場することになりました!そして厳しい修行の末に、パン作りを身に付けてみせると、決意するのでした――。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました
ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。
一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。
「大変です……!」
ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。
手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。
◎さくっと終わる短編です(10話程度)
◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
悪役令嬢は反省しない!
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。
性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる