転生悪役王女は平民希望です!

くしゃみ。

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32:やると決めたらやるんです!

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「パン大会……それが理由なんだね、フィア」
「お兄ちゃん…えっと、そ、それは…」

 いつの間にか上兄様が追い付いていた。話を聞かれてしまっていたらしくて、顔がひきつってしまう。
 い、いや!悪いことをしようとしてるわけではないし…ね?パン大会に出るくらい許してくれるよね!?

「そうです、お兄ちゃん!わたし、パン大会に出たいんです!」
「まだパン屋になりたいなんて言っているのか…」

 溜め息をつく上兄様に、ダメもとで必死にお願いをしてみる。まだも何も、いつか本当の王女がお城に帰ってきた時の為に手に職をつけておかなくちゃいけないのだ。
 直ぐにダメだと言われるかと思ったが、上兄様は腕を組んで悩んでいるようだ。

「え、お前あの人と兄妹なのか?全然似てねーなー…」

 こそっと少年が言ってくる。実は血が繋がってないのだから似てなくて当然なのだが、改めて言われると、なんだかちょっとだけショックを受けちゃうのはなんでだろう…。

「……うん、いいよ。大会に出てみたら良いんじゃないかな」
「え?」
「出てみなよ、パン大会。母様たちには黙っておいてあげるよ」

 …上兄様がこんなことを言ってくれるなんて…。そんなにお兄ちゃんって呼ばれるのが嬉しかったのか?

 上兄様が何を企んでいるのか、わたしは知らないまま喜んで「がんばりましょうねっ!」と少年の手を握り締めて笑顔を浮かべていた――――。

***

「あ、俺の名前はマルコってんだ」
「わたしはフィアー……フィア、ですわ」
「フィアな。よろしく。で、そっちのお兄さんは?」
「……クロだよ」

 少年…マルコが手を差し出してきて、握手する。
 思わずフィアーナと言いそうになってしまった。王女の名前がフィアーナっていうのはさすがに知っているだろうからね。上兄様もクロと親しい人にしか呼ばれない愛称を告げて、わたしの後に握手をしている。
 パン屋に入ってきたときはびっくりしたけど、良い子そうで安心する。

「で、本当に出るつもりなのかよ」

 …そうだ。勝手にパン大会に出ることにしちゃったけど、そもそもパン大会の出場条件とかわたし何も知らないのよね。誰でも出れる大会っていうのは聞いたことあるんだけど…。
 でも…、出たいという気持ちには変わりない。

「はい、わたし出たいんです!」
「そうか、じゃあ二人でがんばろーぜ!」
「はいっ頑張りましょう!」

 マルコがすんなりとオーケーしてくれて、嬉しい。
 わたしたちは一度パン屋に戻ろうと歩きながら話をする。

「パン大会は二人で一組が出場条件だからな、パートナー探してたとこだったんだよ」
「そうだったんですね…そういえばそうだったかも…?」

 漫画のケーキ大会もペアで出場だったっけ…?
 アリスと、上兄様と下兄様の三人でやっていたような気もするけど……うろ覚えだ。最近、どんどん前世の記憶が薄れて行ってしまっている気がする。

「親父!帰ったぜ!」

 パン屋に着くと、マルコが扉を思い切り開ける。ぼろぼろの扉は乱暴にするたびに外れかけて、ちょっとの刺激があるだけで倒れてしまいそうだ。

 おじいさんはぎろりとマルコを睨み付けるだけで、何も言わない。そんなおじいさんにマルコは少しだけ悔しそうに歯を噛み締め、わたしの手を握り締めると一歩前へと出た。

「俺、コイツとパン大会に出るんだ。絶対に優勝する。だから、そん時は俺のパンを認めて、この店に置け」
「……」

 おじいさんは、まだ何も言わない。長く伸びたひげを撫でつけて、わたしを睨み付けるように見る。

「お嬢ちゃん、パン作りは甘いもんじゃない」
「…わかってます」
「それでもやるってのか?」

 一度やると決めたことを投げ出すのは良くない。
 わたしの為にも、一緒にやってくれるマルコのためにも、パン大会に出て頑張りたい!

「はい!」

 わたしがはっきりと大きな声で返事をすれば、おじいさんの口元が緩んだ気がした。

「そうかい。なら坊主のこと頼むぞ嬢ちゃん」
「……はいっ」

 おじいさんの言葉にわたしとマルコは見合わせて、笑顔で頷く。
 こうしてわたしはパン大会に出場することになりました!そして厳しい修行の末に、パン作りを身に付けてみせると、決意するのでした――。
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