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34:わたしに出来ることがないんです
しおりを挟む知らなかったけど、上兄様は人にものを教えるのがとても上手だ。アドバイスといっても、上から目線に言うんじゃなくて、こうしてみたらどうだろう?って言い方だからマルコもすんなり受け入れている。
そして、きっとマルコは元々パン作りの才能があったみたい。
わたしにも何かできたらいいのに……パンなんて、前世ではたくさん食べたのに、作り方なんてわかんないもの。教えてもらったし、こうして見ているのに、自分ではうまく作れない……前世もだけど、フィアーナも結構不器用みたい。
「そろそろ帰らないと。フィア」
「……わたし、残ります」
「え?」
上兄様が外を見て、わたしに声を掛ける。裏道っていうのもあるんだろうけど、もう真っ暗になりかけている。流石に真っ暗な中を、護衛も無しに帰るのは危ないと判断したんだろう。
少し考えて、わたしは首を横に振る。上兄様もマルコもびっくりしているけど、このまま食べる専門になるのは嫌だった。わたしだって何かしたい!
「フィア、拗ねないで」
「す、拗ねてなんかありませんわ!」
上兄様がわたしの気持ちを察してか、しゃがんでわたしと視線を合わせてくれる。まるで我儘な妹に言い聞かせるような口ぶりだ。…我儘を言ってはいるんだけど。
「とにかく、今日は帰ろう。遅くなったら僕が叱られるんだから」
「ひゃっ!?う、上兄様!?」
上兄様は大分急いでいるみたいだ。わたしはここから動くつもりはないと思っていたのを見透かされて、軽々と担がれてしまった。
マルコは少しぽかんとわたし達のやり取りを見た後に、はっとして「じゃあ、また明日な」と手を振った。いやそうじゃなくて助けてってばー!
わたしがじたばたしても上兄様はびくともしない。パン屋を出てさっさと来た道を戻っている。
「嫌ですー!わたしは立派なパン屋になるべくここで修行するんですわー!」
「はいはい、それはまた今度の機会ね」
案外奥深いところまでは行ってなかったようだ。すぐに表通りまで来れば目の前に馬車が止まっている。……お城の馬車だ。上兄様が路地裏に来る前にアイコンタクトをしていたのは気のせいじゃなかったか。
「さ、帰るよフィアーナ」
「うう……」
不満げなわたしを見て上兄様は困ったように溜息を吐く。
馬車の扉が開かれて、わたしを乗せてから上兄様も乗り込んでくる。
「フィア、何もパンを作るだけが職人ではないだろう?」
「…?どういうことですの?」
パンを作るだけが職人じゃない…?
……はっ。確かに、試食も大事だよね。せっかく作っても美味しくなかったらパン大会で優勝できないもの!
納得したわたしを見て、ようやく上兄様がほっと息を漏らしていた――。
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