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番外編1:バレンタインデーです!後編
しおりを挟む今日は愛の日当日です!そして、愛の日の一大イベントと言えば、お城を開放しての夜会!
平民も貴族も関係なく参加することのできるこの夜会は、玉の輿に乗るチャンスとして男女ともに人気だ。わたしは平民になりすましてこそーっと参加するくらいだけど。
こうして夜会が開かれると、シンデレラストーリーを彷彿させるなあ。
貴族も平民も目いっぱいおしゃれして、城にぞろぞろと入り込んでいるのを窓から眺める。
「……あら?」
不意に、オレンジ色の頭が見える。あの後ろ姿は…レオだ!誰かと一緒に居るみたいだけど――……ロングストレートの黒髪。バスタ令嬢、だ。
そ、そっかあ。レオは夜会にはバスタ令嬢と一緒に行くんだあ…。
いや別に構いませんけど。わたしはニセモノの王女で仮の婚約者ですから。それに夜会とか好きではありませんし。
レオが乱暴にバスタ令嬢に何かを投げつける。それが何かまではここからじゃ見えなかったけど、……ふ、ふーん…プレゼントまで渡す仲なのかあ…。
愛の日は、大切な人に贈り物をする日だ。
ちくちく胸が痛いのはなんでだろう。別に、レオから貰えなくったっていいのに。
「姫様、ご支度を。……姫様?」
「今、行くわ」
モヤモヤしながら、ドーラに連れられて着替えを済ませる。
白…というよりは、薄く桃色がかったドレスと、同じ色のリボンのついたヒール。
「わぁ…!とっても可愛いわね、でもこんなドレスあったかしら?」
「クロハーラ王子と、ツィンデ王子からの贈り物です」
上兄様と下兄様からか。夜会に合わせて贈ってくれたみたい。
ドーラを含めて数人の侍女に着付けられていく。……ドレスを着る時のコルセットだけはいまだに慣れないけど。
「後でお礼言わなくちゃ」
……ドレスに着替えて、少しだけお化粧をする。鏡の中の自分は、自分のはずなのにまるで自分とは思えないほどの別人ぶりである。
侍女さんたちの腕すごいなー…肌もぴかぴかだし。癖っ毛の髪はきれいにアレンジされているし。この技術をアスフェリオスに教えてあげたら喜びそうだ。
「はい」
コンコン、とノックが聞こえて返事をすれば上兄様と下兄様の姿が。二人ともしっかりタキシードを決めていて…うん。さすが少女漫画だ。二人ともとてもかっこいいけど…王子でかっこよくて、ってなると女の子たちは放っておかないだろう。
「さ、フィアーナ、手を」
「今日だけ特別だからな」
上兄様と下兄様が手を差し出してくる。これは…エスコートしてくれるという意味だろうか。
この二人と一緒に居たら目立ってしまう気もするけど…一日くらいいいか。手を重ねれば、わたしに合わせてゆっくりと歩き出してくれた。
二人にエスコートをされて会場に入れば、わたし達の入場と共に会場がざわめく。
王子の入場なのだから注目を浴びることは当たり前なんだろけど…視線は何故かわたしに集まっている。
もしかして、このドレス似合っていない!?どこか変かしら!?
「ぷっ」
おろおろしているわたしを兄様達が周りにばれないように小さな声で笑う。
「な、なんで笑うんですの」
わたしもまた小さな声で言えば、いつの間にかホールの真ん中へと着いていた。
「いつも地味にしているお姫様があんまりにも綺麗だからみんな驚いてしまっているだけだよ」
「俺たちの見立てたものが似合っていないわけないだろ」
穏やかな顔で笑う上兄様と、誇らしげにしている下兄様。
二人から貰ったものが似合っていると思われているなら嬉しい。
けど……人から注目されることなんて滅多にないものだから、腹痛と頭痛と吐き気がものすごいんですけど!
キリキリしているお腹に耐えていれば、綺麗な音楽が流れ始めて。
下兄様が少し離れると、上兄様がわたしの腰に手を添えてステップを踏み出す。
こんな注目を集めている状態でのダンスは緊張してしまうんだけど…!
「仕方ないな、フィアは」
わたしのぎこちないステップに気付いた上兄様が、笑うとすう、と息を吸った。
「さあ、皆様も一緒に!」
ゆっくりしたステップで踊りながら上兄様が声を響かせると、自然とカップルができて、わたしたちを中心にダンスが始まる。
視線はわたしにはもう集まっていない。気遣って踊りやすくしてくれた…んだよね?
「ありがとうございます、上兄様」
「流石に王族がダンス下手なんて思われたくないからね」
さらりと毒づかれて何も言えなくなってしまった…。
ひとり、またひとり音楽に乗ってステップを踏み始める。視線を向けてみればみんな笑顔を浮かべている。
賑やかで、楽しい夜会が、こうして始まった。
曲の途中で上兄様が下兄様と交代する。周りからは「仲の良い王族だな」と感心している声が聞こえてきた。
…二人の本当の妹じゃないけど、仲がいいと周りからも思われているのはとても嬉しい。
一曲終わる頃には緊張もだいぶ解れた。でも兄様たちに合わせて踊るのはやっぱりレベルが違いすぎて疲れるというか…少し休みたい。
そう思っていたのに、下兄様が離れるなり複数の男性に囲まれてしまった…!
「姫、よろしければ私と一曲」
「いや、私と是非!」
「次は私が!」
随分と積極的な男性たちに圧倒されてしまって、兄様たちに助けを求めようとしたけど二人もたくさんの女性から言い寄られているのが視界の端で見えた。
「えっえっ!?いや、わたしは…」
断ろうとして、一歩下がれば誰かに手を掴まれた。
「こっちだ!」
「れ、レオ様!?」
わたしの手を掴んだのは、レオだった。引っ張られて会場を飛び出せば誰もいない庭園へと連れ出されていた。
「あ、あの、レオ様?」
庭園に来るまで無言で早足で進んでいたレオが、ようやく振り返ってわたしを見てくれた。
「……言い寄られてんじゃねえよ、どんくせーな」
「え、あ、えと、すみません…?」
拗ねたような顔をしているレオ。…もしかして、やきもち?
で、でも、レオだってバスタ令嬢にプレゼント贈っていたくらいだから…。あれ?会場でバスタ令嬢の姿見かけなかったような…。
「バスタ令嬢とご一緒なのではなかったのですか?」
「あいつならさっさと帰したけど。欲しい欲しいって毎度うるせえから渡すもんだけ渡して」
「そう、なのですか…」
あの子とレオが一緒に居なくて、嬉しいだなんて思ってしまう。わたしってば嫌な子だ…。
「……これ」
レオがぶっきらぼうに何かを差し出してきてくれたのは…。
「花冠?」
「花好きなんだろ?あん時も喜んでたし」
あのとき…というと、初めてレオに花束を貰ったときのこと、かな。確かにすごい嬉しかった…。
今も、すごく嬉しい。どうしよう、にやけて変な顔になってないかな!?
「…うん、可愛いな」
レオがわたしの頭に花冠を乗せて笑う。少しだけ熱く感じる手が、頬に触れて…真っ直ぐな視線が絡み合う。
まるで、ずっと時間が止まっているように感じた。
見詰めあったまま、レオの顔が少しずつ近付いてきて――――
「さあ、第二会場はこちらです!」
触れてしまいそうになるまであと少し、というところで夜会を案内する執事の声が庭園に響いて、どちらからともなくばっと距離が開く。
どうやら今年は例年以上の集まりで人が入りきらないので会場を広げたらしい。
庭園にぞろぞろと人が集まってきて、音楽が流れ始める。
あ、あのまま人が来なかったら?残念、なような。ほっとしたような。
ドキドキと胸の鼓動がうるさい。
レオをちらりと見れば目があって、二人で笑ってしまう。
「踊るか」
「はい、そうですね」
差し出された手を握り締めて、ゆったりとステップを踏み始める。
「ねえ、あの頭に乗っかっている冠可愛いわ」
「ええ、とてもお洒落ね」
ひそひそと女の子達がわたしを見て話している。
…それから、花冠が国中ではやりだしたのは、また別のお話。
~~
次回から本編に戻ります。
お付き合いいただきありがとうございました!
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