転生悪役王女は平民希望です!

くしゃみ。

文字の大きさ
41 / 44

番外編1:バレンタインデーです!後編

しおりを挟む

 今日は愛の日当日です!そして、愛の日の一大イベントと言えば、お城を開放しての夜会!
 平民も貴族も関係なく参加することのできるこの夜会は、玉の輿に乗るチャンスとして男女ともに人気だ。わたしは平民になりすましてこそーっと参加するくらいだけど。
 こうして夜会が開かれると、シンデレラストーリーを彷彿させるなあ。

 貴族も平民も目いっぱいおしゃれして、城にぞろぞろと入り込んでいるのを窓から眺める。

「……あら?」

 不意に、オレンジ色の頭が見える。あの後ろ姿は…レオだ!誰かと一緒に居るみたいだけど――……ロングストレートの黒髪。バスタ令嬢、だ。
 そ、そっかあ。レオは夜会にはバスタ令嬢と一緒に行くんだあ…。
 いや別に構いませんけど。わたしはニセモノの王女で仮の婚約者ですから。それに夜会とか好きではありませんし。

 レオが乱暴にバスタ令嬢に何かを投げつける。それが何かまではここからじゃ見えなかったけど、……ふ、ふーん…プレゼントまで渡す仲なのかあ…。

 愛の日は、大切な人に贈り物をする日だ。
 ちくちく胸が痛いのはなんでだろう。別に、レオから貰えなくったっていいのに。

「姫様、ご支度を。……姫様?」
「今、行くわ」

 モヤモヤしながら、ドーラに連れられて着替えを済ませる。
 白…というよりは、薄く桃色がかったドレスと、同じ色のリボンのついたヒール。

「わぁ…!とっても可愛いわね、でもこんなドレスあったかしら?」
「クロハーラ王子と、ツィンデ王子からの贈り物です」

 上兄様と下兄様からか。夜会に合わせて贈ってくれたみたい。
 ドーラを含めて数人の侍女に着付けられていく。……ドレスを着る時のコルセットだけはいまだに慣れないけど。

「後でお礼言わなくちゃ」

 ……ドレスに着替えて、少しだけお化粧をする。鏡の中の自分は、自分のはずなのにまるで自分とは思えないほどの別人ぶりである。
 侍女さんたちの腕すごいなー…肌もぴかぴかだし。癖っ毛の髪はきれいにアレンジされているし。この技術をアスフェリオスに教えてあげたら喜びそうだ。

「はい」

 コンコン、とノックが聞こえて返事をすれば上兄様と下兄様の姿が。二人ともしっかりタキシードを決めていて…うん。さすが少女漫画だ。二人ともとてもかっこいいけど…王子でかっこよくて、ってなると女の子たちは放っておかないだろう。

「さ、フィアーナ、手を」
「今日だけ特別だからな」

 上兄様と下兄様が手を差し出してくる。これは…エスコートしてくれるという意味だろうか。
 この二人と一緒に居たら目立ってしまう気もするけど…一日くらいいいか。手を重ねれば、わたしに合わせてゆっくりと歩き出してくれた。


 二人にエスコートをされて会場に入れば、わたし達の入場と共に会場がざわめく。
 王子の入場なのだから注目を浴びることは当たり前なんだろけど…視線は何故かわたしに集まっている。

 もしかして、このドレス似合っていない!?どこか変かしら!?

「ぷっ」

 おろおろしているわたしを兄様達が周りにばれないように小さな声で笑う。

「な、なんで笑うんですの」

 わたしもまた小さな声で言えば、いつの間にかホールの真ん中へと着いていた。

「いつも地味にしているお姫様があんまりにも綺麗だからみんな驚いてしまっているだけだよ」
「俺たちの見立てたものが似合っていないわけないだろ」

 穏やかな顔で笑う上兄様と、誇らしげにしている下兄様。

 二人から貰ったものが似合っていると思われているなら嬉しい。
 けど……人から注目されることなんて滅多にないものだから、腹痛と頭痛と吐き気がものすごいんですけど!

 キリキリしているお腹に耐えていれば、綺麗な音楽が流れ始めて。

 下兄様が少し離れると、上兄様がわたしの腰に手を添えてステップを踏み出す。
 こんな注目を集めている状態でのダンスは緊張してしまうんだけど…!

「仕方ないな、フィアは」

 わたしのぎこちないステップに気付いた上兄様が、笑うとすう、と息を吸った。

「さあ、皆様も一緒に!」

 ゆっくりしたステップで踊りながら上兄様が声を響かせると、自然とカップルができて、わたしたちを中心にダンスが始まる。
 視線はわたしにはもう集まっていない。気遣って踊りやすくしてくれた…んだよね?

「ありがとうございます、上兄様」
「流石に王族がダンス下手なんて思われたくないからね」

 さらりと毒づかれて何も言えなくなってしまった…。

 ひとり、またひとり音楽に乗ってステップを踏み始める。視線を向けてみればみんな笑顔を浮かべている。
 賑やかで、楽しい夜会が、こうして始まった。

 曲の途中で上兄様が下兄様と交代する。周りからは「仲の良い王族だな」と感心している声が聞こえてきた。
 …二人の本当の妹じゃないけど、仲がいいと周りからも思われているのはとても嬉しい。

 一曲終わる頃には緊張もだいぶ解れた。でも兄様たちに合わせて踊るのはやっぱりレベルが違いすぎて疲れるというか…少し休みたい。
 そう思っていたのに、下兄様が離れるなり複数の男性に囲まれてしまった…!

「姫、よろしければ私と一曲」
「いや、私と是非!」
「次は私が!」

 随分と積極的な男性たちに圧倒されてしまって、兄様たちに助けを求めようとしたけど二人もたくさんの女性から言い寄られているのが視界の端で見えた。

「えっえっ!?いや、わたしは…」

 断ろうとして、一歩下がれば誰かに手を掴まれた。

「こっちだ!」
「れ、レオ様!?」

 わたしの手を掴んだのは、レオだった。引っ張られて会場を飛び出せば誰もいない庭園へと連れ出されていた。

「あ、あの、レオ様?」

 庭園に来るまで無言で早足で進んでいたレオが、ようやく振り返ってわたしを見てくれた。

「……言い寄られてんじゃねえよ、どんくせーな」
「え、あ、えと、すみません…?」

 拗ねたような顔をしているレオ。…もしかして、やきもち?
 で、でも、レオだってバスタ令嬢にプレゼント贈っていたくらいだから…。あれ?会場でバスタ令嬢の姿見かけなかったような…。

「バスタ令嬢とご一緒なのではなかったのですか?」
「あいつならさっさと帰したけど。欲しい欲しいって毎度うるせえから渡すもんだけ渡して」
「そう、なのですか…」

 あの子とレオが一緒に居なくて、嬉しいだなんて思ってしまう。わたしってば嫌な子だ…。

「……これ」

 レオがぶっきらぼうに何かを差し出してきてくれたのは…。

「花冠?」
「花好きなんだろ?あん時も喜んでたし」

 あのとき…というと、初めてレオに花束を貰ったときのこと、かな。確かにすごい嬉しかった…。
 今も、すごく嬉しい。どうしよう、にやけて変な顔になってないかな!?

「…うん、可愛いな」

 レオがわたしの頭に花冠を乗せて笑う。少しだけ熱く感じる手が、頬に触れて…真っ直ぐな視線が絡み合う。

 まるで、ずっと時間が止まっているように感じた。

 見詰めあったまま、レオの顔が少しずつ近付いてきて――――

「さあ、第二会場はこちらです!」

 触れてしまいそうになるまであと少し、というところで夜会を案内する執事の声が庭園に響いて、どちらからともなくばっと距離が開く。
 どうやら今年は例年以上の集まりで人が入りきらないので会場を広げたらしい。

 庭園にぞろぞろと人が集まってきて、音楽が流れ始める。

 あ、あのまま人が来なかったら?残念、なような。ほっとしたような。
 ドキドキと胸の鼓動がうるさい。

 レオをちらりと見れば目があって、二人で笑ってしまう。

「踊るか」
「はい、そうですね」

 差し出された手を握り締めて、ゆったりとステップを踏み始める。

「ねえ、あの頭に乗っかっている冠可愛いわ」
「ええ、とてもお洒落ね」

 ひそひそと女の子達がわたしを見て話している。

 …それから、花冠が国中ではやりだしたのは、また別のお話。

~~

次回から本編に戻ります。
お付き合いいただきありがとうございました!
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。 一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。 「大変です……!」 ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。 手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。 ◎さくっと終わる短編です(10話程度) ◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

処理中です...